ショートショート作品/スローバラード


この記事は、イベント「創作大賞」の応募小説です。シロウトの小説にアレルギーが有る方は、ご注意下さい。まずは募集要項に従い、「全体のあらすじ」から記します。


あらすじ・車好きの少年が、車に寄せる思い入れを「友情」に見立て描いた小説で、

奇異な経緯から、「魂」を宿した車と少年の交流の物語です。短い作品ですが、読んだ後、洗車に行きたくなるような話として読後も残る物語になればと想い描いた小説です。

・・・以下本編・・・・・・・・・・

親しい友人が、カーディーラーに就職したので、 彼の最初の顧客に成りたかったので、運転免許も無いのに、免許取得より先に、車を購入した。

 

外国製のクーペで小柄で「恰好良い」と言うより、どこか、愛嬌の有る雰囲気が気に入り、購入した。アパートの地下がガレージなので、早速契約した。使わない車を置くだけの為に安くない駐車場代を払うのも、もったいなくて、毎晩ガレージに降りて、愛車を磨き、愛でた。

 

免許が無いから運転できないけど、用もなく、飲み物と軽食を持って、ガレージに行き、運転席で、飲食しながら、カーラジオを聴いた。

 

いつのまにか寝入り、車内で朝を迎る事も有った。こんな変な事をするのは自分だけかも知れないが、人がしない事をしていると、当然人が経験しない事を経験する。

 

カーラジオを聞きながらビールを飲んで、いつの間にか、寝ていて、目を覚ますと、海岸の路肩に、車が止まっていた。

 

もちろん、僕は、無免許運転なんかしない。「何故、運転していない車が、移動していたのか?分からないが、「なるほど、これが、よく聞く、オートマ車というものか? 運転せずに、自動で動くとは、便利なものだ」とでも、納得するしかなかった。

 

だって、現に僕は、今、海岸線に止まった車の中で愕然としている。 

 

何故そんな事になったか?分からなくとも、まずは、その現実に、対応しなければいけないから、

無免許でも、家に戻らない訳にはいけないから、その日は、警官に止められないよう、ビクビクしながら、ゆっくり時間をかけて、目立たないように、慎重に運転して、帰路に着いたが、何故か、途中何度も、車は、不自然な動作をした。

 曲がるつもりのない場所で勝手にウィンカーが作動したり、勝手にブレーキがかかり、停止したりするから、中古とはいえ、破格の安さだったから、「いわくつきの車」なのかも知れない。元の持ち主の怨念でも憑いているのだろうか? 急に運転し辛くなる車を、宥めながら慎重に扱っての運転だったので、アパートに着いた時には、へとへとだったので、まずは、何か飲みたかった。ビールの買い置きは有るが、つまみが無いので、コンビニへ行き、部屋に戻ると、無人の筈の自室が明るく、中に誰か居る気配だった。

 

ドアを開けると、見知らぬ少年が、僕のジャージを着てテーブルに僕のビールとグラスを並べて「よう!遅いぞ」と僕を促した。

見知らぬ顔だが、それが、何者か?すぐ、判った。

何故なら、さっきまで僕は、そいつに「乗っていた」のだ。

外見は違っていても「僕の宝」だから、間違える訳が無い。

まずは、グラスにビールを注ぐと彼は乾杯を求める仕草で、グラスを上げ、僕もそれに応じると、満面の笑顔で「今日は楽しかったね」と、馴れ馴れしく楽し気に話してくる。

案の定そいつは僕の愛車だ。 今は僕と同じような背格好で年も同じぐらいの少年の姿をしているので「一体どうゆう事だ?」と、彼とテーブルを囲むような位置に座り尋ねると、彼の説明では、僕が乗れない車を毎日磨き、寝泊まりし、愛情を注いでいるうちに「魂が宿った」のだという。夕べからの不思議な出来事も僕が先日、カーナビの画面で見たテレビに映った海に「きれいな海だな!こんな海、見に行きたい」と言ったのを聞いて、その望みを叶えようとした結果らしい。

帰路で、動作が不調だったのも、検問にかかると僕と一緒に居られなくなるとの思いから、危機を回避する為の彼なりの配慮だったらしい。そんな彼の心配りは、オーナーの僕には「意思を持つ車」を不気味に思うより、友情のような想いを感じ、彼を、クーペだから、「クーちゃん」と呼んだが、彼は幼子のようで嫌だと、最初はその呼び名に照れていた、また、「まるで、恋人を呼ぶあだ名みたいで、嫌だ」とも言った。

きっと彼は「男同士の友情や信頼関係」を求めていたのだろう。彼の意向も汲み、彼の呼び名は「クー助」とした。彼は、僕を名前通り「翔太君」と呼んだが、最初は、車と主という関係では、「さん」の方が良いかと迷っていた様子だったが、僕が「友達同士だから「君」か、呼び捨てだろ」と言うと、嬉しそう「じゃあ、そうさせてもらうね、翔太君」と嬉しそうにニコニコしながら、グラスをちびちび傾け、僕のグラスに酌をしてくれた。

 

「翔太はどうして、僕を選んでくれたの?」

「別に~なんとなくさ。」等と、たわいもない会話を交わし夜中まで一緒に過ごした。

彼は、僕の眠そうな表情を見て「じゃあ、また明日、お休み」と言って、部屋を出て駐車場へ向かおうとするクー助が、名残惜しそうに見え、「明日、買い物に行かないか?」と、声を掛けてみた、「でも僕、出掛けるような服無いし・・」と、着ていた僕のジャージを見ながら、口籠ったので「明日買ってやるよ、それまでそれを着てな」と、声を掛けると、「そんなの悪いね、でもありがとう」と、また、嬉しそうな表情で、手を振って去って行った。

 

そして翌日、 約束通り買い物に出発すると、交差点で大きなトレーラーに遭遇した。運転手の居眠りか、病変だろう。その車両は、赤信号にも停車せず、猛スピードで向かって来る。衝突の瞬間、初めて乗った時のように、クーぺは、僕が操縦していない、動きをした、猛スピードでターンを切ったので、その勢いで僕がドアに押しつけられた時ドアが開いた為、僕は、車外に転がったが、その後トレーラーとぶつかってクーペは、粉々になってしまった。事故の後、悲嘆に暮れて、アパートに帰ると、部屋で、くー助が「お帰り、遅かったね」と、待っていた。業者が事故の後始末をしても、車の残骸をすぐに処分出来ない為、クーペは壊れても、クー助は、まだ居るのだろう。事故の影響か?少し、やつれ、調子悪そうだったが、小さな声で何か囁いていたので、そばで耳を傾けると「♪夕べは車の中で寝た♪」と、古い日本ロック史にその名を残す、名曲「スローバラード/RCサクセシヨン」を静かに歌っていたのだった。昔、僕が免許も無く、動かせない車で朝を迎えていた頃、その状況が歌詞と一緒だったので、よく口ずさんでいた。なにしろ曲の冒頭の歌詞が「昨日は、車の中で寝た。」という唄だから、ひと晩車で過ごし、朝を迎えた時は、思わず歌ってしまうので、彼にとって、初めて聞いた唄だった筈だ。 だから彼は、あの唱が気に入っていたのだろう。と想像し、昔、なんとなく、口ずさんだ、僕の鼻唱じゃなく、本物を聴かせたくて、古い音楽番組の録画画像を再生し一緒に見ると、故・忌野清志郎氏が派手な化粧をしてド派手な衣装を着て熱唱する姿を見て「こんな派手なオジサンの歌だとは思わなかったよ」と言った。「だから、メロディーはロマンチックなのに、元気が出る曲なんだぜ」と言うと、彼は「じゃあ、僕と会えなくなっても、これを聴いて元気出せよ。僕の事は、たまに思い出す程度にしておけよ。」と、僕が悲しむ事を気遣ってくれたが「そんなふうに、悲しまないように気遣ってくれるのは、嬉しいけど、悲しまないなんて無理だろ!僕達は兄弟みたいなものじゃないか?」と反論すると、彼は「違うね、ぼくらは、兄弟じゃなくて、親友だろ。」と言い残し、去っていった。

 


#創作大賞2024

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