大人の読書感想文③「或る小倉日記伝」


三回目の「大人の読書感想文」を書きます。
今回の題材は「或る小倉日記伝」にします。著者は、松本清張氏です。
前回の「大人の読書感想文⓶」では、かつて「ノーベル文学賞に最も近い作家」と呼ばれた、安部公房氏で1回目の前々回では、同文学賞の実際の受賞者の大江健三郎氏と、
バリバリの純文学路線だったので、今回、松本清張氏とは、急に方向が変わり、突飛な印象かもしれません。確かに松本清張氏と言えば、ミステリ界のトップスターで、推理小説の帝王ってイメージが定着していますが、氏はこの「或る小倉日記伝」で、芥川賞を受賞しているので、今回も引き続き純文学路線です。
 
僕は氏が芥川賞作家だと知って以来、この作品に興味が有りました。
だって、ミステリー作家(犯罪小説家)と、文学がどう絡むか興味沸きません?

例えば、どうしても、お金が必要な時、絶対に発覚せず、誰にも迷惑をかけず、それを得る方法が有ったら、あなたはどうします?「そんな、うまい話、非合法っぽいから、しない?」その時、お金が必要な理由が「困っている人を助ける為」等、世の為・人の為だったら、非合法めいた危ない橋を渡らないって選択は、保身の為、その困っている人を見捨てる事にならない?果たして倫理的に何が正しいだろう?あるいは、叉、正しくない方法で実現した正義は、善か悪か?なんて想いを馳せれば、実に文学的でしょ?

そんな想いから 、後にミステリー作家として大成する氏を世に送り出した、傑作純文学作品に興味が有ったが、あいにく、地元の図書館の蔵書に無いくらいだから、当然、書店にも無く、漸くネットで見つけ、注文し、届いたので、やっと入手できた歓びから、
早速読み、本記事を書きました。 やっと手にした本を開くと、

事前に僕が期待していたような、犯罪というフィルター越しに「人間とは?」「モラルとは?」が、浮き彫りになるという趣旨の話でなかった。

そもそも、小倉日記とは、森鴎外が軍医として、九州の小倉に赴任中に綴った日記の事で、当時その所在が不明であった日記だ。 小説では、当地(小倉)在住の障害者、耕作が、その日記の行方を探す事に人生を捧げるが、戦時下の食糧難等で、健康を損ね、道半ばにて逝く。という話だ。 生まれつきのハンディキャップに、時代の不遇(戦争)に、負けず、健気に、ひたむきに、日記を探す姿に、心を打たれるヒューマンドラマでした。
氏の巧みな文章が、淡々と写実的な為、短編ながらも、そう歩んだ男の壮大な人生が、雄大に描かれた力作に感じました。こんなにスケールの大きな短編小説って、なかなか、無いだろうと感じました。

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