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【オピニオン】世界で拡大する宗教への攻撃 政府や社会から激しい迫害

前米国際宗教自由大使 サム・ブラウンバック氏

信仰を持つ人々の権利守る時

 信仰に対する戦争が目の前で起こっている。

 それはさまざまな形を取り、さまざまな対応を必要とするだろうが、まずは知ることだ。

 世界中の報道をざっと見ただけでも、すでに進行中の戦いがあることが分かる。ナイジェリアではキリスト教徒が殺され、誘拐された。インドだけでなく、欧州や米国でも教会が焼かれた。中国ではイスラム教徒のウイグル族が強制収容所に送られている。ミャンマーでイスラム教徒ロヒンギャが大量虐殺に遭っている。イスラエルで昨年10月7日にハマスによるユダヤ人襲撃事件が起きた。ニカラグア政府はカトリックと福音派の指導者を監禁した。暴力を伴わない場合もある。西側諸国では、宗教関連団体に対する中傷や検閲が行われている。

政治・社会への参加妨害

 これらの報道の核心には共通の目的がある。信仰を持つ人々をその国の政治や社会に参加させないことだ。それは至る所で起きている。命が奪われることもある。それはどこで起きようと、基本的人権の侵害だ。

 3月5日に発表された宗教に関する最新のピュー・リサーチのデータによると、2021年に「宗教団体は、調査対象となった198の国と地域のうち190で、政府や社会団体、個人からの迫害に直面した」。そのうち183カ国では、政府が関与しており、07年の調査開始以来、最も高い水準となった。

 政府による最も巧妙で広範な迫害を行っているのは中国だ。無神論者である中国共産党が、あらゆる形態の宗教を、権力掌握に対する最大の脅威と見なしているのは間違いない。彼らは、1980年代後半にポーランドのカトリック教会が共産党政権に反対する基盤になったのを見て、同じような運命を避けたいと考えている。

 国民への支配を強化しようとする国がますます増え、政府は、先進技術によって、国民の生活をのぞき見る能力を手にし、支配を強化している。多くの場所で文化的規範が宗教的価値観と衝突し、ますます敵対的になっている。他者の心の奥深くにある信仰を理解しようとした時代は消えつつある。

 神の居場所が世界中で縮小し、より危険な場所にさえなっている今、私たちはどう対応すべきなのだろうか。

 私たちは地に足を着け、信仰の権利を守らなければならない。

 自己の信念や宗教を追求する自由は、人間への基本的な尊厳である。私たちは神から、生まれながらに権利を与えられている。これは、私たちが誰なのか、なぜここにいるのか、私たちの究極の目的と運命は何なのか、という私たちの心の奥底の信念を守るものであり、人権の中でも最も奥深くにあるものだ。いかなる政府にも、怒れる暴徒にも、私や他の誰かがこうした深遠な問いを平和的に追求することを妨害する権利はない。

 この権利は合衆国憲法修正第1条にうたわれており、「議会は、国教を樹立、あるいは、宗教上の自由な行為を禁止する法律を制定してはならない」とされている。

 1948年に採択された世界人権宣言では、「全ての人は、思想、良心および宗教の自由に対する権利を有する」と明記されている。国連加盟193カ国の全てがこの宣言に署名している。

 しかし、ほとんど全ての国がこの宣言に違反している。信仰を持つ人々と露骨に争っていないとしても、宗教の範囲を制限し、静かに息の根を止めようとしている。

 私は長年にわたり、信仰を持つ人々が信じることを平和的に実践する自由を得るために戦ってきた。私自身の個人的信条と一致しないこともあったが、それこそがこの基本的人権の本質だ。神学的に一致するかどうかというような問題ではない。他者から干渉されることなく、自身で判断を下す人間としての権利のことだ。

知ることが有効な武器

 私たちにとって特に有効な武器は知ることであり、何が起きているのかを一般の人々に知ってもらわなければならない。

 多くの宗教が政府や地域社会から激しい迫害を受けている一方で、世界の人口の85%が信仰を主張していることも事実だ。信仰を持つ人々がこの権利のために団結するならば、政府、地域社会、企業、集団がいかに強大であろうとも、私たちをおとしめることはできない。

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 Sam Brownback 1956年、米カンザス州生まれ。カンザス大学で法学士号を取得。同州農務長官や連邦下院議員を経て、連邦上院議員を3期務めた。その後、2011年から同州知事を2期務め、大型減税など保守的な政策を実施。トランプ前政権で国際宗教自由大使として世界各地の宗教弾圧問題に取り組んだ。現在、世界における信教の自由を促進する「国際宗教自由(IRF)サミット」の共同議長を務める。
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<『世界日報』 2024年4月16日付より>
※同紙の許可を得て転載


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