思想はファッション

思想は一つのファッションだ。
いまリベラルで知的な雰囲気を醸したければ正解は「ジェンダーと多様性」。たくさんのいいねにきらびやかに飾られたツイートが「これをRTするだけであなたもリベラル」と蠱惑的に流れてくるし、信頼のおける人物のタイムラインを見に行けば「模範解答一覧」が手に入る。

それもいいと思う。かく言う僕だってファッション思想に身を固めている。けれど自分の纏っているものが上着に過ぎないことは理解しておくべきだ。ある一つの思想を本当に理解したければ、過去に数え切れず繰り返されてきた上書きに次ぐ上書きの論争の歴史を知る必要もあるし、今現在存在している反論に備えるためにその反論をも理解しなければならない。自分と異なる考え方を間違っていると叩いて持論を押し付けようとするのはファッション思想家特有の振る舞いだ。仮に正義がこちらにあるにせよ、思想的果実を得るためには相手の考えをも納得できるまで理解しなければならない。

その道のりの果てしなさに直面し挫折した僕の目には、さらりと一枚羽織っただけでその思想を理解したかのような誤解には不快な危なっかしさしか感じない。