ドカ弁先生

いよいよ夏休みである。

受験生の夏休みはその過ごし方が大切だと学校で釘を刺されまくっているドカ弁。

そうは言っても、朝から晩までひたすらボールを追いかけまわしていた部活を引退したばかりのドカ弁がそうそうシャンとした姿勢にシフトするのは極めて難しく、この夏休みをどうすればいいかと頭を痛めていた。

そんな矢先、次女(通称ちゃっかり)がやらかしてくれたのである。

つい先日のこと。
いつものように掃除していた朝、ちゃっかりの机の上に一枚のプリントが置かれていたのだ。

なんやねん。またなんかのお知らせか?
そう思い、ぐしゃっと丸めてゴミ箱にポイしようと乱暴にプリントを掴んで文章に目をやってみた。

unimamさま
夏季休業中に「算数教室」を実施します。
つきましては、ちゃっかりさんを「算数教室」で指導したいと思いますので、ご理解とご協力をいただきますようお願いいたします。

がーん。
算数教室とはすなわち「算数がんばり教室」。補習やないの!

はーっとため息が出た途端、5歳くらい老けたような気がした。

公文式にも行ってるし、普通に勉強についていってると思ってたのだが、まさかがんばり教室に該当するほど理解が足りてなかったとは。かなりの衝撃を朝から受け、どうしようかと思っていた矢先、早々にドカ弁が帰宅した。

三者懇談期間は3限で終わりなので行ったと思ったらすぐ帰ってくるのだ。

また、メシメシ!!!が帰ってきたわぁ。鬱陶しいときにまたメシか!

などと思いながらキッチンに立つ自分を見て、ドカ弁が何か感じ取ったようで

「uniさん。ご機嫌ななめですねー!なんですか?なんかまたあったん!?」

「まあな、ちょっと立ち直りに時間がかかるわー。」

「ふーん。ってなんでやねん!」

「じつはな、ちゃっかりが算数教室の案内持って帰ってきてたんさっき気づいてん。」

「あちゃー!ちゃっかりやっちまったな!うーん。なんでや?そんなあかんようには見えんかったけどなー。」

ちょっと姉らしくちゃっかりを庇う発言をするドカ弁。ええとこあるやないの!

ここで思いついたのである。
「ドカ弁、悪いけどさーお願いあるねん。」

「なになに?」

「ちゃっかりに夏休み算数教えるバイトせーへん?」

「おー!やるやる!500円くらいくれんの?」

(くーっ!金の相場も知らんウブなやつめ。泣かせるわー!)

「いや、5000円でどうや!」

「マジ?マジで!?ど、ど、どないしたん!えーの?ほんまにそんなくれるの?」

「おー!マジで!一日30分くらい分かりにくそうなとこ見たって!ただし条件がある。」

「30分でいいの!?ばーっちこい!条件?なんよ?」

「きちんと朝8時までに起きて毎日ちゃっかりと夏休みの宿題をすること。学校行くときと変わらない時間を上手に過ごすのを約束することが条件。」

「ラジャー!!ウチ頑張る!そうや!ウチもいつかは子どもらに教えなあかんようになるかも知らんしな!」

ドカ弁の夢は小学校の教師になることである。

自分の夢をここで改めて口にしたことだけでも収穫であった。
5000円のバイト代で、母が課す強制的夏休みプログラムに従うことを引き受けたドカ弁。

後で文句言われないように、先払いで5000円をあげるつもりである。

昨日、ちょっとだけちゃっかりの算数の宿題を見ていたドカ弁が

「なんでやねん!」と言う声が聞こえてきたので、怒ったってできんもんはできんねんからしゃーないやろ。と思い、ドカ弁、いきなりは無理やでって言おうとした矢先、ドカ弁がちゃっかりにこう言ったのである。

「ちゃっかり!これは先生が悪い!ちゃっかり、気にせんでもいい!この問題はな、線が絶対交わらへんようになってるねん。先生が問題を間違ってるねん!」

聞けば、図形の問題でコンパスと三角定規で辺の長さを何センチと書かれた通り書いて、三角形を書けという問題が、絶対に点が交わらないようになってるとのこと。正しく書けって書くなら問題を正しく書け!とドカ弁が怒り、

「ちゃっかり!気にせんでもいい!こっちの正しい問題はきちんとこうやれば綺麗に書けたやろ?大丈夫!理解できてるで!この出題ミスの問題はな、このとおり書きましたが、点が交わらないので書けませんでした。って横に書いとき!フンっ!クソがよー!算数嫌いにさせる原因作ってるんは教師やないの!」

ドカ弁先生燃えてます!!

ちゃっかりもちょっと自信を取り戻したように懸命にコンパスと三角定規を駆使して問題に取り組む姿が見えてます!

「わかった!おねえちゃんに教えてもらって書きましたが、点が交わりませんでした。って書いとく!!よかったー!ちゃっかりだけでやってたらもう何回やってもあかんから疲れてきててん。」

ちゃっかり、よかったなー!ちんぷんかんぷんじゃないならその調子!

この調子で姉妹共々、それぞれが実りある夏休みを過ごしてもらいたいものである。

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