おるめさん
淡路島の伯母の家「みやこ旅館」での合宿中のお昼ごはんは、おるめさんとこの”にくてん”が定番であった。
なぜ毎日のように、おるめさんのお好み焼き屋に行っていたのだろう?
色々思い出してみて、あ!と思いだした。
昼前になると、みやこおばちゃんが子どもたちにこう言って声をかけるのだ。
「おまえら、これおるめさんとこに持って行って焼いてもらい!」
各自が手分けして持たされるのは、丼に山積みされた大量の冷やごはんであった。
大人たちは夜、子どもたちが寝た後で毎晩酒盛りをしていたので、ご飯が大量にあまり、それが冷やごはんになっていたのだった。
当時、みやこ旅館には電子レンジはなく、冷えたご飯を温めることができなかったのである。
だから滞在中は毎日のようにおるめさんのお店にいとこたちと行って、
「おるめさん、これ!みやこおばちゃんがおるめさんとこで焼いてもらいって!」
と、それぞれが持たされた丼の冷やごはんをおるめさんに渡して、焼き飯を焼いてもらっていたのだ。
みんな、一枚は”にくてん”を食べる。お好み焼きのことを淡路島では”にくてん”と呼んでいた。
あと、「勝手に開けて出しておくれよー」とおるめさんに言われてから、冷えたラムネや、アップルと呼ばれる不思議な味の瓶の飲み物を店の冷蔵庫から出して、冷蔵庫の横についている栓抜きを使って蓋をあけるのが楽しみだった。
そして最後に焼いてもらうのがうちから持ってきた冷やごはんで焼くソース味の焼き飯であった。これがまたむちゃくちゃ美味しかったのだ。
焼き飯なのに、ソース味。キャベツのシャキシャキした食感と、すじ肉がゴロゴロ入った風味のある独特な味。
お腹もいっぱいになったところで、おるめさんは
「やーやーやー!よろしおあがり!ちょっと待っておくれよ!」
こう言ってチラシの裏やら、カレンダーの裏の白い部分をメモ帳にしたものとマジックを取りだして、ひっ算をはじめるのである。
「にくてんが250円じゃーえ、ほんでからアップルが80円じゃーえ」とつぶやきながら、どんどん縦に縦にひっ算の計算は続いていくのだ。
ようやく長いひっ算の繰り上がり計算を終えて、お会計の金額が知らされる。レジもなく、そろばんも使わない。ひたすらひっ算。
お金を渡すと、おつりを勘定する。これもひっ算。
おつりは鉄板の上の柱にザルが括り付けられていて、そこから小銭をじゃらじゃら探して返してくれるのであった。
先日母におるめさんのことを話していた時に新たな事実が発覚した。
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