オトコはん
オトコはんはなー!オトコはんを立てんと!オトコはんにはなー!
以前勤務していた会社の上司に「Mr.オトコはん」がいた。
この人は完全なる「男尊女卑」丸出しの人で、とにかくオトコはんが枕詞になっているちょっと痛々しいおっさんであった。
その徹底した男尊女卑根性はあらゆるシーンで登場するので本気でドタマかち割ったろか―ゴラァ!とガラ悪く言ってやりたいことが日常茶飯事であった。
Mr.オトコはんの常識でいくと、小学校1年生の男の子には1万円のお年玉、中学校3年生の女の子には千円のお年玉みたいな感じであるといったらお分かりいただきやすいかと思う。
そのくらいの偏り方で周りの女子社員を軽く扱い、男性社員をこよなく愛し、おだてるのであった。
あと、アホのひとつ覚えのように、
「バーンとこのデータ、ソートぶちかまして出されへんの!?」と女性社員には毎回偉そうにおんなじことをこの物言いで頼むことがいちいちオンナたちをイラつかすのだった。
もちろん、できなくはない。ただ。
なんで普通に人にものを頼まれへんのじゃ!なんやねん、バーンとソートぶちかますって!
「unimamさん、このデータをソートして出してくれへん?」
こう言って普通に言えば誰も気分悪くならずにすむのだってことがこのMr.オトコはんには全く分かってないようであった。
その一方で男性社員は新入社員であれど「立派なオトコはん」として丁重な物言いで立てていたから余計に女性社員の不満は募る一方であった。
ある時、新入社員の歓迎会をやることになり、皆でMr.オトコはんに連れられ飲みに行ったときのこと。
新入社員の男の子三人に向かってMr.オトコはんは相好を崩して、その上せわしない揉み手でこの男子たちを立てることに躍起になっていた。
「〇〇さんは結構やんちゃくれですな!」
「〇〇さんのお父様はあの企業のお偉方ですか!ほーそれはそれは!大事な預かりものですなー!どうぞよろしくお願いしますね!!」
「〇〇さんはあの一流企業におられたんですよね!我が社を選んで転職してくださったなんてこりゃ頼もしいですわ!はっはっはっ!!」
もうなんというか、褒め殺しなのである。
(おっさん、えーかげんにせーよ!なんやねん、やんちゃくれって!
酒も不味なるし、あんさんはほんまいらんねんわー!)
心の声が顔に出たのであろうが、Mr.オトコはんが自分に向かってこう言った。
「あんたの手は綺麗ですなー。みな見てくださいよ、ほら!」
そういいながらこちらを指さしながら嫌な笑いを浮かべている。
「この手は全く家事をしてへん手ですな!料理も洗濯もまともにしてないからこんな綺麗な手ですねんな!はっはっはっ!」
カチンときたのでわざとこう言ってやった。
「へぇ!Mr.オトコはんさんの奥さまは何でもできる方なんでしょうね!」
すると急に顔色が変わり一気にこう吐き出し始めたのである。
「ウチの嫁さんはちゃーんとした会社に勤めた経験もあるから、こうやってオトコはんが付き合いで毎日外で飲んで帰っても文句ひとつ言わんのや!そういうことにちゃーんと気がつくんや!オトコはんの苦労をちゃんとわかってオトコはんを立てれるオンナなんや!だいたいオトコはんを立てられへんオンナが最近多すぎる!」
悪酔いしたのか、Mr.オトコはんはどんどん愚痴っぽくなり、雰囲気は最悪である。気分直しにカラオケにでも行こうか!と男性社員が言い出し、みなゾロゾロと二次会のカラオケに移動したのだ。
酩酊してきたMr.オトコはんが自分の十八番だと言い出し、自ら番号を入力した。流れてきた一発目の曲は欧陽菲菲の「ラブ・イズ・オーヴァー」であった。
やたらめそめそした声で悦に入って歌うので、もう悶絶して体が痒くなってくるくらいの熱唱であった。
それからも十八番をぶちかましまくり、とうとう泥酔状態に拍車がかかったMr.オトコはんがこう言いだした。
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