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21世紀の農業革命をリードし、人類の未来に貢献する―Startup Interview #011 株式会社プランテックス

技術の力を、未来の力に──当社が投資支援する“リアルテックベンチャー”の代表や開発者に、解決したい社会課題や研究内容について聞くインタビューシリーズ。今回はモノづくりの技術を応用し、「人工光型植物工場」の普及に努める株式会社プランテックスの代表取締役社長 山田耕資氏とマーケティング担当執行役員 浦元淳也氏、リアルテックファンドの担当グロースマネージャー大坂吉伸に、革新的な考え方に基づく植物工場の可能性について聞きました。

<プロフィール>
山田耕資(やまだ・こうすけ)
株式会社プランテックス 代表取締役CEO
2007年東京大学大学院卒業後、ものづくりの生産工程改革コンサルティングを手掛ける株式会社インクスに入社。2009年の同社の民事再生申請時には、再生計画案を作成。2010年以降、日米計6社のベンチャーの創業に参加した後、2013年末に人工光型植物工場と出会う。世界の食と農に革新をもたらす技術と確信して創業を決意。エンジニアリングの分野で卓越した実績・スキルを持つ4人のメンバーと共に、新たな産業立ち上げによる農業革命を目指して2014年6月に㈱プランテックスを創業。
[企業サイト]https://www.plantx.co.jp/

近未来の食糧生産を担う

―モノづくりに長く携わってきた山田社長が、植物工場に着目した理由は何だったのでしょうか。

山田 ひと言で表すなら「とてつもない可能性に衝撃を受けたから」です。

大坂 山田社長はこれまで、三次元CADや金型から3Dプリンターなどを駆使するガチガチにハードなモノづくり一筋で歩んできたわけじゃないですか。それがモノではなく生き物をつくる植物工場を見て、とまどいはなかったのですか。

山田 まったくありませんでした。それよりも将来の食糧生産に問題意識を持っていたので、まず植物工場は地球の未来に欠かせない技術だと受け止めました。同時に、自分たちがこれまで関わってきたモノづくりの視点から見れば、植物工場には先進的なテクノロジーが入っていない点にも気づいたのです。

―インクス流のプロセス・テクノロジー(※)を活かせると考えたのですか。

<脚注>
※インクス
1990年、大手メーカーの技術者だった山田眞次郎氏によって設立された、世界初の3Dプリンターで試作をつくるサービスビューロー。試作事業から3D設計事業、金型事業などへと事業を拡大し急成長を遂げる。
同社が開発したモノづくりの革新的な手法が「プロセス・テクノロジー」。たとえば金型の熟練工が行っているプロセスを徹底的に分析し、各プロセスでの暗黙知を明文化し、職人が行う判断をシステム化して、作業の効率化、工程の最適化を実現する。それまで100人の熟練工が行っていたプロセスを、アルバイト2人でこなせるようになった事例もある。

山田 当時の植物工場をモノづくりのプロセスとして捉えれば、いかにも未成熟でした。だからインクスで培ってきた技術を持ち込めば、大きな成果を出せると直感したのです。

大坂 とはいえプランテックスの創業メンバーに植物の専門家はいなかったのでは?

山田 一人もいません。メンバー5人のうち4人がインクス出身のエンジニアです。当初は週末に勉強会を開き、エンジニアリングによって植物工場の技術的課題を解決する可能性を検討していました。

大坂 勉強会レベルからまったく異分野での創業、そのジャンプアップには相当に思い切った決断が必要だったでしょう。

山田 実は私ではなくメンバーの方から「本気で取り組むべきだ、そのためには起業すべきだ」との声があがったのです。その背景で共有されていたのは、ビジネスとしての可能性の追求よりも、やりがいやワクワク感、そして少し大げさですが人類の未来に対する使命感です。

大坂 確かに山田社長の使命感とビジョンは、初めてお会いしたときにひしひしと感じました。そのうえで技術面での裏付けもある。ですからリアルテックファンド代表の丸と一緒に最初にお会いした時点で投資を即決しました。すぐにもう一人の代表である永田にも山田社長に会いに行ってもらい、実際に投資したのはわずか1カ月後でしたね。

植物工場2.0の可能性

―植物工場は、これからの社会に必須だと考えられたのですね。

山田 省資源で高効率、環境負荷の少ない食料生産は、人類の未来にとって必要不可欠です。その点、閉鎖型の植物工場なら水を徹底的に再利用するだけでなく、肥料なども循環させて効率よく活用できます。完全密閉型の栽培装置なら外部への環境ダメージも一切もたらさない。あまり知られていませんが、実は農業による環境ダメージは意外に大きいのです。

大坂 とはいえ2014年の時点では、かなり思い切った決断だったのでは?

浦元 確かにリスクが大きい割に、収益化が容易なわけでもありません。ただマーケットの状況から判断して、植物工場というビジネス自体は成長の初期段階にあると認識していました。従来型の植物工場でも、黒字転換するところが出始めていましたから。

―成長過程に入った市場に新たなモノづくりの視点を持ち込めば、勝機はあると考えたのでしょうか。

山田 インクスで培ったプロセス・テクノロジーとは、プロセスを徹底的に細分化したうえで、各プロセスを最適化する技術です。この先端的なテクノロジーを植物の成長に当てはめれば、どうなるか。それまでの植物の育成技術は、いわば職人芸の世界であり、暗黙知に満ちていると考えられていました。だからこそ、チャンスがあると見たのです。

大坂 ロジカルに突きつめれば成果を出せるわけですね。

浦元 マーケティング戦略においては、多くの植物工場が目指していたコスト削減の逆張りを考えました。追求するのはコストではなく、生産性の高さです。我々の技術を活用すれば、勝算は十分にあると考えました。

―具体的には、植物工場での生産プロセスをどのように捉えていたのでしょうか。

山田 植物の成長メカニズムを徹底的に解析して、数式チェーンに落とし込んだのです。数式に取り込むパラメータは、当初20種類設定しました。しかも生育環境としては自然環境をお手本とするのではなく、完全密閉空間において人工光を使います。植物の生育に理想的な環境を、まさにゼロベースで構築していきました。

浦元 我々の考え方は既存の植物工場にも応用できると考え、数式チェーンをベースとしたコンサルティングも実施しています。その結果、約4カ月の指導で収穫量が倍増したのです。植物の成長メカニズムを突きつめれば、植物のパフォーマンスを最大限に引き出せる自信がつきました。

大坂 まさに従来の植物工場とは違うレイヤーで展開される「植物工場2.0」が誕生した。そこで理想のハードウェアを立ち上げるための資金調達が必要になり、我々が引き受けたわけです。

資源効率を究極まで高め、圧倒的な生産性を実現

―2019年に植物工場兼研究施設の「PLANTORY tokyo」を立ち上げています。

山田 このいわばテストプラントに続いて、2020年には大手メーカーからも資金調達を行い、大規模なマザー工場の建設に取り掛かっています。ほかにも2022年6月からは、大手スーパーのユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスとの協働により進めてきた植物工場「THE TERRABASE(ザ・テラベース)土浦」での本格生産を開始しました。ここでの使用電力は再生可能エネルギーをベースとしています。完全密閉環境であるため、同じレタスを栽培するのにも、露地栽培と比べれば1個あたり12リットルも使用水を減らせます。

浦元 我々の事業は現在、「植物工場の企画・設立・運営サポート」と「植物の栽培条件に関する研究」、そして「植物の生産・販売」と3つの領域で展開しています。具体的には工場を立ち上げると同時に研究所も開設し、生産と研究の両輪で植物工場を成果に普及させていきます。

大坂 このところ成長に加速がついているのを強く感じます。感覚的にはだいたい3カ月で次のフェーズにレベルアップしていますね。

―植物の栽培条件の研究では、植物の高付加価値化も視野に入っているのでしょうか。

山田 そのとおりで、レタスならたとえばβカロテンを豊富に含むものをつくれるようになります。さらには成分だけでなく、味についても好みの植物をつくれるのです。好きな野菜をおいしく食べながら、どんどん健康になっていく。そんな食生活の実現も我々の目指すところです。

浦元 既存の植物に限らず、日本の風土や気候では生育が難しいとされる薬草などの生産も視野に入っています。

大坂 完全密閉型の利点を活かせば、活用する場所は地球以外にも広がるでしょう。それこそ小型化すれば宇宙船の中に設置できるし、将来的には火星で植物工場を稼働させる夢も実現できそうです。それこそ場所を選ばず稼働させられ、資源も有効活用できる。農業用水に多く使われるために起きている地球上での水不足も、植物工場が解消してくれる。そんな可能性も強く感じています。

めざすのは農業革命、農業の新しい定義を創る

―内燃機関の発明が産業革命につながった歴史を思い起こせば、植物工場2.0には、新たな農業革命の期待がかかります。

山田 これから予想される世界の人口増を前提とすれば、食料不足の解消は喫緊の課題です。課題を解消するには、農業に革命を起こさなければならない。そのための強力なツールに、我々の植物工場はなりうると考えています。植物工場兼研究施設の名称である「PLANTORY」が意味するのは、新たな植物工場の概念でもあるのです。

浦元 食料と環境と資源、この3つの相互関連によって引き起こされる問題が世界的に深刻化しています。単純に食糧増産を図ろうとすれば、環境と資源に負荷をかける。植物工場が世界中に普及すれば、負荷を軽減しながら食糧増産を実現できるのです。

大坂 そのためにも人材の拡充が、喫緊の経営課題ですね。

―これからの事業展開を前提とすれば、どのような人材が必要なのでしょうか。

山田 残念ながら植物工場に詳しいエンジニアは、今の日本にはまずいないでしょう。ですから、まずは研究職やエンジニア系の人材が候補といえますが、決してそれだけに限るわけではありません。

浦元 理系人材に絞っているわけでもなく、まずは植物に対する好奇心の旺盛な人が向いていると思います。極端な話、植物生育に関して斬新なコンセプトを生み出せれば、今の仕組みをゼロから変えてしまっても問題ないわけですから。

大坂 ベンチャーを多く見てきた経験からいわせてもらえば、素直で好奇心旺盛、自主的に動く人が向いているでしょう。もう一点、枠にとらわれない発想も大切だと思います。

山田 植物工場2.0からさらには3.0へと発展させていく。全世界で新たな農業革命を推進していく。その意味では「今ここにはまだないものを創りたい」と夢見る人や「地球の未来を救いたい」と使命感にあふれる人たちに、ぜひ来てもらいたいと思います。


株式会社プランテックスでは現在、各種ポジションを募集しています。
詳しくは以下をご覧ください。
https://www.plantx.co.jp/recruit_1/

構成(インタビュー) 竹林篤実