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デザイン論

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デザイナーとして生きていく矜持を培うために学んだこと、考えたこと。
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#最近の学び

デザインで肩身の狭い書き言葉 #332

「なぜデザインでは文章がアウトプットとして認められないのか?」という問いをよく考える。パーソンズ美術大学に留学していた時には「Show us, not tell us」という言葉を何度も聞いた。「言葉で説明するのではなく作品を見せろ」という意味だ。 この言葉に「デザインらしさ」を感じて身につけたいと思ったと同時に、私にとって自然にできることではないとも感じていた。つまり、「なぜ文章で伝えたいのに一度別の何かに表現し直す必要があるのか?」という疑問を抱き続けていたのだ。自分の

デザインは、社会的差異を具現化する。(『欲望のオブジェ』) #331

そんな挑発的にも思える一文が前書きにある『欲望のオブジェ』は、構造主義的な視点で近代デザインの歴史を語る一冊。副題が「デザインと社会 1750年以後」であるように、社会背景からデザインを語る視点が特徴的である。 なお、この記事は本書の要約や解説ではなく、個人的な学びを中心にまとめていく。 デザインは進歩を隠蔽する第1章「進歩のイメージ」と第2章「最初のインダストリアル・デザイナー」を通して1750年代以降のデザインの歴史を紹介しながら、デザインがアートから独立していく様子

生きる意味をデザインできるのか? #316

Spirituality Designとの出会い『システミックデザインの実践』の共著者であるクリステル・ファン・アール氏が、「システミックデザインの次にはSpirituality Designが来るだろう」と話していた。ここでのスピリチュアルは、非科学的な現象というような意味ではない。「sense in life」や他者や自然とのつながりという文脈で話していたことから、ここでのspiritualityは「生きがい」や「生きる理由・意味・意義」というニュアンスだろう。 spi

デザインは、コラボしてこそ意味がある。 #289

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの学生生活も残り9週間。今は卒業制作を通してTransdisciplinary Designを実践的に学んでいるのですが、この記事ではその学びを一旦整理してみます。 Transdisciplinary Designは「領域横断デザイン」などと訳されるように、分断された専門領域を横断しながら社会問題と向き合います。サイロエフェクトやセクショナリズムという言葉があるように、効率化を進めるためには分業が必要で専

「問題解決のデザイン」から、「共に生きるデザイン」へ。 #257

パーソンズ美術大学・Transdisciplinary Designでの学びも2年目に突入。日々「デザインとは何か?」への答えが更新されていく日々を過ごしているが、今回は「なぜデザインをするのか? 何のためにデザインをするのか?」に対する答えが大きく変わったので、節目として現時点での私なりの考えを記しておく。 反・デザイン思考Transdisciplinary Designで学んでいるデザインは、いわゆる問題解決型のデザインではない。パーソンズ美術大学はニューヨークにあり、

物語にあふれる世界で、デザインが果たすべき役割とは? #221

この記事のテーマは「物語なしには生きていけない人間に、デザインができることは何か?」です。未完成の仮説を書いているだけですが、それでも興味を持っていただける方は、是非最後までお付き合いください。 物語の中で生きる人間語り継がれる物語としての神話 神話とは、何千年も語り継がれる物語。神話のない民族はないと言われるほどであり、もちろん日本にも『古事記』という神話が存在します。その神話には大きく3つの役割がありそうです。 一つ目は世界の成り立ちの説明。この世界がいつ生まれ、ど

デザイン思考の考古学 ―なぜ人間中心主義なのか?― #204

前回の記事では産業革命から1960年代頃までのデザインの歴史をまとめながら、デザインが商業主義に偏っているのではないかという考察をしました。 今回は1960年代以降のデザイン、特にデザイン思考の歴史を調べてみました。すると、デザインとデザイン思考は似て非なるものであることや、デザイン思考が人間中心主義を掲げる理由が分かりました。 デザイン思考の黎明期デザイン科学 1960年代からデザインにおけるプロセスや方法論を研究する人たちが現れました。彼ら(L・ブルース・アーチャー

デザインの考古学 ―産業革命からデザイン経営まで― #203

デザインという言葉の意味を理解するのは難しい。なぜなら、デザインに対する決まった日本語訳がなく、カタカナで「デザイン」と書くしかないからです。英語のDesignにもさまざまな意味があるので、さらに理解が難しい。 そこで、デザインとは何かを理解するための通時的な方法として、デザインの歴史を調べてみました。デザインの歴史を見てみると今のデザインの抱える課題が見えてくるような気がします。 デザインの起源からモダニズムまでデザインの発祥は、18世紀後半から19世紀前半にかけて起き

パフォーマンスデザイン "Performance Design" #122

自己紹介はこちら 前回の記事でスペキュラティブデザインの立ち位置を表した図を紹介しました。この図を見た時にアートとデザインの関係性に興味を持ちました。MoMAを訪問して現代アートを鑑賞したことも影響しているかもしれませんが。 そんなこともあってアートについても自分なりに少し調べていくなかで、パフォーマンスアートというアートの一形態があることを知りました。 この動画で紹介されているマリーナ・アブラモヴィッチさんのTED Talkも見つけたので共有します。 アーティスト自

ビジョンデザイナーとは? #120

自己紹介はこちら 前回の記事で、ビジョンデザイナーについて触れました。 経済産業省が公表している「⾼度デザイン⼈材育成ガイドライン」にて、私が学んでいるパーソンズ美術大学のTransdisciplinary Designでは「ビジョンデザイナー」になるスキルを学べるとされています。ただ、試しに英語で「Vision Designer」で検索すると、どうやら「眼鏡の見え方?をデザインする人」を意味するようでした。もしかして和製英語なのでしょうか?ビジョンデザイナーという肩書は

「デザイン思考」という幻想を越えて #118

デザイン思考?そんなものはない!「デザイン思考」を学ぶためにはるばるニューヨークまで留学しに来ましたが、最初の授業で教わったのは「そんなものはない」ということでした。デザイン思考で画像検索すると、様々なデザイン思考の図解が出てきますが、そのどれもがデザイン思考を表していないと言うのです。つまり、デザイン思考は図式化できないというのです。 なぜなら、デザインプロセスは暗中模索だからです。自分たちがどこを目指しているのかもわからない。どこにいるのかもわからない。プロジェクトご

デザイン×哲学=? #104

デザインを学ぶ私がいま最も興味があるのは哲学です。というのも「哲学なきデザインは無意味である」ということを学んだからです。厳密にはここでの哲学の意味は「自分なりの価値観」ですが、いわゆる哲学を学ぶことは価値観の形成に役立ちます。哲学を学ぶ中で出会ったのが、構造主義と実存主義の2つ。哲学を学ぶ中でデザインや生き方について考えたことをつらつらと書いてみます。 構造主義的ニヒリズム構造主義とは、「人間は構造によって規定されている」という考え方です。言語学者のソシュールが「言語に