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ルールの概念

2021年11月3日UNRIVALED1を終え、とりわけ反響の大きかったルールについて解説していきたい。UNRIVALEDルールの骨子、概念は『あらゆる組技格闘技が平等にその技を競う』ものである。
その大枠に基づき、さまざまなルール設定がなされた。
競技への理解をより深めて貰うために、特徴的なルールについて解説していく。

ポイント制

Submission Onlyが主流のグラップリングシーンに於いても、UNRIVALEDでは特異なポイント制を採用している。
完全決着を標榜するUNRIVALEDに引き分けはない。
実力に劣る一方の選手がディフェンシブになり、スコアレス引き分けやEBIルールなどオーバータイムを誘発する事態を避ける。
ルールは公平にその実力を決するものであり、ルールを利用し実力以上の結果をもたらすものであってはならない。
強者が勝ち、弱者は負ける。選手の戦績には必ず勝ち負けが残る。
関節技の少ないアマレスラーや柔道家はテイクダウンやエスケープ、ポジショニングでポイントを稼ぐことにより、MMAファイターや柔術家と互角に渡り会うことが出来る。
ポイントを先行された選手はさらなる技術、能力でポイントを奪い返すか逆転のタップアウトを狙いに行く。
ここでも競技者と格闘家、スポーツマンとファイターのアングルやイデオロギーを意図的に励起させている。

試合時間

WNOやMETAMORISなど、いわゆるサブオンリーのイベントでは20~30分の試合時間が主流であり、ポイント主体のブラジリアン柔術やADCCなどは5~10分の試合時間が設定されている。
UNRIVALEDでは当初20分の試合時間を設定していたが、ポイント制を採用したことを踏まえて、後に15分に変更した。
それでもUNRIVALED1の終了を以て、ネット上では『試合時間が長い』との意見が散見された。
ポイント競技の側面も併せ持つUNRIVALEDが、なぜ5分や10分の試合時間に設定しなかったのかを説明したい。

UNRIVALEDでは審判による注意や指導が無い。
審判との事前ミーティングでも、選手に展開を促すような声掛けは不要であると伝えている。
これは『プロ選手としての矜持』を信じてのことであり、試合に選手以外の思惑が介在してはならない、という理念からである。
選手は自分以外の他人を倒し、勝者としてマットを降りるのが仕事であるし、グラップリングが格闘技であるならば、マット上の決闘といえるのだ。
その決闘の最中で相手に付き合わず、ポイント先行で逃げ回る展開など、想定はしていない。
ネット上で『長い』と指摘があったのは、立技或いは寝技に付き合わず、お互いの領域から踏み出さない選手を見せられるもどかしさのせいなのかも知れない。
15分フルに戦った試合でも、8試合目の樋口vs小谷は非常に見応えがあった。
序盤から中盤にかけて小谷が樋口を圧倒し、樋口が持ち前の柔術的テクニックでディフェンシブにそれを凌ぐ展開が続いた。
残り20秒、このままポイント決着かと思えた辺りで、後半やや失速気味の小谷を巧みにコントロールし腕十字によるタップを奪った。
勝利者インタビューで樋口は『作戦通り』と試合時間をも自分のものにしていたと答えていた。
フィジカルが結果に直結する短距離走ではなく、老獪で時に狡猾な駆け引きが活きる長距離走のような設定が、グラップリングというスタイルには合致するのではないかと思う。

QUINTETでも活躍する樋口と小谷

11試合目の本間vs水垣戦では、本間の一瞬の隙をついたテイクダウンによる2ポイントを水垣は逃げ切る素振りもなく、本間得意のハーフガードに果敢に攻めいった。
アームドラッグやスイープで逆転を狙う本間を、MMA的に徹底して潰しにいく展開は、削り合い、凌ぎ合いのあっという間の15分間だった。

UFCでの実績も申し分ない水垣とブラジリアン柔術では日本人最高位の成績をおさめた本間

とは言え観客としては展開の見られない試合があるのも事実だ。
そこでUNRIVALEDは新たな提案として、『時間早送りシステム』の導入を検討している。
お互いが自分の得意な領域ばかりを主張し、プロ選手としての矜持に逸する展開に終始するのであれば、審判の判断の元に、残り試合時間から1分→3分→5分と段階的に差し引くシステムの導入を検討している。

引き込み-2ポイント


UNRIVALED公式Webサイトより

ブラジリアン柔術でよく見かける、立ち合いから座って攻める展開。
ガードポジションという柔術独特の護身術的な見地から発生した行為が、いわゆる引き込みだ。
立技を拒絶することで投げられるリスクを回避し、座った状態からスイープやサブミッションを狙いにいく。
このガードポジションに対して、トップポジションの選択を余儀なくされた選手は、果敢に攻め入らなければ反則行為とされる。
ブラジリアン柔術の試合では、この構図が一般的とされている。

UNRIVALEDでは殺傷力という意味で、投げ技をサブミッションと同列の扱いにしている。
相手にタップを促す、つまり負けを認めさせるサブミッションは、受動的な勝利の獲得といえる。      
対極に投げ技では、相手の意志が介在しない能動的な勝利と言える。
言わば活殺混在が勝負の妙となり得る。
投げ技を決してスポイルしない、だからと言って護身的な柔術の思想を否定しない、その平等な位置決めの為に、引き込む側には-2ポイントのハンディを負ってもらう。
そもそもその柔術のスイープポイントも、トップポジションから攻めることを目的としている。
だが投げ技を拒絶し護身に徹した選手が、スイープの成立によってポイントリードするのは格闘技の理念として矛盾すると考えた。
UNRIVALEDでは引き込みは-2ポイント、しかしスイープが成立すれば+2ポイントでイーブンになり、投げ技をスポイルした選手でも、トップポジションを取ることが出来る。
事実、サブミッションに自信のある選手はマイナスポイントを覚悟に引き込み、ガードポジションから関節を極めに行くという展開が見られた。
メインイベントの米倉vs門脇がその最たる例と言えるだろう。

メインイベントに相応しい米倉vs門脇

ルールの構築にあたり、UNRIVALEDでは全く新しい格闘技を創出しようとしたものではない。
先にも述べたが、全ての組技競技が公平に闘う為のルール=舞台を用意したと言っていい。
そして、ややもすると視聴者には退屈で難解、不可解となりがちな寝技を分かりやすく、ダイナミックに、そしてスリリングに見せるよう意識をした。
視聴者が増えることは競技人口の増加に繋がり、競技人口の増加は企業の参入を促し、より活発的なシーンに成長していくと考えるからだ。
グラップリングはMMAから打撃を排した格闘技ではない。
人が人を傷つけることなく相手を制する動作は、極限まで無駄を削ぎ落とした機能美を見ているようだ。
UNRIVALEDでは選手が表現する芸術性を最大限視覚化する為のルール整備を、その旨としている。
UNRIVALEDのルールについては、下記を参考にして欲しい。

https://unrivaled-grappling.com/rule-detail.html