見出し画像

『アングスト/不安』シルヴィア・ ラベンレイターとの遭遇

『アングスト/不安』で、主人公K.の標的となる一家の娘役 シルビア役を演じたシルヴィア・ ラベンレイター。
印象的な美貌を持ち、言葉を多く発さずして毒牙に掛かってしまうという非常に現実的な「あっけなさ」が体現されている人物だと言えよう。
本作を鑑賞した人ならば他の出演作を探す事だろうが、彼女の役者としてのキャリアは本作限りである。ゆえにミステリアスな存在として胸に残るが、もしも実際のシルヴィア・ ラベンレイターをもっと知りたい、出演当時の事が知りたいと思ったならば、しばしお付き合い頂きたい。

サブ7

シルヴィア・ ラベンレイターは、『アングスト/不安』が撮影された1983年当時、ウィーンの大学で心理学を専攻していて、生活費のために映画のエキストラのアルバイトをしていた。ジェラルド・カーグル監督は映画に主役以外はプロの俳優ではなく素人を探していた。エキストラを統括していたエージェンシーに問い合わせてシルヴィアを発見した。自身が心理学を勉強していることや、クニーセク事件についても多くを知っていたことが起用のきかっけではないかと彼女は語る。
「私はクニーセクの事件にとても強く興味を引かれました。クニーセクは誰かを殺す以外にオーガズムに達することはできず、単なる強姦やSMとは異なり、非常に複雑な事象でした」

シルヴィアは演技をしたことが無く、俳優になるつもりも全くなかった。脚本を読んで、撮影でヌードにならねばならない可能性を感じたが、監督と撮影のズビグニェフ・リプチンスキとの話し合いで、彼らは”絶対にヌードシーンは撮るつもりはない”と約束したため、考えがとてもクールだと思い、引き受けたのだという。

新場面写真5

演技経験がなかった彼女は、撮影現場でも監督からの細かい指示が全くない中で、主演のアーウィン・レダ―と打ち合わせながら作り上げていった。
キッチンでK.を誘惑するシーンは苦労したといい、必死さが足りないという理由で監督とリプチンスキが納得するまで何度がやり直したそうだ。
地下道のシーンではカメラを体に背負ったため、重さにも苦心した。
また、刺殺されるシーンでは本物の豚の血が使われていたそうで、時間の経過とともにドス黒く変化する様も実際のものだったという訳だ。
 アーウィンとの共演については「経験豊富なプロの俳優で本作にすべてを捧げて役に入り込んでいました。ほとんどのシーンは1テイクか2テイクで済みました」と、その本気度を振り返っている。

こうして様々な苦労の末に自国のオーストリアで公開した直後、つい3年前に起きた全国民が知る事件をあまりにもリアルに映像化したショックのために多くの観客は劇場で嘔吐し、返金を求めるほどのスキャンダルとなった。
初出演作で若い頃にこんなにも苦労を重ねて精神的に大丈夫だったのだろうかと心配になるのだが、彼女はこう語る。
「私はこの作品が大好きです。自分がこれをやり遂げたことを誇りに思います。今まで作品を観た人で"まあまあかな"とか"いまいちかな"という人に会ったことはありません。必ず作品を大好きになるか、大嫌いになるかのどちらかです。これは素晴らしいことです」

新場面写真7

そんな勇敢なるシルヴィア・ ラベンレイターと、先日コンタクトを取ることに成功したため、ここにそのメッセージの一部をご紹介したい。

画像4

「こんにちは、私はシルヴィアです。
私は『アングスト/不安』で娘役を演じました❤🧚‍♀️」

そこでファンアートを送ったところ、「素晴らしい」と言ってくれた。

画像5

さらに、日本のファンへのメッセージを尋ねたところ、以下の通りの返答があった。

画像6

「私はこの映画長い間、検閲されていたので、遂に多くの国で上映されていることがとても嬉しいです。演技の経験がなくても娘役に選ばれたことを非常に誇りに思っています(私は当時学生でしたが、今はミュージシャンです。私のプロジェクト、バンド名はSugarplum Fairiesといいます )。私に連絡してくれてありがとう、そして世界中のアングストファンの皆さん、こんにちは。私の心にとってとても大切な映画をサポートしてくれてとても感謝しています♥️」

このシルヴィアがヴォーカルや作曲をつとめるバンドSugarplum FairiesのMVも併せてご覧頂きたい。

公式Instagram
https://www.instagram.com/sugarplumfairies_music/
公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/starfish262

監督たちスタッフと俳優たちが一丸となり、《本物》を目指して熱く作り上げた高純度な『アングスト/不安』は、観客にとっても、彼女にとっても忘れられない作品となっていた。

画像7

画像8


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?