ペケとジマの複素解析 #4
登場人物
ペケ
理系,学部1年.
"チー牛"に似てる.
ジマ
文系,ペケの先輩.
"iカップ未満お断りのTom"に似てる.
ジマ:突然だがペケくぅん.次の積分の値を計算してくれ.
$$
\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)(z-3)}\mathrm dz
$$
例によって積分路は一周のみとするよー.
ペケ:こないだやった方法を使う方針なんですね.まずローラン展開したくて,$${|z|=2}$$から$${|1/z|=1/2 < 1}$$だから,マクローリン展開…でもいいけど,無限等比級数から,
$$
\frac{1}{z-1}=\frac1{z}\frac1{1-1/z}=\frac1{z}+\frac1{z^2}+\frac1{z^3}+\cdots
$$
$$
\frac{1}{z-3}=-\frac13\frac1{1-z/3}=-\frac13-\frac z9-\frac {z^2}{27}-\cdots
$$
でこれらを掛けて,$${1/z}$$の係数に$${2\pi i}$$を掛けたのが答えになるから,
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{(z-1)(z-3)}
&=\left(\frac1{z}+\frac1{z^2}+\frac1{z^3}+\cdots\right)\left(-\frac13-\frac z9-\frac {z^2}{27}-\cdots\right)\\
&=\cdots + \left(-\frac13-\frac 19-\frac 1{27}-\cdots\right)\frac1{z}+\cdots
\end{aligned}
$$
で,$${1/z}$$の係数は初項$${-1/3}$$で公比$${1/3}$$の無限等比級数だから,
$$
-\frac13-\frac 19-\frac 1{27}-\cdots
=-\frac{1}{3}\frac{1}{1-1/3}=-\frac12
$$
だから,
$$
\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)(z-3)}\mathrm dz=-\frac{1}{2}\cdot2\pi i=-\pi i
$$
ですね? こんなに面倒なんですか?
ジマ:あってるよー.説明しなかった俺にも非があるけど,俺ならそんな面倒なことはせず,こうするね.
$$
\begin{align}
&\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)(z-3)}\mathrm dz\\
&=\oint_{|z-1|=1}\frac{1}{(z-1)(z-3)}\mathrm dz\\
&=\oint_{|z-1|=1}\frac{1}{2}\left(\frac{1}{z-3}-\frac{1}{z-1}\right)\mathrm dz\\
&=\frac{1}{2}\oint_{|z-1|=1}\frac{1}{z-3}\mathrm dz
-\frac{1}{2}\oint_{|z-1|=1}\frac{1}{z-1}\mathrm dz\\
&=0-\frac{1}{2}\cdot2\pi i\\
&=-\pi i
\end{align}
$$
ペケ:$${(1)}$$から$${(2)}$$のところの経路の変換はどうやったんですか?
ジマ:注目してほしいのは,もとの積分経路が囲ってる極,つまり,被積分関数$${1/(z-1)(z-3)}$$が発散するような点$${z=1,3}$$だ.もとの積分経路は$${z=1}$$のみを囲っている.前に話したとおり,複素積分は正則な区間なら頭とケツが合ってたら途中の経路を変えても積分の結果に影響しないんだ.
ペケ:この変数変換だと囲ってる極は一致してても,積分路の頭とケツは…一致するように取れるか.
ジマ:君のような勘のいいガキは嫌いだよ.実は,頭とケツが一致してなくても囲う極とその回数が一致していれば同じ値になるんだ.後でまた出てきたときに詳しくやるから,今回は結論だけ覚えていてくれればいいよォー.
ペケ:はい.$${(3)}$$は部分分数分解で,$${(4)}$$の前半がゼロになるのは,積分路の中に極がない=正則だから,前回やったコーシーの積分定理よりゼロということですね?
後半はなんでこうなるんでしょうか?
ジマ:So-.自分で計算すれば?
ペケ:$${|z-1|=1}$$だから,$${z=e^{i\theta}+1}$$と置換できて,
偏角を$${\arg(z-1)=0}$$から$${2\pi}$$まで積分するとしたら,$${\mathrm dz=ie^{i\theta}\mathrm d\theta}$$より,
$$
\begin{aligned}
\oint_{|z-1|=1}\frac{1}{z-1}\mathrm dz
=\int_0^{2\pi}\frac{1}{e^{i\theta}}ie^{i\theta}\mathrm d\theta
=i\int_0^{2\pi}\mathrm d\theta
=2\pi i
\end{aligned}
$$
ということですかね.
ジマ:Soー.極$${z=\alpha}$$を1周囲った積分経路の$${1/(z-\alpha)}$$の積分は$${2\pi i}$$になるな.経路変換で前回の結果に帰着できるからな.
ペケ:へー.面白い.
ジマ:じゃ最後にこれを解いてくれ.
$$
\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}\mathrm dz
$$
ペケ:被積分関数を部分分数分解すると,
$$
\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}
=\frac{-1/4}{z-1}
+\frac{-1/2}{(z-1)^2}
+\frac{1/4}{z-3}
$$
で,$${1/(z-1)}$$の係数が$${-1/4}$$だから,
$$
\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}\mathrm dz
=-\frac14\cdot2\pi i=-\frac{\pi i}{2}
$$
ですね? 勝負!
ジマ:n~~,それでいいんだけどSa-,お前部分分数分解どうやってやったん?
特に$${1/(z-1)}$$の係数さぁ.
ペケ:正攻法だと面倒なので,受験の時に裏技として知ったヘビサイドの展開定理でやりました.
$$
\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}
=\frac{a}{z-1}
+\frac{b}{(z-1)^2}
+\frac{c}{z-3}
$$
と置いて,$${(z-1)^2}$$を掛けた後両辺$${z}$$で微分して,
$$
-\frac{1}{(z-3)^2}
=a
+\left(\frac{c}{z-3}\right)'(z-1)^2+\frac{c}{z-3}2(z-1)
$$
で,両辺$${z\rightarrow1}$$として,
$$
a=-\frac{1}{(1-3)^2}=-\frac{1}{4}
$$
という具合に.
ジマ:ほーん.で,$${b}$$と$${c}$$求める必要あった?
ペケ:確かに.積分に影響しないから要らん労力使いましたね.
ジマ:Soー.ちなみにペケくんが今やってた方法がまさに留数の計算方法だ.$${z=\alpha}$$ において最大$${n+1}$$位の極がある,つまり,ローラン展開したら$${1/(z-\alpha)^{n+1}}$$がある$${f(z)}$$に対して留数を次のように定義する.
$$
{\underset{z=\alpha}{\mathrm{Res}}}f(z)
:=\frac{1}{n!}\lim_{z\rightarrow\alpha}\frac{\mathrm d^n \left[(z-\alpha)^{n+1}f(z)\right]}{\mathrm d^nz}
$$
ペケ:部分分数分解の係数を求めることは留数を求めることだったんですねぇ.ということは,さっきの場合だと,
$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=2}\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}\mathrm dz
&=2\pi i \ {\underset{z=1}{\mathrm{Res}}}\frac{1}{(z-1)^2(z-3)}\\
&=2\pi i\lim_{z\rightarrow1}\frac{\mathrm d}{\mathrm dz}\frac{1}{z-3}\\
&=2\pi i\lim_{z\rightarrow1}\frac{-1}{(z-3)^2}\\
&=-\frac{\pi i}{2}
\end{aligned}
$$
ということですね?
ジマ:そうね.飲み込み早いじゃん.
ペケ:ありがとうございます.ジマさんも教え方うまいじゃん.
ジマ:調子乗んなよ,形変えてしまうぞ!!
ペケ:今度は長州ですか.
#4のまとめ
$${f(z)}$$が発散するような$${z}$$を極という.
特に,ローラン展開に$${1/(z-\alpha)^n}$$が含まれていることを$${z=\alpha}$$に$${n}$$位の極を持つという.
$${z=\alpha}$$に1位の極をもつ関数$${f(z)}$$の複素積分の値は積分経路によらず,極を囲った回数×$${1/(z-\alpha)}$$の係数×$${2\pi i}$$になる.
この係数を留数と呼ぶ.
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