今夏の甲子園を観て考えたこと

 今年の夏も壮絶なドラマが繰り広げられました。大会MVPを挙げるとしたら文句なく星稜・奥川投手でしょう。そして最優秀助演男優賞はこちらも文句なしで履正社・井上外野手ですね。履正社の一日3時間練習(平日の全体練習)って、これから高校野球界のヒントになりそうです。短い時間でも工夫してやれば勝てるということを示してくれた素晴らしいチームでした。

 今大会は予選から佐々木投手の登板回避騒動があり、素人ライターや元プロたちが大会中も投球制限や投げすぎ、連投に関して賛否を繰り広げておりました。

 佐々木投手の件は、「佐々木投手の骨が成長過程にも関わらず、大会の過密スケジュールに合わせて投げさせると故障するから回避、という判断を身近で見ている監督がした」という監督の英断でしたね、で終わっていいと思います。今からほじくり返してもしょうがないですから。

 騒動に巻き込まれて迷惑している方々には申し訳ないのですが、野球界にとってはとても大切なきっかけになりました。「新しいことがすべて良し」というわけではないですが、「投げ込め、走り込め」の理論の限界が、皆さんなんとなく見えているから、第一線の選手や現場からこのような声が聞こえてくるのだと思います。心身の育成は「鍛練、栄養、休息」の量とバランスが大切だと言われています。70年代の水を飲めない、栄養学もない、年間365日練習、という時代では、今の金属バットを持っていてもホームランはこんなに出ないでしょう。どんなに練習しても140キロは出る投手は少ないでしょう。明らかに休息と栄養が足りなかった。

 池田高校がウェイトトレーニングで、帝京高校がメシと水泳で、天理高校が初動負荷理論で、遊学館と四日市工がダブルスピン&シンクロ理論で一世を風靡しました。いつの時代も新しいことを取り入れて、それを同世代、次世代がマネをしてスタンダードになってきた歴史があります。

 これから日本の高校野球に浸透していくのは「休息」と「考える力」です。「休息」はそのままの意味です。練習は週4.5でいい。練習がない週2.3でいかに「考える力」をつけるかが大切です。これは本人のためにも大切なことです。考えるには感じることが大切です。映画で感動し、彼女とのデートで人の気持ちを知り、ボランティア活動で社会を知り、大学野球や社会人野球、プロ野球を観て勉強をすることが、感性を豊かにし、人間の幅を広げることにつながるということは年間360日練習している各高校の監督にも異論はないはずです。

 その感性は野球の「読み」や「勘」につながりますし、仲間や敵の気持ちや考えを汲み行動するのに必要なことなんじゃないかなと感じます。毎日毎日練習させられて競争させられて息が詰まるような2年半も、得られるものがあると思いますが、もっと直接的に人間のポテンシャルを上げる高校野球があってもいいのかなと感じました。坊主じゃない学校も増えています。何かを変えなくてはという思いからだと思います自ら考える力を養うために、たかが髪型ですけど、全国の強豪校がチャレンジを始めました。


 あ、もう少し投げすぎ問題の話。


 「でも練習がやめられない。」

 もう病気です。練習しないと不安になる監督。小心者の監督というわけではありません。私立はもちろん勝たないと野球部がある意味がありません。監督だっていつクビになるかわからないのです。だから、チームを強くするため=練習という発想に至るのです。猛練習は時間・体力と引き換えに「これだけやったから大丈夫」という安心感をもたらせてくれます。しかし他にも何か失っていませんか?週7で野球をやっていると自分が野球が好きなのかわからなくなってくるんですよね。寮生活の学校なんて特に外部の情報が入ってこないですし、甲子園甲子園となってる高校生にまともな判断ができるとは思えないです。

 そんな球児が言い放つ、大嫌いな考えが

 「野球は高校までと決めているから怪我してもいいから投げ切りたい」

 です。

 これは本人が言うんですが、それを肯定する指導者がよくないんです。漫画でもドラマでも周りは投げるのを必死に止めていて、それでも制止を振り切って主人公が投げて肩を壊すんです。まず周りは必死に止めないといけないんです。怪我してもいいから投げさせるのはスポーツでしょうか?それを推奨するような指導者でいいのでしょうか?親でいいのでしょうか?仲間でいいのでしょうか?

 「肩が潰れても自分はチームのために投げたい!」

 「よし!○○!いってこい!」

 え?そんな簡単に投げさせるの?もう二度と大好きな野球ができなくなるのよ。青春を捧げた大好きな野球がたった2年半の高校野球のためにできなくなる。親からもらった大切な体の機能を失う。そのことを理解しているのでしょうか。これはスポーツではなく戦争に思えてしまいます。肩は特攻隊なんでしょうか。

 もう少し、立ち止まって考える環境を「休息」の中にいれてあげることで体も休まるし、精神的にも休まり考える力が湧いてくると思うんです。

 野球人口が少子化をはるかに上回るスピードで減っていっています。減ってる原因は様々ですが、昔のように野球しかない時代ではありません。たくさんのスポーツの中から野球を選んでもらわないと野球界の未来はありません。今までと同じやり方で今の人気が50年続くかといえば誰もが「?」となるでしょう。もう少し根性論を捨てて、時代に合わせた野球をしていくことが野球界の発展に必要なことだと考えます。

 スポーツの定義とは、教育の定義とはなんだろう。僕の中でもう一度考えなければいけないテーマをいただいた大会でした。野球界の発展を今後も期待しております。



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