みてわかる電子回路「PN接合ダイオードを含む回路」

ここではPN接合ダイオードを含む回路での基本的な考え方を解説します。
(ご利用にあたり免責事項をご一読ください)


PN接合ダイオードの特性を近似的に与えるモデル

PN接合ダイオードの静特性は指数関数的な変化を示しますが、回路動作を考えるときはこれを簡略化して考えたほうが便利な場合が多くあります。そこでダイオードの静特性を近似する度合いに応じて、いくつかのモデルを用意しておくことにしましょう。

まず「最も簡略化したモデル」では、PN接合ダイオード両端の電圧が順方向バイアスの方向であればいくらでも電流を流すことのできる導線とみなし、逆方向バイアスの方向であれば切断されているとみなします。

次に「適度に簡略化したモデル」では、PN接合ダイオードの順方向バイアスがある一定の電圧 $${V_{\rm{T}}}$$ を超えたときにいくらでも電流を流すことのできる導線とみなし、そうでなければ切断されているとみなします。

最後に「厳密なモデル」では、静特性を近似することなく指数関数的に滑らかな変化を示すものとして取り扱います。

どのモデルを選択するかは、PN接合ダイオードが使われている回路や、回路解析によって何をどこまで明らかにしたいのか、によって決定します。

抵抗とPN接合ダイオードの直列接続

それでは、例として抵抗とPN接合ダイオードが下図のように直列に接続されており、直流電圧 $${V_{\rm{D}}}$$ [V] が印可されているという場面を考えましょう。このとき抵抗とダイオードに挟まれた端子の電圧を $${V_{\rm{A}}}$$ [V] とし、この回路全体に生じる電流を $${I_{\rm{D}}}$$ [A] とします。
ここで $${V_{\rm{D}}}$$ を変化させたとき、$${I_{\rm{D}}}$$ や $${V_{\rm{A}}}$$ はどのように変化するのでしょうか?基本的にはコチラの考え方に沿っていきます。では順を追って見ていきましょう。

まずダイオードだけに着目して、点Aの電圧が仮に自由に変化したときにダイオードに生じる電流の様子を図示します。ただしここでは、PN接合ダイオードの「適度に簡略化したモデル」を用いて考えていきましょう。すると下図のような電流と電圧の特性が得られます。

次に抵抗だけに着目して、点Aの電圧が仮に自由に変化したときに抵抗に生じる電流と電圧の関係を図示します。ここでは直流電源 $${V_{\rm{D}}}$$ の影響によって、自由に変化する電圧が $${V = V_{\rm{D}}}$$ のときに抵抗の両端の電位差がゼロとなるため電流がゼロとなり、逆に $${V = 0}$$ のときは抵抗の両端に $${V_{\rm{D}}}$$ が生じるため $${I = V_{\rm{D}}/R}$$ が流れます。以上から下図のような特性が得られるでしょう。

実際には抵抗とPN接合ダイオードは接続されていてお互いに関係しあっているので、 先ほどの二つの線を同時に一つのグラフ上に書きます。端子 A では電流がこの回路の外部に流出することがなく外部から流入することもないので、抵抗に生じた電流とPN接合ダイオードに生じた電流は等しくなければなりません。つまりこの回路で「実際に実現する」状態は、二つのグラフの交点で示される状態になっているはずです。言い換えると、この交点の電圧 $${V_{\rm{A}}}$$ と電流 $${I_{\rm{D}}}$$ が、この回路で実際に実現する電圧と電流を表します。

VDの変化による影響を図で考える

ではここから $${V_{\rm{D}}}$$ を変えていくとどうなるでしょうか?ダイオードの特性には $${V_{\rm{D}}}$$ は影響しないので、ダイオードのグラフは変化しません。ところが抵抗の特性には $${V_{\rm{D}}}$$ が影響しており、$${V_{\rm{D}}}$$ がゼロから大きくなるに従って図のように抵抗の電流電圧特性を表す直線は右上にシフトしていきます。これに伴って交点が移動していくので、その時の交点の電流と電圧を追跡していけば、$${V_{\rm{D}}}$$ が変化したときの $${V_{\rm{A}}}$$ と $${I_{\rm{D}}}$$ の変化の様子を視覚的に図示することができます。

このようにして、$${V_{\rm{D}}}$$ が変化したときの $${V_{\rm{A}}}$$ と $${I_{\rm{D}}}$$ の変化は下図中の黒い実線のようになることが簡単にわかります。もしも厳密なモデルを用いて同様の考察を行ったとすると、それは適度に簡略化したモデルによるポキポキとした結果をちょっと丸っこくした形となるでしょう。

以上の考え方を用いれば、複雑な数式を計算したり数値シミュレーションを行ったりすることなく、さっと手書きすることで回路の挙動をざっくりと把握することができます。このようにして大まかな動作を理解していれば、そのあとで数式やシミュレーションで厳密な計算をする際にとても心強いガイドになってくれるでしょう。