みてわかる電子回路「バイポーラトランジスタを含む回路」

ここではバイポーラトランジスタを含む回路の基本的な考え方について解説します。
(ご利用にあたり免責事項をご一読ください)


PNP型BJTとNPN型BJT

バイポーラトランジスタ(BJT)はN型-P型-N型という構造だけでなく、P型-N型-P型という構造によっても作製できます。 P型-N型-P型という構造を持つBJTは「PNP型」とよばれ、 N型-P型-N型という構造を持つBJTは「NPN型」とよばれます。 いずれのBJTでも動作原理はほぼ等しく、以下の点において共通しています。
(a) ベース領域が薄い構造である
(b) エミッタ・ベース間のPN接合が順方向バイアスされる
(c) コレクタ・ベース間のPN接合が逆方向バイアスされる
(d) エミッタから電流の主役となる粒子が放出され、コレクタで収集され、ベースでその流れが制御される
(e) エミッタ電流の殆どはコレクタ電流となり、その一部がベース電流となる
(f) 同様の静特性を持つ
PNP型とNPN型の主な違いは、主役となる粒子の違い(PNP: 正孔、NPN: 電子)、上記(b)(c)を実現するために外部から印加するバイアスの向き、そして電流の向きとなりますね。

回路図中でのBJTの表記

PNP型BJTとNPN型BJTは、回路記号では図のように区別します。いずれの記号でもエミッタ側に矢印を書き、その向きはP型半導体からN型半導体に向いていると考えると覚えやすいですね。

このシリーズでの回路図の表記習慣

このシリーズでは、回路中の最低電位(ほとんどの場合は接地)となる線を回路図最下部に書き、最高電位(たとえば回路全体を動かす電源電圧など)となる線を回路図最上部に書くよう努めています。このため、電流は回路図の上部から下部に流れ落ちる向きになり、BJTの種類により下記のような向きに回路図中に書き込む場合が多くなります:
(a) NPN型BJTは、エミッタが下となりコレクタが上となるように書く
(b) PNP型BJTは、エミッタが上となりコレクタが下となるように書く

BJTの動作条件

BJTが動作するにはある一定の条件があり、それはNPN型でもPNP型でも基本的には同じです。

まずベース・エミッタ間電圧の条件についてみていきましょう。BJTは、ベース電流がある程度流れなければ、それに比例したコレクタ電流も流れません。ベース電流 $${I_{\rm{B}}}$$ は本質的にベース・エミッタ間のPN接合ダイオードに生じる電流であるため、ベース・エミッタ間電圧 $${V_{\rm{BE}}}$$ がある程度の電圧 $${V_{\rm{T}}}$$ [V] 以上でないと動作しません。

次にコレクタ・エミッタ間電圧の条件はどうでしょうか?BJTは、コレクタ・ベース間PN接合にある程度の逆方向バイアスが印加されていないと、十分なコレクタ電流 IC を確保することができません。このため、BJTはコレクタ・エミッタ間電圧 $${V_{\rm{CE}}}$$ が $${V_{\rm{BE}}}$$ に比べある程度以上大きくないと動作しないといえます。

エミッタ接地回路の動作

BJTを含む回路の中で最も簡単なものは、下図のように抵抗とBJTを直列接続した「エミッタ接地回路」と呼ばれるものです。この場合も、ダイオードや抵抗が直列接続された回路での考え方と同様に捉えることができるので、まずはコチラを参照されることをお勧めします。この考え方をBJTを含む回路でも適用しますが、BJTではベースに生じている電流によってその素子の電流電圧特性が変化する、という点が異なるので注意が必要です。

通常はバイポーラトランジスタのベースに抵抗 $${R_{\rm{B}}}$$ $${[\Omega]}$$ を接続し、それを介して電圧 $${V_{\rm{B}}}$$ [V] を印可します。このようにすることで、BJTのベースエミッタ間にあるダイオードに生じる電流が $${V_{\rm{B}}}$$ に対して緩やかに(ほぼ線形に)変化するため、BJTの動作がマイルドになり制御しやすくなります(線形になる理由はコチラをご参考ください)。もしこのベース抵抗がないと、 $${V_{\rm{B}}}$$ がほんの少し変化するだけでBJTのベース電流(したがってコレクタエミッタ間の電流)が大きく変化してしまい、まともにBJTを使いこなすことができなってしまいます。

では、この回路でベース電圧を $${V_{\rm{B}} = 0}$$ から増やしていく場面を考えましょう。
このBJTのベースエミッタ間にあるダイオードに電流が生じるために必要な電圧を $${V_{\rm{T}}}$$ とすると、 $${ 0 < V_{\rm{B}} < V_{\rm{T}} }$$ の間はコレクタエミッタ間に電流が生じないため、下図右側グラフ中の交点はほぼ下に張り付いています。
やがて、 $${ V_{\rm{T}} < V_{\rm{B}} }$$ となるとコレクタエミッタ間電流は $${V_{\rm{B}}}$$ に対してほぼ比例して増加し、下図グラフ中の交点はそれに従って左上に移動するでしょう。
さらに $${V_{\rm{B}}}$$ が大きくなると、交点はBJTの電流電圧特性がグンと立ち上がる部分に差しかかります。いったんここまで行くと、そこからは $${V_{\rm{B}}}$$ を大きくしても交点の位置はあまり変化しなくなります。

以上のようなグラフィカルな考察から、交点の座標である $${V_{\rm{A}}}$$ が $${V_{\rm{B}}}$$ の変化に応じてどのように変化していくかをグラフにすることができます。
まず $${ 0 < V_{\rm{B}} < V_{\rm{T}} }$$ ではBJTのコレクタエミッタ間に電流が生じないため $${ V_{\rm{B}} = V_{\rm{DD}} }$$ となり、$${ V_{\rm{T}} < V_{\rm{B}} }$$ では $${V_{\rm{B}}}$$ に比例する電流がコレクタエミッタ間に生じるため、抵抗 $${R}$$ での電圧降下による $${V_{\rm{A}}}$$ の低下がほぼ線形に生じます。さらに $${V_{\rm{B}}}$$ が大きくなると、上図中のグラフにおいて交点があまり変化しなくなるため、 $${V_{\rm{A}}}$$ は $${V_{\rm{B}}}$$ を変えてもほとんど変化せず低いところにとどまります。
以上から、エミッタ接地回路の $${V_{\rm{B}}}$$ と $${V_{\rm{A}}}$$ の関係(入力と出力の関係)は下図のようになります。