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壊れた時計

長年、部屋に掛けっぱなしだった掛け時計がとうとう壊れた。

単2電池ひとつで何年も動くのだが、月に一度くらい直さないと、5分くらい進んでしまう、せっかちな時計。


無音でスルスルと動く針。大きな文字盤。他になんの機能もない、シンプルな時計で、自分で買ったのではないが気に入っていた。

それが、先月の終わりくらいから、ぶーーーーーんと鈍い音がし始めたので電池を替えたのだが、どうしても、12から2にかけてのカーブを針が通りきれない。
接触不良かと電池の接触部分を磨いてみたり、角度を変えたりしてみたが、やはりだめだった。
ちょっと動くのだが、またぶーーーーーん。
この、ぶーーーーーん、という異音が寝てても耳に障る。限界だ。

くるっと裏を返してみると、SEIKO RA7241  の型番の下に、最初に電池を入れた日と思しき日付があった。

54.4.10

昭和54年、1979年。
つまりこの子は43年もひたすら無音で家族に時を知らせてくれていたらしい。
私が実家に戻って17年になるから、私自身もずいぶんお世話になった。

下に渋谷時計眼鏡店、の文字。
父は自治省(もう今、自治省なんて知らない人も多いのでは…省庁再編前の組織で今は総務省が引き継いでる)勤務で霞ヶ関にいたので、その折にいただいたものと思われる(家は埼玉だったから、霞ヶ関の人事院店でわざわざ時計は買うまい)。両親ともさすがにその経緯までは覚えていなかった。

シンプルなものほど長持ちするってことなんだろうなあ、と文字盤を見つめつつ、別れを惜しんで淋しい気持ち。

長い間、ありがとう。

月曜日の金属ゴミの日に、お別れである。

新しい時計は別にスマホもあるし、電波時計もあるし、なくてもいいかなーとしばらく外して過ごしてたのだけれど、目が覚めて布団からパッと見上げただけで時間がわかるのは割と便利なんだと気づき、今日、新しい時計を買ってきた。

赤い針がおしゃれだ。単3で動く身軽な子。
これから43年もは必要ないとは思うけど、できる限り長い付き合いができるよう、どうぞよろしく。



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