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寿曾我対面、十郎の右手(修正再録)

※Facebookのノートに書き残していたものをサルベージ・加筆しています。
2012年1月平成中村座。突発性両側性感音難聴から復帰後の7カ月ロングラン、その4ヶ月目でだいぶ調子を取り戻しつつあった勘三郎さんは「寿曽我対面」で初役の十郎を勤めました。曽我五郎は橋之助さん(現・芝翫)。五郎を押し止める十郎の右手の高さと角度の話。
当時、Facebookには書かなかったのですが、実はこの話、試演会の開演前に手紙に書いて勘三郎さんに渡してありました。それを読まれたうえでのお話で、舞台上から回答をもらったという…Twitterで水平じゃないとおかしい、美しくないという批判がかなり出ていたので直に答えてもらって胸がスッとした思い出。2021.2.19付記。


寿曾我対面。
今月の中村座、夜の部、最初の狂言です。
勘三郎さんは初役の十郎。筋書によれば、六代目菊五郎の「藝」に細かく書かれた心得どおりになさる、とのこと。
初日、7日と二回拝見して、とても印象的だったのは、右手の使い方。
小指をそり気味にして、常に五郎の胸元の同じ位置に添えられている。緊張感のある右手。

上述の「藝」によれば、小指はそらせること、五郎の帯の上、乳の下あたりに置くのが最もいい形、との記載があり、それに確かに従ったのだろうと思われます。
それ以外に、おそらくは特徴的だろうと思うのは、本舞台に差し掛かってからの五郎を留める動きで、手の甲がこちらに見えていることが多かったこと。
過去、見てきた十郎はたいがい甲は見えず、床に水平に留めていたので、その違いが目に止まりました。

勘三郎さんがそうするからには何かわけがあるのでしょうが、「藝」には小指と置く位置以外の言及はない(逆に床に水平にしろ、との言及もありません)。
ただ比べてみると、この方が確かに「押しとどめている」ように感じられるな、とも思います。手のひらでぐっと、五郎の衝動を抑え込む。

気になったので、国立劇場の文化デジタルライブラリから十郎のブロマイドを検索してみたところ、もちろん水平にしている(=手の甲が見えない)十郎も多いのですが、案外と甲を見せている十郎も多いのがわかります。
特に六代目は何枚かそういうものがあり、六代目の研究に余念のない勘三郎さんのことだから、おそらくは参考にしたブロマイドがあるのだろう、と思われました。
本当のところはわかりませんが。

文化デジタルライブラリ
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/

六代目菊五郎の十郎(1)
六代目菊五郎の十郎(2)
六代目菊五郎の十郎(3)

いい加減、六代目の写真集、買おう…。



後日談。
試演会にて、吉崎アナが勘三郎さんに初役の十郎の感想は?と聞いたときに、感想も何も…と言いながらこんな話をしていました。

「柔らかさがいるがそれだけでもない。情を交わすとかそういうことがない、様式美の作品ですから、そうかといってペッタリした人形でもだめだしね。難しいです。細かくいろいろ決まりがあってね、たとえば、最後の袴の中とかこんな恰好してんですよ(と、左足の甲を下にして反る形)、見えないでしょうけど(笑)まあやってるんです。こう、五郎を止めるときでもね、手の甲を見せるようにして…」

!!
あっ、この話!
さっき渡した手紙に書いたことだ!
…とは思ったけど、まさかまだ読んでいるとは思わなかったので、おお、やっぱり意識的だったのねーと我が推量にたがいなし…と客席でニンマリの私。

実は。
某所で「おざなりだ、どんな十郎でもあれは床に水平。水平にやるものだ」という批判を見て、あんなに初役で気合入ってるのにおざなりになんかやるかぁっ!確認してやる!と思って、むかっときた私(笑) 上述のようなことを調べたうえて、手紙にそういうことですよね?と書いておいたのです。

その後、ちらっと私のほうに目をやりながら(最前列でした)「今はあまりやりませんけど、じいさんたちの頃はそうしてました。ブロマイドなんかにも残ってるしね」と。

…というわけで、舞台から質問の答えをもらいました。
ありがとう、勘三郎さん(笑)

終演後、車が楽屋口に止まってたので道路際でお見送りしていたら、窓を開けてにっかーと笑いながら「ねえ、ほんっとによく見てるよねぇ!」と。
やっぱり読んだんだー(笑・番頭さんに渡してから座談会まで15分くらいしかなかったはずなのにぃ!)。
思わず「スッキリしましたー!」と笑いあう。

勘三郎さんはすごく上機嫌に「ほんっとに細かいとこ見てるよね、貴女。貴女みたいな人が劇評書けばいいのに!」

断っておくと、これは完全に勘三郎さんの買いかぶりで、私が細かいのは勘三郎さんに対してだけなので、勘三郎さん以外のことはザルですから…以前にもそういうことはお伝えしてあったんですが、結局、何回か言われましたね…。
しかし「この人、古典はからきしだめ!」って言ったのと同じ口でそれを言うのね(ふっ…)とシニカルな気持ちも湧いたりして(前に酔ってる時に私のことをそう評したのですよ、勘三郎さん)。

「いやーなんか、水平が正しいんだ、(中村屋は)間違ってるって言う人がいたもんだから、そんなことないと思って調べたんです。これで安心しました」
「そんなこと言うやついるの? ばーか!って言っといて、ざまあみろって。ねっ、伝えてよ!」

えーっ、伝えられませーん(^◇^;)

…と当時は思ったんですが、だいぶ時も経ったのでここに書いておきます(笑)

あーほんとにスッキリした(笑)


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