見出し画像

切なくて甘いのが秋

よしもとばななさんの小説を久しぶりに飲んだ。(読んだ、の書き間違えなのだけど、あながち間違いでもないと思ってそのままにすることにした)

よしもとばななさんの文体なのか、なんなのか、もうとにかく好きで、滋養という言葉が浮かぶ。
癒されるのだ、じんわりと、心の底が。
インドカレーを食べた時、みたいな感じ。
(今猛烈に、辛くない、豆がたくさん入った黄色いインドカレーが食べたい)

登場人物の男の人が特に好きだ。
女の子たちもみんな魅力的だけれど、こんなに静かで穏やかな男の人に人生で一度くらいしか出会ったことがないかもしれない、と思う。よしもとばななさんの言葉を借りるなら「気持ちの暴力が極めて少ない人」

その子がわたしの部屋に来て、「女の子の部屋じゃないみたいだね」と言って寝転がってわたしの部屋の本棚から何気なく本を選んで読んでいた。

それは山﨑ナオコーラさんの「男と点と線」という本だったのだけど、読み終わってから「やまめちゃんってこういう男の人が好きなんでしょ」と言って悪戯っぽく笑った笑顔が忘られない。
なんで分かったんだろうって驚きながら嬉しかったことも。

正しい道、とか、正しい気持ち、とか、そんなものはないしそれぞれにあるのだけど、わたしにとっての正しさが蘇ってくる本というのがある。

そのひとつがよしもとばななさんの本だ。

ひとってもっと目に見えないものでつながってそれが見えないからないことにされているだけで、当たり前にどこにでもあるのだということを思い出させてくれる。

先週恐ろしい夢を立て続けに見て、久しぶりに泣き叫びながら目覚めた。
トラウマというのは忘れた頃にひょっこり顔を出す。
それでも顔を洗って、朝ごはんを食べて、朝の支度をして、働かなければいけない。
その日一日薄い暗い幕が頭の片隅を覆って、何かカウンセリングとかそういうものにいかないといけないのかなと考えながら、めんどくさいなぁと思う自分の心の動きに笑って、とりあえず今日常に支障はないから放っておこうという気持ちになった。

この世に生きているひとは、目に見える形でもそうでなくても、みんななにかしら心に傷を負って生きている。
その傷を可哀想だ可哀想だと自分で言って他人のせいにしてひとを傷つける口実にする人がいるけど本当にそういう人が嫌いだ。
想像力が足りていない。
みんな口にしないだけでものすごいものを抱えて生きている。

若い頃、わたしがあまりにも楽天的でのほほんとしていたからなのか、何かそういう星の元なのかは分からないけれど、べろんとその傷をあまりにも無防備に共有されることが多かった。

ありとあらゆる形のその傷をながめて驚きながら、人はこんなに大きな傷を抱えながら擬態してニコニコ暮らせるんだということが1番衝撃だった。

今あなたの横でニコニコ笑っている人は、昔恋人が自殺したかもしれないし、親に殺されかけたかもしれないし、恋人に洗脳されて水商売をさせられたかもしれないし、事故で母親と兄弟を失ったかもしれない。

でもそんなことがあったよ、なんて誰も言わない。
大人はその後に出会った人にわざわざ、昔こんなことがあってね…なんてよほどの時でないと言わないから。

何か決定的な出来事がある前と後ではまるで人生が変わってしまう。
そういうところに、今みんな生きている。
うっすらとでもそれを理解したことで、誰のことも羨まず生きていけることができるようになったのかもしれない。

ここ数年のわたしの人生で欠けていたものの一つが「本を読むこと」だったのだろうな、と最近思っている。

ドラマ・映画を見ること、本を読むことは当たり前に人生にあるものだったから、それが自分にとってそんなに大切だなんて時間がなくなるまで気づかなかった。

自分の性質だとか特質だとか何年かけても正しく把握できる気がしない。
変わり続けるものと変わらないものが8:2くらいの割合な気がしていて、でも実は逆なのかも?ほとんどがあまり変わらない性質にどんどん固定されていってるのかな、とか考えても仕方ないことを考える、これもまたわたしのひとつの性質。

週末は秋晴れというにはまだ暑すぎるけど、朝晩は涼しくて秋らしくなってきたので息子と焼肉の食べ放題に行ったり、心ゆくまで家でゴロゴロして過ごした。

明日からさらに慌ただしさが加速する予感がある。
健やかなエネルギーをもつ生き物が常に隣にいてくれることってありがたいな、と息子の寝顔を見ながら思った。
間違ったところには行けない。
もう絶対に行かない。
そんな小さな決意と慎重な気持ちを吹き飛ばすような出来事が起きたとしても、息子と2人無風のこの空間で起きて眠って食べて生きていくんだよな、これから先10年くらいはまだそばに居てくれるよね?と思いながら本を閉じて部屋の電気を消した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?