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【技術深堀】新しい無人レジの潮流「持ち運べるレジ」はどこへ向かうのか

AmazonGO Grossaryがオープンし、ますますレジレスソリューションが脚光を浴びる中、無人レジはその役目を終えたというような言説もちらほら聞かれるようになりました。

ですが、本当にAmazonGOは無人レジを駆逐するのでしょうか?と言うことで、今回は無人レジ、その中でも「持ち運べるレジ(スマートフォンレジ)」について書いていきたいと思います。

■AmazonGOは単なるレジレスショップ

まず最初に。大変荒っぽい言い方になりますが、AmazonGOは現時点で無人店舗ではなく単なるレジレスショップであり、店舗そのもののオペレーションはレジ部分以外全て一般店舗と同じです。つまり、レジレスを実現するための膨大なシステムコストを吸収することは現時点では不可能であり、一般店舗に導入するメリットは現時点ではないと言っても過言ではありません(そもそも当のAmazon自身はそこを目指していないはずです)。

そして、この「高コスト」部分を機材の低価格化と無人店舗を前提としたオペレーションにすることでコスト回収を狙うサービスが目下増えています。ただ、商用を考慮するとまだまだ未熟なソリューションであり(特に日本市場においては)、普及するためには今後の成熟を待たなければいけないのが正直なところです。

ただ、その成熟を待つだけの時間もなく、昨今の人手不足の情勢に待ったがかかる可能性はありません。そこで、消費者にとって高ストレスになりかつ従業員負荷を押し上げるレジの簡素化は急務であり、それに合わせるようにレジそのものを消費者に操作させる無人レジが急速に普及してきました。

■新たな無人レジのカタチ~「持ち運べるレジ」

そうした中、新しい無人レジとして生まれたのが「持ち運べるレジ」、いわゆるスマートフォンレジです。スマートフォンアプリとしてレジ機能を実装し、消費者は商品のバーコードを読み取って最後に事前登録したクレカ情報などを使って決済する仕組みです。最近だとイオンさんで採用された「レジゴー」が典型例ですね。

「レジゴー」の場合は専用スマホを貸し出してそれを使って商品をスキャンするタイプなので、いちいとアプリをインストールすることなく利用可能なところがちょっと違うところですが操作方法は一般的なものと同じです。米国では「Scan&Go」として知られた方式ですが、日本でも少しずつ浸透し始めました

■過去失敗していたScan&Go~ウォルマートの失敗

ただこのScan&Go、実は米国では失敗の烙印を押されています。いち早くこの方式に目を付けたウォルマートが導入し一部店舗で実験していたのですが、現在はその設備を撤去し提供しておりません。

ではなぜそうなったのかと言うと、残念なことに万引きが多発し、結果警備員が退店前にショッピングカートの中を確認する必要が出たため、当初の「レジをなくしコストを下げる」計画を達成できなかったからだと言われているからです。米国でも賃金単価の上昇は問題で、特に小売業における人件費率は非常に大きな課題となっていたため、この失敗は非常に痛手であり、後のウォルマートの方向性に大きな影響を与えることになります。

■万引きは発生事象の1つに過ぎない~問題の本質を捉える

では日本においても同じ結果になるのではないか?…そう考えるのは妥当だと思いますが、おそらく失敗の本質はそこではないと思います。私が考えるに、万引きも問題ですが、それ以上に「それを使うと消費者に何のメリットがあるのか?」が不鮮明だったことが大きな原因だと思います。

少し前に「無人レジを入れたのに有人レジが余計に混雑する」と言う話を書きましたが、結局消費者が使わなければ価値がないどころかマイナスになるうえに、加えて”もし”使う人が万引きを目的に使う人ばかりになったとしたら、それは仕組みの良し悪しの問題ではなく単純に「消費者に使われない」ことが問題の本質だと思うのです。

単に従業員のレジ業務負荷を下げるためにScan&Goを「使わされる」としたら…そして、毎回退店時に万引きしていないか警備員に監視されているとしたら…普通の人なら、そっとScan&Goを棚に戻し、有人レジに向かうのではないでしょうか?そして、そういった中でわざわざScan&Goを使う人は…と言う考え方、簡単にできるのではないでしょうか。

■「持ち運べるレジ」が顧客体験を変える

と言うことで、一般的な無人レジにも言えることなのですが、やはり「消費者が受けるメリット」がはっきりと伝わるものではないと難しいと思います。単にレジとして機能するだけではなく、消費者もその行動を取ることで受け取るメリットがある…そういうものに進化するのではないではないかと推測しています。

一般的な無人レジと異なり消費者が常にレジを持ち歩いているようなものなので、特定条件下での割引をその場で消費者が分かるように提示したり、移動場所を検知して動画でイチオシ商品をPUSHするなど、消費者にとってよりベターな買い物経験を提供できるようにもできます。また、消費者の行動動線を記録することで、より最適な商品配置や誘導動線の作り方もできるため、消費者が買い物をすればするほど体験が高まることが期待されます。

さらに、店舗から配られるものを使って慣れてもらい、そのまま自身のスマホにアプリを入れてもらえるようになれば、より深い購買行動データを取得うことが可能となりますし、さらにはお店に来ていない時にも情報の提供を行うことができることで、お店への忠誠心が向上することも期待できるはずです。

使い方次第ではレジレスより低予算で無人レジよりも効果的な消費者体験を提供できるかもしれない「持ち運べるレジ」。今後が楽しみですね。


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