400 Bad Requestラーメン
第一章:謎のラーメン屋
そのラーメン屋を見つけたのは偶然だった。
夜遅く、残業でくたびれた体を引きずりながら歩いていると、小さな提灯が目に入った。
「ラーメン」とだけ書かれた、何の変哲もない提灯。だが、その店から漏れる香りは、空腹の私を引き寄せるには十分だった。
のれんをくぐると、カウンター席だけの狭い店内。白衣を着た無表情な店主が一人立っていた。客は私一人だけ。
「いらっしゃいませ。」
店主の低い声が、薄暗い店内に響いた。
「塩ラーメンを一つお願いします。」
何の気なしに口にしたその言葉が、地獄の始まりになるとは思いもしなかった。
店主は一瞬、無表情のままこちらを見つめ、それから静かに言った。
「その注文は400 Bad Requestです。」
第二章:修正不可能なリクエスト
「え……?」
何か聞き間違えたのかと思った。
「すみません、塩ラーメンを……」
「400 Bad Requestです。」
今度は明確にそう言った。
何がいけなかったのか、理由を尋ねても店主は口を閉ざすばかりだった。
「リクエストが不適切です。修正して再度お試しください。」
「修正って、何を修正すればいいんですか?」
「それはお客様が判断することです。」
私は困惑しながらも、思いつく限りの注文を試した。
「じゃあ醤油ラーメンで。」
「400 Bad Request。」
「麺は硬めでお願いします。」
「400 Bad Request。」
「……じゃあ何でもいいです。適当に作ってください。」
「400 Bad Request。」
説明のない拒絶が続く中、私は次第に追い詰められていった。
第三章:不条理の哲学
店主は一切の感情を見せないまま、ただ繰り返すだけだ。
「400 Bad Request。」
怒りを抑えきれず、ついにカウンターを叩いた。
「いい加減にしてくれ!こっちはただラーメンが食べたいだけなんだ!何が間違っているのか教えてくれ!」
店主は初めて微かに眉を動かし、静かに答えた。
「ラーメンは、正しいリクエストを通じてのみ提供されるものです。」
その言葉は、どこか宗教めいていた。
第四章:終わらないループ
その後も挑戦を続けたが、何を試しても結果は同じだった。店内の時計は進み、気づけば深夜を過ぎていた。
空腹と疲労で体が重い。心も折れかけていた。
なぜこんな目に遭うのか。
このラーメン屋の目的は何なのか。
もはや疑問すら意味を失いつつあった。
そして、ある瞬間、私はふと気づいた。
「……もしや、この店のシステムそのものが壊れているのでは?」
第五章:真実のラーメン
疑念を胸に、最後の力を振り絞ってこう言った。
「塩ラーメン、一つお願いします。」
店主は無表情のまま、かすかにうなずいた。
「リクエストが受理されました。」
突然の変化に言葉を失う私。
数分後、目の前に置かれたのは湯気を立てる塩ラーメンだった。
一口すすると、驚くほどの旨味が舌に広がった。今まで食べたどのラーメンとも違う、極上の一杯だ。
「なぜ、急に……?」
問いかける私に、店主は静かに答えた。
「最初のリクエストが正しかったのです。ただ、あなたが気づく必要がありました。」
その言葉の意味は最後までわからなかったが、ラーメンは間違いなく美味しかった。
エピローグ:次なる挑戦者へ
私は店を出た。外はもう朝日が昇り始めていた。
「また来てください。」
背後から聞こえた店主の声に、私は思わず苦笑した。
次にこの店を訪れる勇気があるかはわからない。だが、あの一杯を超えるラーメンに出会える日は来るのだろうか。
路地裏の提灯は静かに揺れていた。
「400 Bad Requestラーメン」――それは、味わった者だけが知る、究極の地獄と至福の物語だった。