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この世も末。〜The Last Dinner Party - Prelude to Ecstasy〜

 BBCが発表したSound Of 2024で第1位に選ばれたザ・ラスト・ディナー・パーティー(略してTLDPで)のファーストアルバムがリリースされた。2013年のハイム以来、約10年ぶりにバンドが受賞し、今年の目玉として注目されている彼女たちは、サウス・ロンドンを拠点に活動を続けている。サウス・ロンドンというと、自分の記憶からして、2017年〜2018年頃にブラック・ミディやシェイム、ソーリーなどのバンドが出てくるなどして熱い盛り上がりを見せていたところだ。その一方で、TLDPはそのシーンとはまた違う、外側のところから出てきたバンドだなという印象を持っていた。「インディ」とは少し距離があって、「ポップ」とも言い難いような、曖昧な立ち位置にいる彼女たちが不思議でならなかった。ゴシック風のスタイリングが完璧で、もう少し正直なことを言うと、ビジュアル以外はなんの前情報も入れていないままファーストアルバムを聴いてみた、筆者の感触を述べていきたい。

 中世の貴族を彷彿させるようなオーケストラのサウンドから始まり、ニューウェーブを感じさせるシンセサウンドや幾重にも重ねたコーラス、不穏にも感じるストリングスなど、誰もが聴いたことのあるようなサウンドが並べられている。聴き慣れているものばかり。まるでスマートフォンを手に入れようが、AIが出て来ようが、世の中は大して変わっていないのだと、別に私たちは大したことはしていないのだと、高らかに宣言しているかのようなアティチュードはあまりにも潔く見えた。それもそのはず。分かっているのだ。今や、ロックのカタログがごまんとある中で、新しいモノはその歴史を踏まえた上で生み出されるモノなんだと。それは生半可な人間ができることではない。それ以上に、彼女たちは1曲の中にいくつもの展開を用意している。それにしても退屈だ。それでも彼女たちは奏でる。そうして流れ着く先は「Nothing Matters」。なんて狂おしいポップ・ソングなのだろう。もう世紀末だ。エクスタシーはどこかに飛んでったよ。ははは。Everybody feels the same? そんなの知ったこっちゃない。そう感じながら、今日もまた歩いている。

 ...と書いてはみたが、ファーストアルバムを聴いてみただけでは「分からない」、「判断保留」と言わざるを得ないのが正直な感想だ。だが、何回も曲を展開していくその手腕・実力はただものではないということが分かった。筆者が彼女たちにこれから期待しているのは、誰もが惚れ惚れするようなポップネスだ。そのポップネスを兼ね備えた時、彼女たちは間違いなく時代を駆け抜けるバンド・アイコンとなるだろう。もしこの1枚が本当にプレリュードであるならば。

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