令和4年司法試験予備試験租税法の問題解説(答案例つき)

1 問題

 Aは、宅地建物取引士の資格を持ち、宅地建物取引業の免許を得て、平成10年4月から同30年12月まで、個人で不動産業を営んでいた。Aは、その就業規則に基づいて、不動産の販売業務に従事する使用人(以下「営業社員」という。)に対して、通常の給与とは別に、営業社員がA所有の不動産を顧客に販売した場合に、その契約高に比例した金額の金員を「契約報奨金」という名目で支給していた。営業社員が営業活動のために交通費や交際費を支出した場合、Aがその金額を補填していた。しかし、補填には年ごとに上限額があり、営業社員がその上限額を超えた支出をして差額を自己負担することも珍しくなかった。
 Aの営業社員の一人であるBは、宅地建物取引士の資格を持っている。Bは、平成25年、通常の給与として800万円、契約報奨金として1000万円をAから受け取った。同年にBが営業活動のために支出した交通費及び交際費の合計額は70万円であり、そのうちAから補填を受けた金額は60万円であった。
 Aは、宅地建物取引士としての知識や、不動産業を営んできた経験に基づいて、平成26年3月に、不動産取引に関する書籍を株式会社Cから出版した。Aは、同年9月に、同書に係る印税収入として30万円を得た。
 Aは、販売用に所有していた甲土地の譲渡に関して、平成28年4月から個人Dと交渉を始めた。平成29年11月30日に、Aが甲土地を5000万円の対価によりDに譲渡する旨の契約が締結
され、同日、売買契約を原因とするDへの移転登記を経由した。しかし、当時Dの資力に一時的に制限があったため、実際にDのAへの5000万円の代金支払が完了したのは、平成30年1月10日であった。
 Aは、平成25年から同30年まで、E証券会社にA名義の口座を設けて、外国為替証拠金取引(外国通貨の売買を、一定の証拠金を担保にして、その証拠金の何倍もの金額で行う取引。以下「FX取引」という。)を行っていた。Aは、この期間中に、年200回から300回のFX取引を行い、平成25年には50万円余の利益を得たが、平成26年から同30年までは年100万円から300万円の損失を生じていた。Aは、FX取引を、主に不動産業の事務所のパソコンを用いてインターネット経由で行っており、他にFX取引のための設備等はなかった。また、Aは、FX取引のための知識を、主にインターネットや雑誌により得ていた。
 Aは、平成31年1月に、Aの不動産業を法人化して株式会社F(以下「F社」という。)を設立し、その代表取締役となった。
 F社は、令和元年6月から令和3年2月までの間に、人気上昇中の避暑地にある土地8区画を購入し、同年4月、別荘用地として売り出した。売出しに当たり、F社は、分譲地内に水道施設を完備する旨を広告用サイトに記載し、購入希望者を現地に案内した際にも営業担当者が同様の説明を行っていた。F社は、土地の販売活動と並行して、地元の建設工事会社G(以下「G社」という。)に対し、水源の確保と水道工事の見積もりを依頼した。令和3年5月、G社は、8区画分の水道工事代金を合計7550万円と見積もり(以下、当該金額を「本件工事見積額」という。)、F社にその旨連絡したが、水源の地主らとの折衝は難航していた。F社はG社に対し、地主との折衝を急ぐよう求めるとともに、水源が確保できた区画から順次、G社の見積額で水道工事を発注すると伝えた。上記土地の売れ行きは順調で、F社は、令和3年11月までに8区画の全てを販売し、令和3年12月までに各購入者への所有権移転登記を済ませ、売買代金全額は水源確保に至らず、工事の着工見込みは立っていなかった。なお、F社は、各購入者との間で、水道工事の菅水源確保に至らず、工事の着工見込みは立っていなかった。
 その後、G社は、地元有力者の助力を得て、残り6区画についても水源を確保するに至り、F社は、令和4年3月、G社に上記6区画の水道工事を発注した。同年4月から9月にかけて8区画の水道工事が順次完成し、F社は、同年5月から10月までの間に、完成した区画の工事代金を順次支払った。F社が支払った工事代金の合計は、本件工事見積額と同額であった。
 以上の事案について、以下の設問に答えなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考えなくてよい。なお、F社及びG社は、毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。

〔設問〕
1 Bが平成25年にAから受け取った契約報奨金に係る所得は所得税法上、いずれの所得に分類されるか、説明しなさい。
2 Aが平成26年に得た印税収入に係る所得は、所得税法上、いずれの所得に分類されるか、説明しなさい。
3 Aが甲土地の譲渡の対価としてDから受け取った金員に係る所得は、Aの所得税の金額の計算上いつの年分の所得となるか、また、いずれの所得に分類されるか、説明しなさい。
4 FX取引により平成26年から同30年までにAに生じた損失は、Aの所得税の金額の計算上どのように扱われるか、説明しなさい。
5 本件工事見積額は、F社の令和3年12月期の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができるか。根拠規定とその趣旨に触れつつ説明しなさい。

(参照条文) 所得税法施行令
(事業の範囲)
第63条
法第27条第1項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
一 農業
二 林業及び狩猟業
三 漁業及び水産養殖業
四 鉱業(土石採取業を含む。)
五 建設業
六 製造業
七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
八 金融業及び保険業
九 不動産業
十 運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一 医療保健業、著述業その他のサービス業
十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業


2 答案例を作成してみての感想

 
まず初めに思ったのは、
「これは70分で処理させる量ではない(問題の量が多すぎる)」
ということである。
問題となる論点はいずれもごく基本的なものであり、設問5以外は既に司法試験の過去問で出題されている。問題文の分量は多いが、(司法試験と同じように)設問毎に場面が異なっている(段落に注目)ので、あてはめにも困らない。故に、もし今回の問題が司法試験で出題されたとしたら(第1問?)、受験生としてはとにかく点数を稼いでおかなければならないところである。

だが、今回は予備試験であり、答案作成の時間(70分、司法試験は90分もあるのに!)も答案用紙の量(枚数は同じ4枚だが、22行なので1行分少ない)もかなり限られている
そのため、受験戦略上はどの設問を厚く書き、どの設問を簡単に済ませるかを考えるのが重要であろう(今回だと、設問1・4・5をそれぞれ1枚弱書くべきだろうか)。

それ以外は司法試験の租税法と何ら変わらない。
所得税法と法人税法の条文と主要な争点を覚え、百選に記載されている判例については判旨をある程度正確に書けるようにしておけば、少なくとも5割の点数はつくのではないか。


3 問題の解説


(設問1)

給与と一緒に支払われた契約報奨金について、給与と同じ給与所得に分類されるか、それとも事業所得に分類されるのかという基本中の基本の論点理解を問う問題。差がつく問題その1。
出題趣旨で「司法試験受験を目指す者に勉強しておいてほしい」とわざわざ言及されているように、本試験でも頻出の論点である。

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