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不動の生涯ベスト10『KAFKA 迷宮の悪夢』

7年ぶりに観た。最初は1991年に映画館で。弟と観たときの記憶は今も鮮明にある。その後、3年〜7、8年おきに観ている。今度は陳腐にみえるんじゃないか、つまらない映画と粗が目立つんじゃないか、と恐る恐る…

しかし、なんだ今観たらつまらない映画だったな、と一蹴するどころか、前よりステキな映画だよ!! 映画館で観た1991年当時、生涯のベスト5くらいに挙げたと思う。それから現在に至るまで、数十年、数百本は積み上げたと思うが、しかし、この『KAFKA』は現時点でも不動のベスト10入りなのだ。

よく邦題が全てをぶち壊した、などとタイトルの話をするが、今回は、今思えば良かった例に入る。原題は『KAFKA』。カフカ自体の知名度も日本ではそれほど高くないし、これだけだとカフカの伝記物だと思う人もいるだろう。サブタイトルの『迷宮の悪夢』というニュアンス、個人的には近未来をも連想する雰囲気が絶対に伝わって欲しいのだ。近未来と言ってもテクノロジーに関しては最後のシーンの拡大鏡(?)くらいで、これも当時の時代に即した技術で、デカいけど、ただの拡大鏡。技術的に未来っぽいのではなく、この映画全体を覆う、なんとも不思議な別次元の未来感とでも言おうか、そういうものがこのサブタイトルからよく感じる。おかげで当時学生だった自分も、「これだけは絶対観る!」と心に決めて観たのを覚えている。最初の画像はフライヤーのイメージだが、今見ても、この映画のニュアンスを的確に表現していると思う。素晴らしい。

今回、特に気になったのが、美術。美術監督がクレジットされてない。まさか、監督のスティーブン・ソダーバーグが兼務?! スティーブン・ソダーバーグは多才な人で、今回も自分が撮影している。別の映画では脚本も。チェコの街並みも、職場も、「城」もすべて美しい。もしそうなら、なんと多才な人なんだろう。

多くの人にとって、スティーブン・ソダーバーグは『オーシャンズ11』のイメージなんじゃないか。26歳初監督の『セックスと嘘とビデオテープ』で、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞という驚くべき快挙を成し遂げたあと、紆余曲折のあった監督だ。なるほど、監督の扱うテーマや映画のタイプも多岐に渡る。栄冠を取ったあと、10年経っての2作目。なので、監督が有名だったから観たのではない。以前もチェックしたが、あらためてこの監督で観てないのが無いか調べ、短編も含め全部観ていた。そして、やはり最初の2作、『セックスと…』と『KAFKA』が抜きんでて最高だ。オーシャンズ…など、今はハリウッド寄りになっているのも悪いことではない。実際問題、モノクロで撮るのは今や難しいだろう。(自分にとっての)監督最高の時期に出会えて幸せだった。

映画自体の話はそれほどしない。説明文にもあるが、カフカその人と、カフカの書いた小説が入り乱れた映画。それがかなりうまい説明だと思う。それだけ知り、次に『変身』以外のカフカの作品を観る前に読んでおけばOK。もちろん、自分はカフカが好きだ。

今回、さらに強烈に好きになったので、次、数年後にまた観るのが今から楽しみになった。次こそどれほどガッカリするだろう、つまらないと辟易するだろう、と考えながら、今からワクワクしている。

映画は、音楽ほどではないが、撮った時代の雰囲気を含んでしまう。80年代テイストの『摩天楼は薔薇色に』とか『フェリスはある朝突然に』とか、それがまた最高だったりする。時代物だろうがなんだろうが、どんなものも免れない。自分の良いタイミングで、この映画に出会ったのは間違いないので、皆さんのベスト10には入らないかもしれないが、生涯のベスト10と言って凝り固まってる人間の話だけは、しかと受け止めたと思ってくれたらこれ以上の幸せはない。

→『KAFKA 迷宮の悪夢』


【追記1】カフカの『変身』は、何度も映画化されているが、圧倒的に最高なのは、ワレーリィ・フォーキンのもの。→『変身

【追記2】最後のシーンでカフカと父との関係が今回気になり、カフカの『父への手紙』という本を読んでみた。父との確執が書いてある。ここに書かれていることが、あまりに自分とダブる。特に、今、自分の父親は脳梗塞で長期療養中、誤嚥性肺炎やら転倒やら少しの事故が死に直結する状況。今や話もできない父のことを考えつつ読むので、読みながら、いろんな想いが去来する。カフカの父は息子思いで、良い人なんだが、封建的で威圧的で、繊細なカフカのような子供には怖い。それが痛いほど自分にわかる。カフカは結核で父より先に死んでいる。

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