フラペチーノ

「ホワイトモカひとつ、トールサイズで」
 葵が店員に告げる。
「お姉ちゃんは何にするの?」
「うーん……」
 茜はさっきから唸っていた。
 チェーンだが人気があるコーヒー店の列は、そこそこに長く、ここまで来るまでにそれなりの時間を要している。その間ずっと茜は今と同じように唸っていた。
 茜の頭の中にはいくつかの選択肢が浮かんでいた。話題の新作……たまには紅茶……いやここはコーヒーを飲む場所なのだからコーヒーを……しかしホット……いやアイス……どちらを飲むにしても実に微妙な時期だった……。季節は春、過ごしやすい時期ではあるが暖かいかと聞かれればそうでもなく、少し肌寒いかもしれない、しかしホットのコーヒーを飲む気にはなれなかった。
 ここまで歩いてきた時に軽く汗ばむ程度に体が熱い、しかし待ち時間のせいで肌寒さは戻ってきている気がする。
 ここはやはりホットか……? 茜が注文を決めて言葉を発する直前に葵のバッグにぶら下がっている唐辛子の人形が目に入った。
「ペペロンチーノ! トールで!」
 店員が吹き出す。茜の顔色はペペロンチーノのようだった。

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