夢のパラダ

タイトル：（仮）夢のパラダ

▼登場人物
●本宮好男（もとみや よしお）：男性。35歳。独身サラリーマン。大の小説好き。現実の女には絶望。
●桂香（けいか）：女性。20代。好男がハマって読んでる小説に登場する女性キャラ。架空の人物だが百合子が具現化させていた。苗字は設定してません。
●梶川百合子（かじかわ ゆりこ）：女性。30代。好男の理想と欲望から生まれた生霊。

▼場所設定
●好男の自宅：都内にある一般的なアパートのイメージでOKです。
●Romance in Novels：お洒落なカクテルバー。百合子の行きつけ。
●街中：デートスポットや公園などこちらも一般的なイメージで。
●豪邸：桂香が小説の中で住んでいるかなり大きな豪邸（好男は小説をラストまで読んでないからそれを知らない）。森の奥にあるイメージ。

NAは本宮好男でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは漫画や小説の中で恋をした事はありますか？
まぁ子供や青年期頃には、そんな経験もあったでしょうか。
でもこれは大人になってからも同じようなもので、
特に大人の場合は現実の男女関係に絶望した時、
何かで挫折を味わった時など、そんな気持ちになるようです。
今回はそんな気持ちに浸り続け、現実を見失ってしまった
ある男性にまつわる不思議なお話。

メインシナリオ〜

好男「はぁ。現実の女と恋なんか…絶対にするもんか」

俺の名前は本宮好男。
今年35歳になる独身サラリーマン。

俺の恋愛遍歴は本当に悲惨なものだった。
良い思い出なんか1つもない。
とにかく裏切られ、裏切られてこれまでやってきて、
女と言う女がみんな嫌になった程だ。

俺が付き合う女が良くなかったのか、
1人としてまともに自分の元に留まってくれたヤツはおらず、
みんな浮気してどこかへ去ってしまった。

もう浮気するのもされるのも嫌！

ト書き〈カクテルバー〉

そんな気持ちである日、俺は行きつけの飲み屋街へ来ていた。
歩いていると…

好男「ん？あれ？こんな店あったんだ」

全く知らないバーがある。
名前は『Romance in Novels』。

好男「へぇ、よさげな所だなぁ」

どうやらそのバーには珍しく小説が沢山置いてあったようで、
マンガ喫茶ならぬ小説を読めるカクテルバー、
そんな感じの店だった。

そう、実はこう見えて、俺は大の小説好き。
特に小説に登場する女性キャラに恋をした事も多く、
今じゃ『かぼちゃ畑でつかまえて』という新刊の小説にハマってる。

その中に出てくる時子というヒロインに恋をしてしまい、
今度はそのキャラを現実の自分の理想の彼女に仕立て上げていた。

俺は早速店に入って手持ちの小説を読み始めた。
ここは別に持ち込みでもOKだったらしい。

好男「良いところ見つけたなぁ」

そんな感じで没頭しながら読んでいた時…

百合子「フフ、こんばんは。お1人ですか？よかったらご一緒しません？その小説、面白いですか？」

と1人の女性が声をかけてきた。

好男「え？」

見るとけっこう綺麗な女性。
別に断る理由もないので隣をあけ、彼女を迎えた。

彼女の名前は梶川百合子さん。
都内で恋愛コンサルタントの仕事をしていると言う。
本当に上品な人でなんだか落ち着きもあって、
一緒に居ると何となく心が和んでくる。

それに不思議だったのは、
「昔どこかでいちど会ったことのある人？」
と言う印象が漂ってきて、そのせいで益々開放的になり、
俺は今の自分の悩みを彼女に打ち明けたくなった。
それに彼女に対してはなぜか恋愛感情が湧かない。
これも不思議な経験だ。

好男「ええ。面白いですよ。『かぼちゃ畑でつかまえて』って本です」

百合子「へぇ、私も小説大好きだから、どんなお話なのか教えて頂きたいわ」

それから小説の話題を挟み、世間話なんかもして、
次第にテーマは俺の悩み相談になっていった。

百合子「まぁ、世の中の女性に絶望してる？」

好男「あ、あははwこんな事あなたに言うような事じゃないんですけど…」

でも俺はそれまでの自分の恋愛遍歴を始め、
どれだけ悲惨な人生を送ってきたか…それを全部話した。

すると彼女は親身になって聞いてくれ、アドバイスをくれた後、
その悩みを本気で解決しようとしてくれたのだ。

好男「え？じょ、女性を紹介…？！」

百合子「ええ♪きっとあなたもお気に召すと思いますが」

彼女はいきなり俺に女性を紹介すると言ってきた。

好男「ちょ、ちょっと待って下さい、だから僕は女と付き合うのなんか…」

百合子「いいえ。それはあなたの運命を共にできる素敵な女性が、あなたの前に現れなかったからです。そういう女性が現れたらきっと今のあなたの心も変わり、その未来も変わるでしょう」

好男「は、はぁ？」

〈公園〉

そう言って彼女は携帯を取り出し、誰かに電話をかけて、
それから俺を連れて店を出て、最寄りの公園まで行った。

好男「ちょっと百合子さん？こんなとこへ連れてきて一体…？」

していると、向こうから1人の女性がやって来た。

百合子「あ、いらしたようね」

そこへ来た女性を見て俺は心底驚いた。

好男「あ！キ、キミは…！？」

小説に登場するあの女性にそっくり！
俺が今読んでいるのはライトノベルで、
ページの要所に挿絵が挟まれていた。

実はその挿絵に描かれてあった女性の風貌に俺は魅力を覚え恋をして、
今でも心の恋人とずっと呼んでいるのだ。

こんな事、誰にも言えないながら俺だけの宝物。
だからこの時の驚きは本当に大きかった。

桂香「どうも初めまして。あなたが好男さん…ですね？これからもどうぞよろしく」

好男「あ、こ、こちらこそ、よろしく…！」

さっき百合子さんは俺の事を彼女に話していたようだ。

百合子「フフ、いかがです？あなたのタイプの女性じゃないですか？もしあなたさえ良ければ、彼女と付き合ってみませんか？なに、恋の予行演習と思って頂いて構いません。あなたは現実の恋に対する免疫をもう1度付け直す必要があり、その為の土台やきっかけが必要だと思います」

百合子「なので彼女との交際をその土台やきっかけにしてみませんか？あなたにとってもタメになる経験だと思いますよ？」

好男「は、はぁ…」（まんざらでもない様子で）

正直、俺は付き合いたかった。
今やって来た彼女の名前は桂香さんと言い、
彼女は俺の理想の全てを兼ね揃えたような人だ。
ここで断る事なんか、普通の男にはできまい。

俺は結局その日から、彼女と付き合う事になった。

ト書き〈デート〉

それからはもうバラ色の毎日だった。

好男「ハハハ♪」

桂香「フフフ♪」

とにかく桂香さんは可愛らしく素敵な女性で、
俺は恋愛の全てに絶望した…なんて言ってた自分が
ほんとに信じられない。

彼女は俺のその絶望を全て拭い去るかのように
明るく暖かく俺を見守り続けてくれた。

（忠告）

でもそんな時、あのバーで連絡交換していた百合子さんから電話がかかり、
それから俺は又あのバーで彼女と会っていた。

好男「なんです？お話って？」

百合子「ええ。実はあの桂香さんの事です。彼女、確かに素敵な女性には違いないのですが、少し問題を抱えている所がありまして。本格的な恋愛関係に陥らないよう、改めてあなたにお話ししておこうと思いまして…」

好男「え？問題？」

百合子「ええ。プライバシーの事ですからそれ以上私の口から申し上げる事はできませんが、守ってほしい事が1つだけあるのです」

好男「はぁ…」（疑問に思いながら聞いてる）

百合子「彼女と会うのは、あなたの部屋か、外だけにして下さい。決して彼女の部屋に行く事はないように」

何か怖い事を言われてるような気もしたが、
「不思議な事を言ってくるなぁ」
なんて思いつつ恐怖というか疑問が湧いてきて、
「どうして？」と言う気持ちだけがやはり残った。
でもそれについては、百合子さんは何も言わない。

ただ、
「彼女と会うのは俺の家か、外だけにする事」
と、これを何度も念押しで言ってくる。

とりあえずその場は頷いておき、
付き合って本当に結婚する段階になれば関係ない…
そんなふうに俺はどこか彼女の言った事を軽く聞き流していた。

ト書き〈トラブルからオチ〉

そしてそれから数週間後。
トラブルがやってきたのだ。

（雨）

好男「うわぁ、降って来ちゃったなぁ」

桂香「ええ…」

その日は2人で少し遠出して、都内からかなり外れた郊外へ来ていた。
そこで急に雨に降られ、車で来てなかった俺達は電車で帰ろうとする。

でも異常気象のため電車が運行を少し見合わせており、
それが長引いて、結局運悪く最終にも間に合わなかった。
駅に着いたタイミングも悪かったのだ。

好男「どうしようか…」

そこはかなりの田舎ながらホテルなんか1つもない。
旅館もなく、泊まれる所がなかったので、
俺達は何とかタクシーを拾って帰ろうとした。

好男「くそ〜、全然来ないなぁ」

でもタクシーすら1台も通らず、俺と桂香はホトホト困った。

「なんとか桂香だけは家に帰してあげないと」

そう思っていた時…

桂香「ねぇ、ここから私の家、近いんだけど、来る？」

と彼女は言ってきた。

好男「え？そうなの？！」

ちょっと驚いた。
確かに俺もあれから彼女の家に1度も行った事がなく、
どこにあるのかも知らなかったから、
そう言われたら普通にああそうなのかと信じてしまう。

でも彼女がそうして誘ってきた時、
俺はあの百合子さんの言葉を思い出していた。

「決して彼女の家には行かないように」

好男「…でもそんなこと言われたって、こんな時はしょうがないだろ…」

そう思い…

好男「よし、じゃあこっから君の家に行こうか？行ってもイイんだよね？」

と少し念押しする形で俺は彼女に聞いた。
彼女は頷き、それから俺と桂香は2人して
桂香の自宅があるその場所へ直行したのだ。

まさかこんな場所に彼女の家があったなんて…
少し不思議な気もしたが。

（オチ）

でも、どれだけ行っても全く彼女の家に到着しない。

好男「…ねぇ、まだなのかい？君の家って」

桂香「ん？あ、もう少しよ♪」

彼女は笑ってそう応えるだけで、
さっきからずっと暗い夜道を2人で歩いたまま、
家らしい家は1つも見えてこない。
それどころか民家1つも見当たらず、
なんだか不思議と言うか、少しだけ怖い気もしてきた。

でも俺も男だと我慢して、その不安を口に出さず、
ただ黙々と彼女のあとをついて行く。

していると、漸く向こうのほうに明かりが見えて、
俺達はその明かりのほうへ歩いていった。

好男「あの辺りに君の家があるのかい？」

桂香「ええそうよ♪もうすぐ…♪」

その明かりは段々大きくなって、
目の前にした時、本当に驚かされた。

好男「こ、これって…す、すごい…」

なんと、少し森奥を抜けて明かりを頼りに角（かど）を曲がったら、
目の前に豪邸のようなものが現れたのだ。

「こんな場所に、なんでこんな家が？」
当然その疑問も湧いてきたが…

桂香「さ、早く行きましょう。ここが私のおウチ。歩いて疲れたでしょう？お腹が空いてたらご飯作ってあげる。お風呂もあるわ。あったかいお布団で一緒に眠りましょう？」

好男「あ、ああ…！」

正直疲れていたのもあって、俺は彼女に誘われるまま
その豪邸の中に入って行った。
そして入った時、ドアがゆっくり閉まり、
そのドアは2度と開く事がなかったのだ。

ト書き〈好男が好きだった本を持ちながら豪邸を眺めて〉

百合子「フフ、これからあの2人、ここで新婚生活を送っていくのね。お幸せにね」

百合子「私は好男の理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。私が彼に勧めたあの彼女は、実はこの本に登場していたあの彼女。時子さんをもじって現実に存在させ、彼の夢を一緒に叶える為に引き合わせたのよ。その事、うっすら気づいていたかしら、彼も？」

百合子「好男は世の中の女に絶望し、このまま行けば本当に独身で生涯を終えていた。確かに世の中そんな人は多いけど、私はその彼の夢を叶える為に現れた。こんな私に感謝して貰わなきゃね」

百合子「世の中、普通に恋愛できない人が多くなってるようだけど、そんな時に心の孤独を埋めてくれるのは趣味や生き甲斐。その趣味を研ぎ澄ませて昇華させれば芸になる。芸は身を助（たす）く、とはよく言ったもの。好男。あなたも諦めず、自分の趣味をそれでも愛していたから、こうして1つの救いを運ぶ事ができたのよ」

百合子「もう現実に返ってくる事は2度とないけど、夢と一緒に生涯を添い遂げるなら、あなたにとってはきっと本望よね？まだあなたはラストを読んでないから知らないと思うけど、あなたが好きで読んでたこの小説の最後には、『パラダ』というその御殿が登場するのよ…」

動画はこちら(^^♪
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