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口内炎が人格を持つ話

──ああ、主人は不摂生だ。立派な大人なのに、だらしが無い。

気が付いたらまたこの世に生を授けられていた。私だって私自身の存在を表沙汰にはしたくない。性格的に目立つのは好きではないから。

ストレスが溜まる時期と繁忙期が重なると、食事に関してこの人はすぐに怠惰を貪る。出来合いの物をスーパーで思い付くままに買い、食品とも向き合わずにゲラゲラ笑って録画したTV番組を観ながら口に運ぶ行為を粛々と行う。

「食生活に気を遣いなされ」と同居人から何度も諭されては忘れ、たまに気概を見せて料理する姿をこれでもかと見せつける。ただ、同居人にはその手の内が見透かされている。単純に自己プロデュースが下手なのだと思う。そのことに当の本人は無自覚である。

栄養不足とストレスから生成された私、口内炎。もっと可愛い名前で生まれてきたかった。「口の内側の炎症」だなんて。グロテクスでストレートな名前。

痛みを伴う炎症と捉えるとツライが、「小人的な人格者」だと思い込めば仲良くなれる。本人はそんなことを考えたらしい。

それで私との関係性をやり過ごすことに決めたようだった。考察好きの前向きな性格を後天的に身に付けたことでこの世を生き易くしている彼なりのライフハックだという。

私も主人が悲しむのは趣味ではない。気が向いたら再び冬眠に入ろう。といっても、私が進退を決められる立場にはいないのだけれど。

それにしてもこの人は口内炎があるのにマクドナルドのテリヤキバーガーを食べようとする傾向がある。正気か。チョコラBBさえ飲めば解決すると安易に考えているようだが、そんな簡単な問題ではない。現実を見よ。

計画的で繊細な性格に見える主人だが、考えるのが面倒臭くなると天文学的なポジティブさで強引にその場の状況を乗り切ろうとする節がある。パートナーとしては心許ないが、この人と向き合っていく他ない。

私の出番は今後も訪れそうだ。


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