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リアリティ番組のあり方

テラスハウス出演者の件に胸が痛んだ。言葉を失った。視聴者として番組を観ていたので、あまりの出来事に気持ちが追い付いていない。

元々すぐ言葉にできるタイプではないので、最近考えたことをポツポツと書き出すことで、今回の問題を整理していけたらと思っている。

『トゥルーマン・ショー』との共通点

今回の件に絡めて、映画『トゥルーマン・ショー』に言及するコメントを多く見かけたので、Amazon Primeで視聴した。

主人公のトゥルーマンは、とある離島に暮らしている。保険会社に勤めるサラリーマンとして何気ない毎日を過ごす彼だったが、次第に自分は何者かに操作された世界を生きているのではと疑念を抱き始める。実際に彼の生活は24時間カメラで撮影されて全世界に放送されていたのだ。それも彼が生まれる前の、胎児の頃から。

映画の中のトゥルーマンのリアルタイム番組を観ている市民の場面も途中途中で描かれる。駐車場の警備員、一人暮らしの男性、優雅に暮らす貴婦人、飲食店の店員と客ら。階級に関係なく全世界で人気の番組ということが分かる。

映画では番組がだんだん過激になっていく様子が描かれている。5,000台のカメラ監視下を抜け出し、島を出るために海を横断しようと小さなボートを進めるトゥルーマン。番組プロデューサーは彼の無謀な挑戦を妨害するため、彼の死も厭わずに、嵐を降らせ、強風を起こす。

案の定、彼のボートはひっくり返り、視聴者も最悪の事態を想像する。それからは嵐が収まり、空が晴れてくる。命がけで生還したトゥルーマンは、カメラに向かってお決まりの挨拶を述べ、テレビの世界を抜け出す。

最後のシーンでは、番組を見ていた警備員2人が「番組表はどこだ?」とすぐさま他のテレビを見ようとする姿が映し出される。視聴者の切り替えの早さ、残酷さを鮮やかに描いている。

「出演者は複数人いる」、「演者が望んで番組出演を快諾している」、「自分で終わりを決められる」など、テラスハウスとの相違点は多々ある。それでも、構造として『トゥルーマン・ショー』で描かれた視点は、テラスハウスにも通じる部分があったと思う。

変わっていったテラハの雰囲気

どこに問題があったのか、思ったことを挙げてみる。制作側としては、これからは出演者へのメンタルケアが必須だろう。番組が用意した大きな住居で安全が確保されていたかもしれないが、すでにネットで住所はバレている。

また、出演者は撮影スタッフとも言葉を交わしたりしていたようだが、それだけでなく、今後は例えばカウンセリングの資格を持ったメンタルカウンセラーにいつでも相談できる体制を整えるなどの対策が必要だろう。

視聴者への説明にも違和感が残る。「台本はない」という曖昧な表現で視聴者にリアルさを伝えているが、「演出があるのでは?」との声は多く聞かれる。文脈を読める目の肥えた視聴者には作られた映像コンテンツを観ている意識があるが、それ以外の視聴者は本物の共同生活のの映像だと勘違いしてしまう危険性がある。

スタジオメンバーの過激さも気になっていた。プロのタレントが揃っているのは分かるが、特に山里さんの発言の過激さは度を超えている。プロボクサーがリング以外で拳を使うのはよくないとされているのに、話芸のプロであるお笑い芸人が素人の言動を叩くのはいいのか。

さらに良くないのは、テラスハウス制作側が山里さんが解説するYoutubeの番組(山チャンネル)を公式配信していることだ。一方的な攻撃を制作者側が肯定している構図になってしまっており、弱い者イジメが加速してしまう。

お笑い芸人のニューヨーク屋敷さんが、上記のことをYoutubeで配信しているラジオで言及されていた。テラハが大好きな屋敷さんは、徳井さんが抜けた後のスタジオの空気について語っていて、その説明にはとても納得できた。山里さんの悪口を徳井さんが緩和させるという、絶妙な役割で成り立っていたスタジオだったのが、徳井さんが抜けたことでバランスが崩れて山里さんの独壇場になっているという指摘だ。詳しくはリンク先で聞いていただきたい。

https://youtu.be/vXTPei9BVTU?t=3633

フランスでは7年前から自殺があった

海外に目を向けると、既に同様の事象は起きていた。2013年にはフランスで、2014年には韓国で、2019年にはイギリスで、リアリティ番組の出演者が自ら命を落としている。番組の内容や状況はそれぞれ異なるので一概には言えないが、今回の件は日本だけの問題でもないし、今に始まったことではないことが分かる。

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/05251200/

記事には各国の出演者が自殺したという事実は書かれているが、その後それぞれの国ではどのような議論が起こり、どのような対策を取るに至ったのかまでは記されていない。私自身、調べ切れていないので、知りたいと思っている。

ちなみに、アメリカではもっと進んでいて、「アンリアル」というテレビドラマがシーズン4まで作られている。リアリティ番組の内部を描いた内容のようで、2005年に映画評論家の町山智浩さんがラジオで紹介していたという。

このように、外国ではリアリティ番組の悪い面は既に露わになっていた。都合よく切り取られた映像編集、操作された印象。悪評が広まるのを防ぎたい出演者と、過激さを求める制作者。本来は制作者は出演者の側に立って、過激さを抑え込まないといけないはずのに。視聴者を満足させることに重きを置き過ぎると内容に偏りが生まれてしまう危険性がある。

同じことを繰り返さないために

今回の件を一過性のものにしてはならない。テラスハウスに限らずに、多くのテレビ局で放送されている素人参加型のリアリティ番組は、立ち止まって考え直すべきタイミングだと思う。

リアリティ番組は視聴者が望む悪い方向に進んでいく構造になっており、それにはシステムで対抗する必要がある。出演者本人に悪意のあるコメントを送った人を悪者にするだけで、今回の件を収めてはいけない。

視聴者である僕自身も含め、テラスハウスに何らかの形であっても関係していた方々は、これまで問題点を見ないようにしていたことを大いに反省する必要があると思う。メンタルが強い出演者を前提に作られていた番組だったのだ。

今後しばらくはリアリティ番組は楽しめないだろう。テラスハウスもこのまま終了せざるを得ないのではないか。すぐに再発防止策を取るのは難しいし、社会的な責任を果たす必要がある。制作者や配信会社がどのような立ち振る舞いをするのか、世界が注目している。

今回の件を、誹謗中傷の規制だけに矮小化するのではなく、リアリティ番組の制作者や視聴者が全員で立ち止まって考え、同じことを繰り返さないための仕組み作りが必要である。

リアリティ番組は今、変わらなければならない時期に来ている。そう感じざるを得ない。

また読みにきてもらえたらうれしいです。