まえがき 愛しの平成へ
愛しの平成へ
君、終わるらしいね。あと一年ほどだそうだ。
世間では、次の年号はなにかなにかとヤキモキしているばかりで、君のフィナーレのことはまだあまり気に止めていないようだ。けれど、いまの世を生きているエンペラーが粋なお方で本当に良かった。君の終わり方としては、なかなかいいものなのじゃないだろうか。
君の後任がやってきたとて、なにかが突然変わるわけではないだろう。生活はつづくのだ。それでもやっぱり、なにかとてつもない不可逆を迎えるような気がしてしまって、僕はさみしい。僕は君のほんのすぐ下の後輩なのだ。君以外の時代を知らないからね。
そこで僕は、君の最後の一年を書き留めておくことにした。
七十二候って知ってるかい。一年って12ヶ月あるけど、そのさらに半分の二十四節季という季節の数え方がある。春分とか夏至とか、聞いたことがあるんじゃないか。その24をさらに3等分したものが、24×3=72、七十二候というわけ。
もともとは中国で生まれて、江戸時代に日本の風土に合わせたヴァージョンが作られている。まあでも、江戸時代には身近にあったはずの、それらの季節の移ろいを、現代の僕たちが感じとるのはなかなか難しい。その手のセンサーを僕らは退化させつつあるからね。
でも、同じことがのちのち起こるだろう。過ぎた平成を二度と感じることはできまい。つい先日、卒業した中学校の家庭科室がどこにあったか全く思い出せずにうろたえたことがあった。自分の記憶が怖くなったよ。そうやって君のこと、僕は少しずつ忘れると思う。
七十二候は約5日にひとつほどの間隔で、季節にタイトルを与えている。ずぼらな僕のことだ、きっちりとはいかないだろう、途中で飽きるかもしれない。別の誰かに書いてもらうのもいいかもしれない。まあ、とにかく始めてみるまでだ。
最後までたのしくやろうじゃないか。
平成生まれの僕より
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