交渉と信頼関係

自分の本業は内装屋です。

最近はもっぱら原状回復工事(次の人へ家を貸すための工事や内装、リフォームとか)が多いのですが、基本何でも屋を自称しているので、家の中の事を一括で引き受ける、依頼される方から見たら分離発注せずに済むワンストップでやらせてもらっています。

先日マンションを購入された方のお宅の工事依頼がきました。

何社さんかとの相見積ですが、最近お世話になっている不動産屋さんのご紹介なので張り切りました。
オーナー様立ち合いの元現状を見た後で、様々な要望があったので希望に沿う形の提案を3パターン用意しました。

3パターンを極端に言うと100万円、200万円、300万円のプランで、はじめてお仕事をさせて頂く(オーナー様も内装の仕事を発注するのは初めて)中で温度感を計る形でした。

1ヶ月経って音沙汰がなかったので、見積もり通らなかったのかなー、と思っていた矢先に不動産屋さんからお願いしますとの連絡が。

何社かの見積もりから選ばれた訳ですから、ここは更に張り切ります。
ここからはオーナー様との直接のやりとりになりましたが、取捨選択の結果50万円の範囲でお願いしたいとの事でしたので、多少の肩透かし感は否めないものの再度お見積もりを提出しました。

それでも最低限の御希望を汲み取り、ほぼ儲け無しで今後の展開に期待する形で頑張った60万円強のお見積もりを提出させて頂きました。

後日御返答があり、概ねこれで進めて下さいとの事で胸を撫で下ろした矢先に「少し勉強してもらえませんか?」と、値下げ交渉をされました。

返事を一旦保留し、さてどうしたものかと考えました。

おそらく、ウチの見積もりが選ばれたのは今までお仕事をしていない、仕事内容が分からない中で単純に他社さんと比べて値段が安かったからだと思います。
相見積でしたし、他社さんもお仕事を頂くために精一杯の金額を出したのだと推測します。

相見積を取るのも値下げ交渉するのも、するのはタダなので全面的に否定する気はありません。
むしろ不当だと思ったらまず声を上げるべきです。誰しも金銭的に少しでも得をしたいと思うからです。

しかし「言うのはタダ」ですが、その先の信頼関係には影響します。

具体的な金額の提示はされていませんが、例えばこの場合60万円強の「強」の部分を引いて欲しいと言われているのだな、と考えました。

先々の事を考えればこの「強」を引いても良いのですが、先があるかも分からず、引いたら利益にならず、場合によっては「強」の分だけ来月の自分の食費が削られる訳です。

更に、引いてしまうと「言えば安くなる」と思われかねなく、今後お仕事を頂く時にも不利益が生じます。

更に更に、引いた分だけ、例えばお風呂場の掃除をやらない等の強硬策を取った所で事態は悪化します。

仕事をするに当たっての値引き交渉とは、つまり舐められている訳です。

お金を出す人と技術を提供する人、家を貸す人と借りる人、品物を売る人と買う人、料理を提供する人と食べる人、人を雇う人と雇われる人、全てがお互い支えられて生きているのですが、どうしてもパワーバランスが出てきてしまいます。
大概声が大きい方が強いです。

ウチが嫌なら他所に行け!
ここは嫌だから他所に行く!

お互い困る訳ですから、どちらも強気に出られる訳がないのですが、時と場合と人間性でこのいずれも逆転します。

薄氷です。

コンビニで買い物をした時に「24時間開いてて安定した商品を提供してくれて生活が助かるありがとう」とか「数ある店舗の中でウチの店を選んで買ってくれて、売り上げに貢献してくれてありがとう」とは日常を送っている中ではなかなかならない。

「お金を払うお客様だぞ」「売ってもらえるだけありがたいと思え」もあり得ます。

そしてどの場合でも、不利益や理不尽は別として値下げの交渉をしているのを滅多に見ません。

話を戻しますが信頼関係が築かれていない状態で、お互いスムーズに事を運ばせようとするには、相手の気持ちを慮るか否かだと思います。

こと、金額が大きく、刹那的ではない事象に関してはより慎重にならざるを得ません。

その初手での値下げ交渉、、、

他にも業者はたくさんいるので、概ねOKの状況であっても折り合いが付かなければご破算、となります。
しかし、オーナー様には限られた時間と予算があり、こちらが不利益と判断してお断りすれば困るのも事実です。

なので、

値下げ交渉には応じません

にこやかに値上げしたらどうなるんだろうなぁ。


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