いつかの日


薄暮が迫る頃、痩せるぞと意気込み、私は外へと飛び出した。暖かいダウンに身を包んでいるが、やはり冬。手強い。冷たい風が棘となって私に深く突き刺さる。厳しい寒さを感じながらも、身体を動かす。階段を登り、橋を渡り、公園を通りすぎ、住宅街を抜ける。一本道に出た。それからもただひたすらに歩く。歩く。

ハッと気が付くと、とあるコンビニエンスストアの前にいた。暖をとりたい。そんな軽い気持ちで私は禁断の場所に足を踏み入れてしまったのであった。

入ってすぐ、レジの前にあるケースの中にそれはいた。少し不恰好でありながら、可愛くもある、茶色いものが目に入る。その数秒間、止まってしまった。どのくらいの時が経ったかは分からない。私は、それから目が離せなくなってしまっていたのだ。何ということだろう。非常に悍ましい。これは霊の仕業だろう。きっとそうだ、そうに違いない。「〇〇ください」考えるよりも先に口が動いてしまっていた。

こうなってしまったからには後の祭りである。

そそくさと店を出て、誰もいない道へと向かった。ビリビリと紙を破る音が響く。誘惑に負け、周りの目を気にしながら大きな一口。油が静かに指から腕へとこぼれ落ちる。もう一口。止まらない。何故こんなにも美味しいのだろうか。私は今日この瞬間の為に生きていたのではないだろうか。そう言っても過言ではない。無我夢中で食べていると、ついにはなくなってしまった。そこには半分になった紙だけが虚しく残っていた。

手が汚れてしまっては仕方がない。そう思い、ゆっくりと家路をたどって行ったのであった。

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