「使用済み紙おむつのリサイクル」は本当に安全なの?北里大学の花木秀明先生に聞きました!
RefF(リーフ)プロジェクトの取り組みをご紹介するこちらのnoteシリーズ。これまでに「紙おむつの水平リサイクル」に協力いただいてる地方自治体、「RefF紙おむつ」を扱う介護施設など、さまざまな方に取材してきました。
「紙おむつの水平リサイクル」に賛同いただける声がある一方、「“使用済み紙おむつから作られた紙おむつ”は本当に安全なの??」という疑問や不安の声を聞くことも…。たしかに、消費者のみなさまにとって、安全性やきれいさは気になりますよね。
そこで!!今回のnoteでは「リサイクル紙おむつ」の安全性について、感染症研究の第一人者である、北里大学 大村智記念研究所 感染制御研究センター長・感染創薬学教授の花木秀明先生に直接、お話を伺ってきました!
感染症の第一人者。北里大学 大村智記念研究所 感染制御研究センター長の花木先生にお話をお聞きしました!
北里大学で感染症対策を専門に、幅広い研究活動を行われている花木先生。ユニ・チャームでも、紙おむつや生理用品といった衛生製品のプロジェクトにご協力いただいています。
RefFのプロジェクトでは、花木先生と分析機関および、当社の安全性部門が、紙おむつに再使用される「リサイクルパルプ」の安全性を検討しました。
これ以前には、紙おむつのリサイクルに関する一般的な基準はなかったことから、リサイクルパルプの安全性を評価するため「紙おむつのリサイクルから再生パルプの使用までのライフサイクルに関連するリスク」をゼロから洗い出し、厚生労働省から通知されている「生理処理用品材料規格(薬食審査発0325第24号)」を参考にしながら、リサイクルパルプの試験項目・試験法をひとつひとつ検討していったそうです。
「リサイクル紙おむつ」に使われている、「リサイクルパルプ」って安全なの?
さっそくですが、「リサイクル紙おむつ」は、どうして安全なのでしょうか?
もともと、(リサイクルではない)新品の紙おむつに使用されている新品のパルプ(バージンパルプ)でも、色や細菌の数、ホルムアルデヒド、重金属の有無などについての安全性の規格は確立されています。
こうした従来からある紙おむつの規格を「リサイクル紙おむつ」に使用されている、「リサイクルパルプ」に当てはめていこうとされているそうです。
「”紙おむつに再使用される、リサイクルパルプの品質安全性のユニ・チャーム社の基準”には、外見・性状や色、一般細菌の数、大腸菌の有無など、さまざまな試験項目が設けられています。こうした安全性の基準を満たしているため、“リサイクルパルプ”は、衛生的には全く問題ないと言えます」
「リサイクルパルプ」も「オゾン処理」の殺菌力できれいになる!
「一度、排泄物が付着した“リサイクル紙おむつ”は、いくつかの工程を経て、殺菌処理されています。殺菌効果検証の結果でも、最後に行う“オゾン処理”による高い安全性が保証されています」
※殺菌効果の検証
「リサイクルパルプを使った紙おむつ」も、オゾン処理の工程により、新品の紙おむつ同様のきれいさを実現しているんですね。
では、どうして「オゾン処理」できれいになるのでしょうか?
「オゾン処理のイメージは“焼却”なんです。焼くことで、汚れや細菌を酸化して殺す。“水の中で焼く”感覚ですね。オゾン処理の優れているところは、殺菌力がありつつ、漂白、脱臭が可能であることと言えます」
さらに、処理に使用するオゾンは時間が経つと酸素に戻るので、リサイクルパルプには残留することなく安全なんだそうです。
※オゾンの性質イメージ図
〇RefFプロジェクトのメンバーが、オゾン処理技術にたどりつくまでの奮闘は、過去に掲載した「“使用済み紙おむつのリサイクル”は実現できるのか?試行錯誤の末、たどり着いた「最後の一手」【開発秘話(後編)】」もぜひチェックしてくださいね。
「リサイクル紙おむつ」の一番のハードルは、一般消費者の意識
今回、「リサイクル紙おむつ」の素材に「リサイクルパルプ」を使用するにあたり、難しい点はなんだったのでしょうか?
「衛生面・技術面では問題ありませんでしたが、初めての取り組みですので『人の排泄物が一度付いた製品を使ってもらえるのか』という、一般消費者の心理的なハードルを懸念していました」
実際、noteの取材で、一般の方からよく聞くのが「“RefF紙おむつ”の実物を見るまでは、本当にきれいになっているのか、心配だった」という不安の声です。
「ただ『安全です』とだけ言っても、誰も信頼してくれません。一般消費者の方に安心して使っていただけるような、安全性や品質の基準づくりをしっかり提示して、貢献していきたいですね」
せっかくの「リサイクル紙おむつ」も、消費者のみなさんに使ってもらえなくては意味がありません。やはり、みなさんに安心して使っていただけるよう、このnoteでも、それ以外でも「紙おむつごみ」がもつ課題や「リサイクル紙おむつ」の安全性について、発信力を高めることが急務です…!
「資源の乏しい日本で、リサイクルによる循環型社会をつくる」ために
花木先生ご自身は「リサイクル紙おむつ」にどのような使命感をお持ちだったのでしょうか?
「紙おむつは身近で、子育てや介護には必要不可欠なものですが、実際に、それを使用しなければ興味を持たれない製品です。とくに廃棄は意識されていません。ですが、高齢者人口の増加に伴い、要介護人口も増加し、紙おむつの使用量も増加しています。廃棄に関しては、地方自治体の財政を圧迫するほどにもなっています。そんな中、紙おむつのリサイクルに協力できることは、私自身の夢でもありました。
今回の依頼が来た10年ほど前は、いまほどSDGsも注目されていませんでした。ですが“少しでもリサイクル・環境分野に貢献したい”という思いがありました」
ユニ・チャームなどの企業との取り組みについてはどのようにお考えでしょうか?
「“社会貢献できるかどうか”が、企業に協力するかどうかの判断になります。北里大学では自分の持つ技術・知識をいかに社会に貢献できるかの“実学”を非常に重要視しています。紙おむつのリサイクルが可能になれば、日本のためになり、将来的には世界のためになるかもしれません」
最後に、紙おむつに関連する、今後の展望についてお聞きすると「社会福祉に直結する事業に対しては、可能な限り特許を公にして『誰が使っても良い』としないと、リサイクル事業/SDGsが前進しません。全体としてそうした意識を持ってほしい」と語ってくださいました。
あとがき
今回の取材で、ユニ・チャームだけでなく、紙おむつメーカー各社をはじめ、アカデミック分野、リサイクル関係者、高齢者福祉の視点など、紙おむつに携わるさまざまな関係各所が協力して「使用済み紙おむつのリサイクル」の技術開発に向けて進んでいることを知りました。
多くの方の知見の結晶として、リサイクルした製品の安全性・衛生性がつくりあげられているんですね…!
そして、花木先生が「社会福祉に貢献する」という強い思いに胸を打たれました。花木先生ご自身が取り組まれたいこととして「赤ちゃんの肌をかぶれさせない研究や、生理用品を使用することで病気を防いだり、肌をきれいにしたりする製品」とお話してくださいました。まさに、実学を実践されるようなお話ですね。
志の高い方々が使命感を持って取り組んでくださっている「紙おむつリサイクル」について、こちらのnoteでも、それ以外でも、もっと多くの人に、幅広い視点でお伝えしていきたい!という気持ちが高まりました!