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Day.22 低Na血症の診療メモ【総合診療トピックゼミ


<Story>

 休日の救急外来担当日、1人の中高年女性が来院された。なんとなくだるいから診てもらいたいと思ったそうだ。なんなら他院でも、倦怠感の精査を進めているそうである。Vitalの崩れもないし、意識レベルもクリア。ぱっと見の印象としても元気そうだが、一応採血へ。結果、低ナトリウム血症が判明する。さて、どうする……。

<まずは、重症か軽症かを判断する>

 重症か軽症かによって、初動が異なります。基準は以下です。
◇重症:痙攣・昏睡
◇軽症:軽微な意識障害や食思不振以下の症状

<重症:3%NaClを50~150mLボーラス>

 重症であれば、まずは症状を止めに行く必要があります。慢性経過か急性経過かに関わらず、3%NaClを50~150mLボーラスして症状を抑えます。
 最初の6時間で4~6mEq/Lの上昇になるよう調整して、その後は24時間で8mEq/L未満の上昇となるように進めます。
 ちなみに、3%NaClなどという製剤は存在しないため、下記のように作って使用する必要があります。
1)0.9%食塩水(生理食塩水)500mLから100mL捨てる。
2)10%NaClを120mL加える(1A=20mLなので6A加えることになる)。

*入院適応という面で考えると、低Naについては、125以下であれば適応あり、また、Naがこれ以上であっても、症状があれば入院を検討する。

<低Na血症を分類する>

 初動の検査では、Naを含む通常の採血に加えて、血症浸透圧、尿浸透圧、尿中Na、尿中Kを提出する。
 病態の鑑別はおいておいて、とりあえずの治療方針を決めるためには、
①体が血症Na濃度を上げようとしている
のか
②体が血症Na濃度を下げようとしている
のかが分かればよい。

①の場合は、尿が薄く、血液が濃いという関係のため
【血漿Na>尿Na+K】
となっている。この場合には、低Na血漿は時間経過とともに改善する。対応としては水制限を行なえばよく、必要時には、生理食塩水の点滴等も実施して差し支えない。

一方

②の場合には、Naが足りないのに尿中に出てしまっているわけで
【血漿Na<尿Na+K】
という関係になる。この場合には、3%NaClを用いた補正をしなければ、どんどん低Naは進行することになる。

蛇足かもしれないが、尿はNaもKも気にするのに、血漿はNaだけ気にしているのは、血漿中のNaが相対的に少量で無視できるためである。

<低Na血症を鑑別する>

 基本的には、血漿と尿の濃さのバランスを見るほうが対応はスムーズと思われるが、鑑別疾患が分かる場合には、これに従っての対応でもよい。
◇3%NaClを用いての補正が不要なもの
・心不全、腎不全、腎不全
・水中毒
・循環血液量減少(水をためるために抗利尿ホルモンが働くため)
◇3%NaClを用いての補正が必要なもの
・SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)
・塩類喪失性腎症

<Na補正の際の注意点>

 Naの補正が早すぎると、浸透圧性脱髄症候群となり、危険である。では、補正速度についてであるが、これは急性経過か慢性経過かによって目標とする補正スピードが異なる。しかしながら、これがどちらか分かることはほとんどないため、実際には安全のため、慢性経過とみなして対応することがほとんどである。慢性経過であれば、下記のように対応する。
◇補正速度は、下記を下回るようにする
・0.5mEq/L/hour
・6~8mEq/L/day
◇目安としては、3%NaClを使用して
・0.5mL/kg/hour
で開始して調節する。
◇3%NaClを使用している場合には、1~2時間に1度はNa値を測定する
◇補正が早くなり過ぎた場合は、5%ブドウ糖を使用して、Naの補正速度を落とす。

<Column>

 低Naと尿閉の組み合わせには注意である。昔、先輩医師と一緒に低Naの補正を行った際のことである。その患者さんは尿閉があり、膀胱がパンパンであった。導尿して尿を出した後、おもむろに先輩は言った。「よし、5%ブドウ糖液入れよう」。ん?と思ったが、驚いたのはそのあとである。5%ブドウ糖液を入れているにも関わらず、血漿Na値がどんどん上がっていくのである。「俺も上の先生に昔、尿閉のときに解除したら、Na上がることがあるから気をつけろ」って言われたんだよねと言っていた。Naの補正において重要なのは、脳を守るためにゆっくりと正常値に近づけることである。最初からNaを上げにかかっていたら、おそらくえらいことになっていただろう。再度、低Naと尿閉の組み合わせには注意である。

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