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§.4 C:Communication【災害医療学講座】


<CSCATTT、今回取り上げるのは、これ!>

C: Command & Control
S: Safety
C: Communication←今回取り上げるのは、これ!
A: Assessment
T: Triage
T: Treatment
T: Transport

<CSCATTTのC:コミュニケーション、一言で>

 ここでいうコミュニケーションが指していることは、または確立するためにしなければならないことは、大きく2つあります。
 1つは、災害時に連絡を取る手段、すなわち通信手段の確保です。普段であればスマートフォンがあれば連絡に事欠かないと思いますが、災害時には不通になることもありえます。従って、災害時に使用可能な連絡手段を複数準備するとともに、状況に応じてこれらを使い分ける必要があります。
 もう1つは、情報伝達の枠組みです。後でMETHAN Reportなる災害発生時の情報伝達フォーマットについてご紹介します。

<災害時の通信手段>

<通信手段、いろいろ>

災害時の通信手段には以下のようなものがあります。
◇伝令(担当者が直接伝達に向かう)
◇携帯電話(要するにスマートフォン)
◇衛星電話(通信衛星と直接通信するため、災害時にも使用可能)
◇拡声器/メガホン
◇無線(長距離は難しいが、短距離なら使いやすい)
◇笛
◇メール
◇FAX
などなど。

<何を考えて手段を選ぶか>

さて、多様な通信手段がありますが、何を基準に使用デバイスを選択する必要があるでしょうか?

◇まず、確実に通じるかどうか
☞災害時にスマートフォンがつながらなくなることは、よく経験されると思います。繋がらない通信手段は災害時に使用できないので、災害時に不通にならない通信手段(衛星電話は不通になりにくい)を持つ必要があります。

◇音か、声か、文字か、データか
☞例えば、ある地域の全被災避難所とその状況のリストを伝えようとした場合には、電話で口頭伝達を行なおうとすると日が暮れます。しかし、メールにデータを添付したり、印刷した資料やUSBメモリを伝令に持たせて送れば、確実かつ短時間で伝達が終了します。
 一方で、リスクの高い場所で作業を行う場合には、メールを開くような余裕はないでしょう。拡声器でリーダーの声が聞こえるようにしておけば十分な場合も多いでしょうし、「笛の音が聞こえたらすぐに引き返してA地点で合流」のように、音にルール付けを行うことで十分な場合もあるでしょう。

◇1対1か、1対多か
☞日常生活でよく使うところでは、恐らく電話は1対1で使用することが多いと思いますが(今回は、複数人電話機能はなしでイメージしてください)、メールは複数相手に送信できるという点で1対多のコミュニケーションが可能です。特定の誰かに何かを伝えたいのか、集団に対して指示をしたいのか、方針をディスカッションしたいのか等の状況に合わせて、〇対〇のコミュニケーションを使い分け、これに合ったデバイスを使用する必要があります。
 電話やメール以外の例を加えるなら、伝令は、1対1のコミュニケーション(送る人も受け取る人も基本的には1人ずつ)であるのに対して、無線は1対多のデバイス(チャンネルを合わせている仲間に対しては全員に声が届く)と言えますね。

◇その他の検討事項
 他に検討する項目はこのような感じでしょうか。
〇秘匿性
☞無線では、チャンネルを同じにしているのメンバーには情報筒抜け
〇携帯性
☞そもそも、被災地に持っていけないデバイスは使えない
〇操作性
☞使いやすい、使い慣れている人が多いデバイスは強い
〇電源確保
☞いちいちコンセントが必要なものは使いにくい

<通信手段を準備する際の考え方>

と、ここまで読んで頂いてなんとなく分かったと思うのですが
1)通信手段の手段のいくつかは、災害時には使えなくなる
2)情報の内容や活動状況によって、最適な通信手段は異なる
ということがなんとなく伝わったのではないかと思います。そうです。だからこそ、繰り返しにはなってしまうのですが、事前に複数の通信手段を用意することが極めて重要なのです。

<情報伝達のフォーマット>

<METHANE Report>

ここまでは、情報伝達のハード面を紹介してきました。続けてソフト面、何を伝えるかについてお伝えできたらと思います。もちろん災害種別やそのフェーズによって必要な情報は変動します。しかし、初動で必要となる情報、例えば自分が災害現場に最初に到着した場合に発信すべき情報にはフォーマットがあります。METHANE Reportと呼ばれるものです。頭文字をとってMETHANEになります。
それでは、説明と例を合わせて、どうぞ!
(下記の例は、地震災害で病院支援に向かう救護班-DMAT-が到着したところで、強い余震が起こったものとしています。)

◇M: My call sign(発信者の所属)& Major incident(災害の宣言)
「こちら、〇〇DMAT。余震により二次災害が発生しました」

◇E: Exact location(正確な発災場所)
「発災場所は〇〇病院とその周辺です。住所は~~~です」

◇T: Type of incident(鉄道事故、火災、化学テロなど災害の種別)
「先ほど発生した余震により、病院の外来スペースが倒壊しました」

◇H: Hazard(危険性)
「現在余震は収まっていますが、外来スペースの二次崩壊、隣接する入院病棟崩壊の危険があります。」

◇A: Access(現場に到達可能な経路)
「病院南側の道路は現状通行可能であり、消防も侵入経路として使用していますので、こちらから病院前までは到達できます。」

◇N: Number of casualties(患者数、重症度など)
「外来スペースは地域住民の待機場所として開放されていたようで、少なくとも準備をしていた10名程度が瓦礫の隙間に閉じ込められるような形になっています。重症度は不明です」

◇E: Emergency services(関係機関の活動状況、連携状態、必要な支援)
「消防と合同で指揮本部の立ち上げを開始しており、消防の指揮本部から救助隊の派遣要請が出ています。医療救護班についても追加派遣が可能かどうか相談を受けております。」

<システムでありフォーマットであるEMIS>

 さて、ほんのちょっと話がずれて見えるかもしれませんが……EMISという言葉を聞いたことがありますか?広域災害・救急医療情報システム/Emergency Medical Information Systemの頭文字ですね。日本の災害対応は、このシステムに非常に依存していると言えるでしょう。
 EMISもある意味ではCommunicationシステムの1つであり、同時にフォーマットの1つでもあります。
 災害が発生すると、各病院はEMISのフォーマットに従って自院の被災状況の入力を行います。また、DMATを始めとする救護班も、自隊のメンバーや装備、どの本部の指示でどこで活動しているのか等を登録します。結果として、オンライン上で各病院の状態やDMAT各隊の活動が一目でわかるようになるのです。逆に言えば、EMISが入力されていないと、本部に作戦を立てるために必要な情報が揃わないため、EMISの入力率を上げることは非常に重要なことであると言えます。

<Column>

 災害対応に参加させて頂いた際に感じたのは、災害対応それ自体が情報戦だということです。なんなら内閣府には、ISUT(アイサット:Information Support Team、災害時情報集約支援チーム)なんていう”情報”を専門とするチームがあったりします。大学組織からも、公衆衛生学教室や社会システム科学研究室といったデータのスペシャリスト部門からもスタッフが派遣されているあたり、いかに災害医療が医療だけでは回らないことを表しているように思います。こういったデータと、これに基づく分析があって、初めて戦略が描けるのですね。

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