あたしのソレがごめんね⑪
第十一章 -告白-
「蛾次郎くん。私、家族以外に誰にも言ってない秘密があるの」
私はそう言うと閉店している貸しボート屋に蛾次郎くんを連れ込んだ。
薄暗い小屋の中を夕焼けが頼りなく照らす。
「朝美の腕、無いと思うんだけど、右の」
「お、おう」
独特の緊迫感の中で向かい合う。他人が見たら愛の告白だと思うだろうか。
「実は、私についてるの」
「えっ」
これは、そんな生半可な告白じゃない。
「私が恥ずかしくなったり怒ったり悲しくなったりすると、ソレにすごく力がこもっていって、出てきちゃうの」
目の前の人に、自分の人生をかけて伝えたい真実。
「ずっとソレのせいで素直に生きられなかった。だけど蛾次郎くん」
どうか怖がらないで受け止めてほしい。
「あなたには知ってほしいの。本当の私を」
私はゆっくりとスカートをたくし上げた。
今までに見たことがないほど怒張しきったソレが露わになる。
「夕希……」
蛾次郎くんは絶句しているようだった。
緊張に伴った汗がソレの筋肉をつたって滴り落ちる。
こんなグロテスクなものを見せられて引かないわけがない。
後悔した。
やっぱりこんなことしなければ良かった。
私が泣きそうになるとソレは更に固く拳を握った。
「さ、触っても、いいか?」
「えっ?い、いいけど」
蛾次郎くんはゆっくりとひざまずいてソレに触れる。
恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ。
身体中の神経がソレに集まっているみたいに酷く敏感になっているのがわかる。
怖い。感じたことのない焦燥感が遠くからどんどん近づいてくるような不安感。呼吸が早くなって声をあげたくなる。今にも腰が砕けそうだ。
人に触れられるのってこんなに苦しいんだ。
ならば初めてソレを触れさせるのが好きな人で良かった。
人にソレを見せることも触れせることも、もう二度とないだろう。
余裕がなくなってきて仰け反りかけていた私にソレを通して温もりが伝わってきた。
蛾次郎くんがソレを両手で包みこんだのだ。
「こんなに太くなるまで、色んな思いをしたんだな。辛かったろ」
強く握った拳を額に近づけて蛾次郎くんは泣いていた。
祈りの姿に見えた。
私とソレが生きてきたこれまでが報われた気がして、堰を切ったように涙があふれ出した。
辛かった。
嫌だった。
こんなのが股間についてる人生、嫌だって言いたかった。
誰にも言えなくて、誰もわかってくれなかった。
だから、いま初めて、良かったと思えた。
ソレと生きてきて、良かった。
その瞬間、ソレがゆっくりと掌を開いた。
蛾次郎くんはソレの掌を腕相撲のように握り直して言った。
「これからよろしくな、ソレ」
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