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【香水小説】香はかく語りき⑦地中海の庭

毎月香水からインスピレーションを受けた短編小説を綴る本連載。
第7回目の香水はHERMESより地中海の庭。

https://www.hermes.com/fr/fr/product/un-jardin-en-mediterranee-eau-de-toilette-V712645/1/

それではどうぞ
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迫り来る青にむせかえる。
我に返る瞬間が一番苦しい。

抵抗を自覚し、意図して落ち着く。ぶつかる波を受け入れる。
そうすればまた楽になる。
高く持ち上げられたり、押し込められたりしながら、自分を取り戻す。
ぶつかり合う水音は不思議と穏やかだ。

こうして波に身をあずけている時だけは、解放されたように感じる。
何から解放されたかは覚えていない。
核兵器のような驚異だったようにも思うし、ポケットに詰められた砂利のように些末な不都合だったようにも思う。
そんなことを考えるのも馬鹿馬鹿しくする。それがこの海の役割なのだ。

ここは世に知られる海と違う。
海水は少し酸味を含んでいるだけで、ほぼ無味と言っていい。
波がゆっくりともたれかかってくるが、とろみはなく、しずくは砂のようにさらさらと滑る。
荒れたことはない。朝も夜もなく揺れ弾けている。いつでも同じように。

時々、入ってはいけない穴に海水が入り込んだ時のように、激しい抵抗を感じる時がある。
その苦痛が何なのか、何に抵抗しているのか、よくわからない。
ただ、ここに浮かんでいることは事実で、自分もそれを望んでいる。

自他の境界が曖昧になる。
海なのか空なのかわからない青に溶け出していく。
そういうのも悪くないと思う。
とにかくここは、清々しいのだ。




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