あたしのソレがごめんね⑭
第十四章 ー帰結ー
早稲田はあまり学校に来なくなった。
『目に見えないことの方が大事』
早稲田はそう言っていたけど、あたしは目に見えない部分が不安で仕方なかった。
夕希と隠れて会って何を話しているのか。学校に来ないで何をしているのか。
学校をサボって不健全なことをするようなタイプではないし、早稲田が何をしていようとあたしには何を言う権利もないのはわかっていた。
しかし、いや、だからこそ、ただのクラスメイトという関係性の希薄さに気づかされるようで苦しかった。
早稲田が明日から学校に来ないことになったらもう二度と会えないのだろうか。そう思うと自分の想いを臆せず伝えておけばよかったなと思ってしまう。
かっこつけずに言えば、ただ寂しい。
夕希はもうほとりに行かなくなった。
「朝美、最近元気なくない?」
そう言って時々顔色を伺ってくる。
夕希のことだけは信じてあげたいと今でも思っている。でもあの子はあたしに秘密にしていることがある。それだけで心の中に霧が立ち込めた。
「なんか悩んでることあるんだったら言ってね、朝美」
心の霧は視界を遮って見えるはずのものも見えなくしてしまいそうだった。
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早稲田くんは蛾次郎くんのお父さんのもとで塗装屋になるための準備を着々と進めていた。
私が蛾次郎くんに訳を話してから驚くほどスムーズに事が進んだ。
蛾次郎くんは早稲田くんを見て開口一番こう言った。
「覚悟のある奴が一番好きだ!よろしく!!」
早稲田くんは力強い握手に応えながら真顔で言った。
「良い奴定食のおかずみたいな奴だな」
それを聞いて私たちは大笑いした。そしてとんでもなくワクワクした。
一生の付き合いになるんだろうな、と訳もなく感じた。目に見えなくても確かなものってこの世にはあると思う。
しばらくしてから蛾次郎くんのお父さんに三人で挨拶に行った。
お父さんは想像通り朗らかで懐の広い人だった。
お父さんの小指の第三関節には立派なタコをが出来ていた。
「毎日ハケを握ってるとこうなる。早稲田くん、それでもいいかい?」
「親父さんより立派な小指にしてみせます。よろしくお願いします」
そんな二人を見守る蛾次郎くんの嬉しそうな一方で切ない横顔が忘れられなかった。
それから3か月ほど塗装屋の修行を積んで、早稲田くんは本採用されることになった。
その吉報は早稲田くんのご両親をとても喜ばせたらしく、高校に自主退学の手続きをとってくれたという。
「そんな訳で、俺は1年の三学期いっぱいで退学する。二人とも応援してくれてありがとう」
「おめでとう!それで……」
「皆まで言うな夕希。ここに朝美を呼んでくれ」
早稲田くんが朝美に何を言うかは何となくわかっていた。言われたとおり朝美をほとりに呼ぶ。
「みんなで驚かしてやろうぜ!さぞかしビックリするだろうな!」
そう言って興奮している蛾次郎くんにそっと耳打ちした。
「早稲田くん、多分朝美にプロポーズするつもりだよ」
「はっはっは!そうかそうか!!!」
蛾次郎くんは殆ど顔の殆どが口じゃないかと思うくらい大口を開けて笑うと
「俺も用事を思い出した!夕希も借りてくな!!!」
と言って私を米俵みたいに肩に担いでさらっていった。
今日という日は私たち姉妹にとって大事な日になりそうな予感がした。
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