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開幕前に知っておきたいオリックスの投のプロスペクト富山凌雅

こんにちは、シュバルベです٩( ᐛ )و

2月末で各球団のキャンプが終わり、オープン戦が始まりました。まだまだ一都三県では緊急事態宣言が延長されるなど心休まらない日が続いていますが、現地やテレビ中継等で流れる球音で元気を取り戻す野球ファンは私だけではないでしょう。

さて、今回取り上げるのは2021年シーズンに向けての注目選手の一人、オリックスの富山凌雅投手です。以前、Twitterで次のnoteで取り上げる選手のアンケートを取らせいただきました

このアンケートの候補にあげた選手はいずれも今年ブレイクして欲しいなぁと私が期待を寄せている“気になる”選手たちでした。

さて、昨年の成績から始まり、キャンプ〜オープン戦の内容、今季の起用法予想まで書いていこうと思います!ぜひお付き合いください。

0.富山選手のプロフィール

富山凌雅投手は1997年生まれ。現在178cm84kg。九州国際大学附属高校に進学するとエースとして高2・高3の2年続けて甲子園にチームを導きました。しかしプロ志望届を提出するも指名漏れ。

社会人の名門トヨタ自動車に入社すると、強気に内角を攻めるストレートと、落差のあるフォークを武器にあのトヨタ自動車で高卒2年目にして台頭。社会人最高峰の大会の一つである日本選手権でも先発登板を果たしました。ドラフトイヤーの3年目では調子を崩してしまいましたが、ドラフト前の阪神二軍との練習試合には10球団のスカウトが視察に来るなど高い注目を集めていました。

迎えた2018年ドラフトでオリックスから4位指名を受けプロ入り。入団時には14人兄弟の6番目と大家族であることも話題になり、会見時には「家族全員を京セラドームに招待できるようにがんばります」(2018年11月28日付デイリー)と語っていました。担当の由田スカウトのコメントは次の通り。

球持ちがよく、スピンの効いたストレートは球速以上のキレがあり威力も抜群。打者に向かっていく強気の投球も持ち味で、将来性豊かな投手。(オリックス・バファローズ公式HP

この担当スカウトがドラフト後に語る動画はオリックスの恒例となっていますが良いですよね〜。現在は投手らしいガッチリとした体格でオリックスの投のプロスペクトに挙げるにもってこいの選手だと思います。

そんな富山選手について、なぜプロスペクトたるかを次の章から書いていこうと思います。

1.富山投手の2020年

まずは2020年の結果から見ていきましょう。

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ルーキーイヤーでは1試合2イニングのみに止まりましたが、2年目となる昨年は18試合に登板。シーズン半ばの8月23日、監督交代後2日目に同じ2018年ドラフト組の漆原投手とともに昇格を果たすと、その日のナイターで自身初のホールドを記録しました。

スタッツ的には際立った成績を残せませんでしたが、山田投手・齋藤投手の両左腕が疲労もあって登録抹消された8月末〜9月にかけて左の中継ぎ投手として重宝されました。下表はオリックスに昨年在籍した中継ぎ起用がメインの左腕の一軍登録履歴です。

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海田投手をシーズン序盤に欠いた結果、1年通して山田投手に依存せざるを得ない中で富山投手・齋藤投手の若い左腕二人が台頭してきたのはチーム編成上大きかったことが垣間見えます。特に9月には11試合登板、防御率も2.25と大車輪の活躍を果たしました。しかし10月に入ると4試合登板しうち3試合で失点。10月21日に左肘の違和感で登録抹消となりシーズンを終えました。

最後に怪我をしてしまったとはいえ、オフの契約更改では500万UPの年俸1500万で合意。昇給を勝ち取りました。会見では2021年の目標について次のように語っています。

「思った以上に(年俸を)上げてもらった。今季(20年)は最後の最後でケガをしてしまったので悔しい。2年連続で離脱してしまったので、21年は開幕一軍を狙いたい。(目標は)40試合は投げたい。リリーフなら勝ちパターンの7、8回で30ホールドを。まずは、1年間投げられる体づくりをしていきたい」(2021年1月12日付週刊ベースボールオンライン

リリーフなら30ホールドという具体的な数字を挙げ、勝ちパターン入りを宣言しましたね。実際、8月は防御率0.00、9月は防御率2.25と昇格後の2ヶ月は極めて上質なピッチングができた点は富山投手にとって自信となったでしょう。イニング数が少ないため、10月の4試合での失点が数字に大きく影響してしまいましたが、いい時のパフォーマンスは勝ちパターンに組み込まれてもおかしくないものでした。

次の章では実際の投球動画も交えつつ、富山投手が昨年台頭できた要因を考えてみたいと思います。

2.富山投手の投球スタイル

まずは昨年の富山投手の球種構成から。球種、割合、平均球速、失点増減は次の通りです。

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投球割合の60%超を占めるのがフォーシーム。平均144kmと日本人左腕の中では比較的速く、悟@野球さんの「2020年版 バファローズ投手成績」によれば、富山投手のフォーシームは被弾が2本あるものの(故に失点増減もマイナス指標になっています)被打率は.189と極めて優秀で、投球割合通り富山投手の軸となるボールとなっています。こちらの二軍戦での根尾選手との対戦。

アウトハイへのフォーシームがミットに突き刺さるような力強さを持っています。まさに由田スカウトが評価した「スピンの効いたストレート」そのものでしょう。

追い込んだ後の決め球として使われるのがスプリット。失点増減は+2.1と指標上も最も有効なボールとなっています。右打者に対しても左打者に対しても真ん中低めに投げ切ることができ、多くの空振りを奪っています。

10%と割合はそこまで多くないですが、主に右打者に対してストライクを取るためのカウント球としても空振りを取る決め球としても使われるのがスライダーです。平均球速126kmと緩く、大きく曲がり落ちる球質で、9月9日西武戦で山野辺選手に投げたボールは特にすごい。

こちらの動画の0:58〜がそのシーンなのですが、右打者の山野辺選手のインローに落ちるスライダーは空振りを誘っただけでなくなんと軸足である右足に当たりました。プロではあまり見ることのないシーンではないでしょうか。

このように富山投手は平均144kmのフォーシームを中心にスプリットとスライダーで投球を構成していますが、こちらも悟さんのnoteより拝借したマッピングは次の通りです。

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フォーシームのコントロールは比較的アバウトですが、スプリットの低めへの制球は徹底されていることがわかりますね。一般に左投手のスライダーは対左打者へのアウトローに使われることが多いですが、富山投手のスライダーは右打者の低めに曲がり落ちるボールとして使われています。かなり珍しい配球だと思います。

ちなみに富山投手の被打率は対右.219対左.212と左右を苦にしていません。オリックスの首脳陣もそれを分かっているのでしょう。対戦打席数でも右打者36打席、左打者41打席と左右気にせず登板機会を与えています。これは終盤への伏線ですので覚えておいてください笑。

ここまで投球スタイルや配球チャートを見て、なぜフォーシームの被打率が.200を切っているか疑問に思うのではないでしょうか?

平均144kmは速いとはいえ、それこそ平均151kmを左で投げこむSBモイネロ投手でさえフォーシームの被打率は.237あります。先に見た根尾選手に投げたような力強いフォーシームに加えて、富山投手のフォーシームはスライダー方向・シュート方向に微妙に動いていることが被打率の低さの理由の一つだと私は考えています

実際に2019年オフにオーストラリアのウィンターリーグに参加したときのインタビューでは次のように語っています。

――オーストラリアに来て、何か自分の中で変わった部分はありますか?
「こっちに来て、球種が一つ増えました。今まで自分が“ツーシーム”と言って投げていたボールが、結構速くて落ちる系の球なんです。“それはこっちではスプリットって言うんだよ。本当のツーシームはこれだよ”と言われて、投げ方を教えてもらいました
――それはハマりました?
「はい。結構、試合の中で使っていますよ。日本でも早く使いたいです」
(出典:2019年12月21日付オーストラリアン・ベースボール・リーグ・ジャパン

オーストラリアでの武者修行で「本当のツーシーム」、おそらく垂直方向への変化は少なくシュート方向に小さく曲がるボールだと思われるボールを習得してきたことが書かれています。

また、元チームメイトの宮崎祐樹氏はインタビューで次のように話しています。

独特の変化球チェンジアップだったり、ツーシームを投げてくるんですけど、ちょっと変則気味というか球の出どころが見えにくい。そのため打ちにくい!

ストレートと括られていますが、フォーシームだけでなくツーシームやカット気味の微妙な変化も混ぜているからこそ、富山投手のフォーシームは高い制球力がなくても安打性の打球が少ないのではないでしょうか。

3.キャンプでの取り組み

2021年宮崎キャンプではB組スタートとなりましたが、2月2日に早くもブルペン入り。一軍定着を目指す立場としてプレシーズンからアピールをしなければならない中で、2月19日の紅白戦で実戦初登板を果たすと、2月24日西武戦、27日ソフトバンク戦と順調に登板を重ねました。

登板を見返して私は富山投手がスライダー・カーブの精度を上げることを目標にしてキャンプに臨んでいることを強く感じました。

例えば初登板となった2月19日の紅白戦。対戦相手もチームメイトなので、最もやりたいことを試せるのが紅白戦でしょう。こちらは全て目視ですが、配球マップと球種は次のようになります。

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全13球中、ストレートが7球、スライダーが4球、カーブが2球。特に昨年は投球割合の1%しか投げていなかったカーブをノーストライクから2回投げてストライクを取ることに成功しています。この試合ではフォークを封印し、フォーシームの精度確認とスライダー・カーブで優位に投球を行うチャレンジをしていたのではないでしょうか。

そしてこのスライダー、カーブの試運転は2月24日の西武戦でも継続して取り組みます。

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2打者目の岸選手、4打者目の山田選手にカウント球として110km台のカーブを投げていることがわかります。やはりこの日もスプリットは封印気味で、この後の5打者目の途中で盗塁死によるイニングチェンジまでの17球中1球しかスプリットは投げませんでした。さらに私の目視なのでシーズンではフォーシームにカウントされる気がしますが、確実にカット系のスライダー方向に動くボールを投げていました。

キャンプ中最後の登板となった27日のソフトバンク戦では一転、信頼できるボールであるスプリットの精度を確かめています。

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この日はカウント球としてスライダーを多投し、特に2020年シーズンでは左打者にほとんど投げていなかったにも関わらず三森選手に対して5球中3球スライダーを投じています。最後のリチャード選手に対しては自信のあるスプリットを確認として2球投げて見事三振を奪い、自信を深めたのではないでしょうか。

これら実戦での投球内容から、富山投手は次の3つをキャンプで取り組んでいたのではないかと考えられます。

①カウント球として使える変化球の精度向上
②カット系のスピードボールの習得
③投球の軸となるフォーシームのパワーアップ

特に①に挙げたカウント球として使える変化球の精度向上は確実に取り組んでいたといえます。スライダーとカーブ、この2つの球種でいつでもストライクがとれる状態にすること、それが富山投手の狙いでしょう。

トヨタ自動車時代、細山田選手(横浜→SB→引退後トヨタ自動車)からプロに行く投手になるためにかけられた言葉について富山投手は次のように語っています。

外にちゃんと投げられて、変化球2つは絶対にストライクを取れる球を持っていないとだめ。そうじゃないと1軍で活躍できないと言われました。変化球でストライクが取れないと、真っ直ぐ一本になる。そうなると、狙われたら打たれる。プロを経験しているからこそできるアドバイスを貰いました。

スプリットという伝家の宝刀がある一方で、2020年のBB%は13%と制球にやや難を抱え、狙い球が絞られると自慢のフォーシームも本塁打にされてしまうNPBを体験した富山投手にとってこのエピソードは改めて実感できるものだったのではないでしょうか。

絶対にストライクをとれる2つの変化球の習得。キャンプでの最大の課題がそれだったのだと思います。

4.今後の起用法を考える

さて、富山投手の今後の起用法はどうなるでしょうか。OP戦も始まりましたが、ここまで短いイニングが中心であること、既に先発左腕として田嶋・山﨑福・宮城の3選手がローテーション当確となっていること、中継ぎ左腕の齋藤投手がキャンプ中に一時故障離脱したことなどから21年に関しては中継ぎで起用されるでしょう。

平均144kmのフォーシームを軸に、このキャンプで取り組んだカウント球としてのスライダーとカーブ、決め球のスプリット。さらにピンチになっても動じない強いメンタル。中継ぎとしての適性は確かに高いものがあるように思います。

その一方、私は昨シーズンより先発としての活躍も将来的に見てみたいなぁと思います。

昨年は二軍では9試合中6試合に先発登板。その他の3登板についても全て3イニングずつ投げるなどファームでは先発起用も見据えた育成を行なっていると感じさせます。ファームで先発した31イニングで3勝1敗、防御率3.19。19奪三振、13与四球とスタッツ的にはやはり今ひとつですが、今年24歳の年とまだ若い分可能性を拡げるのはアリでしょう。

昨年末、オリックスには心強い仲間が加わりました。そう、阪神タイガースで104勝をあげた能見篤史投手です。

プロ17年目の41歳、先発としても中継ぎとしても一流の成績を長年残したサウスポーが選手兼任コーチとして獲得できたことは、若手投手がチームの主軸となっているオリックスのピッチングスタッフに大きな影響をもたらすのは確実です。

1月の自主トレ時から左腕の齋藤投手に次のようにアドバイスを送ります。

以前から弟子入りを志願していた斎藤がこの日、移籍後初のキャッチボール相手になった。「10、質問したら10以上の答えを返してくださった。本当にかっこよかった」と喜ぶ後輩に、能見も「伸びしろしかない」と成長への手助けを惜しまなかった。(2020年12月23日付日刊スポーツ

そんな能見投手ですが、同じオーバースローの左腕である富山投手とはいくつかの共通点があります。

能見投手と富山投手の4つの共通点
①高卒社会人での入団
②決め球としてスプリットを投げる
③昨年の中継ぎ時の平均球速は144km
④左投オーバースロー

上の三つ目はたまたまだと思いますが(笑)、富山投手が能見投手をモデルとすることは違和感がないのかなぁと思います。

そして、能見投手のキャリアを見てみると、最初は先発・中継ぎと立ち位置が決まらず、5年目(当時30歳)に先発として24試合に登板し独り立ちしました。現在のオリックスは先に挙げた田嶋・山﨑福・宮城と3人のタイプの違う先発左腕育成に成功しつつあるという土壌があり、そこに往年の左腕エースという格好のモデルとして能見投手が加入しました。これをプラスに変えない手はありませんよね。

現在はもちろん中継ぎとして立ち位置を築いて欲しいですし、昨オフに目標として言った30ホールド目指してフル回転して欲しいと思います。それでもいずれは先発として見てみたいと思う私もいます。左右どちらの打者も苦にせず、小さな変化球もあり、マネーピッチも確立されている投球スタイルなので、チャレンジする価値はあるように感じます。

5.さいごに

ここまで富山投手について書いてきましたがいかがでしたでしょうか?皆さんの心にも刺さってくれればなぁと思います。

従来の富山投手の魅力である小さく動かす速球系、決め球スプリット、マウンド度胸に加え、このシーズンでスライダー・カーブの第二・三の変化球でストライクを自在に取れれば一軍フル帯同は約束されたようなものでしょう。

3月に入りオープン戦で既に2登板しましたが、その内容は2試合で大きく変わりました。横浜DeNA戦ではフォーシームとスプリットのほぼツーピッチで、キャンプで磨いたカウント球となるスライダーは18球中わずか1球だったようです(視聴できていないので一球速報ベースですが)。ツーアウトランナー一、二塁の場面で細川選手を迎えた打席ではこんな感じ。

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結局満塁にピンチを広げ、次打者の際にエラーで失点。

この内容を見てキャンプ時の目的は未達で実戦ではやらんのかな?と思ったのですが、3/9スワローズ戦ではキャンプで取り組んだ成果を見せます。9回ノーアウト一塁で村上選手を迎えた場面。

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カーブ、スライダーともストライクは取れませんでしたが、緩急を交えてリーグ屈指の強打者を高めのフォーシームで空振り三振に打ち取りました。この度胸も富山投手らしさ満点で、その後の打者も抑えセーブがつきました。

やはり、こうした緩急・奥行きの使えるボールを持ち、動くボールも持っているので先発として将来見てみたいなぁと思う次第です。そのためにも今は目の前の仕事に全力投球していって欲しいですね。

■出典

いつもながら#ネクストバッターズサークルに所属する悟@野球さんのnoteより一部データを引用させていただきました。ありがとうございます。

タイトル画についてはオリックス・バファローズ公式Twitterより。


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