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2020年オリックスのキーマン(投手編)

新年明けましておめでとうございます。

昨年末より始めたnoteを続けていくのが今年の目標です。

今年もよろしくお願いいたします。

さて、年末に投稿した野手編に引き続きオリックスのキーマン、投手編を書いていきたいと思います。

昨年は山岡投手が最高勝率、山本投手が最優秀防御率と2人がタイトルを獲得し、盤石のように見える投手陣。2人に牽引される形でチームの先発投手の防御率は3.96でリーグ2位と上位につけ、守備の影響を受けない四球・三振・本塁打のみで算出するFIPは4.25とリーグ1位をマークしています。その一方で、リリーフは防御率4.23と唯一の4点台に沈むリーグ6位と後ろに脆さも抱えています。

今年オリックスが浮上するための投手のキーマンを挙げるなら誰か。リリーフに目が行きがちですが、試合の2/3を投げるのは先発投手と考えれば、まず重要視すべきは先発です。

昨年オリックスで100イニングを投げたのは山岡選手(170回)・山本選手(143回)・K-鈴木選手(102回)の3人。それに次ぐ4人目は榊原選手の79イニングで、タイトルホルダーの2人とそれ以外の先発投手の間には実力で大きな隔たりがあります。実際、3番目にイニングを消化したK-鈴木選手も防御率4.31、QS率26.3%、1試合当たりの平均イニングは5.3イニングと安定したピッチングは出来ていませんでした。

1年間シーズンを戦うには柱二本だけでなく、その後に続く3番手~5番手まで揃えない限り上位進出は難しいのが今のNPBです。オリックスとしては少なくとももう1人、先発投手として台頭することにより投手陣に厚みが加わると考えました。

ずばり、今年私が先発のキーマンとして挙げるのは2年目の荒西祐大投手です。

■荒西投手を分析する

荒西投手は熊本県玉名工業高校から社会人の名門Honda熊本に入団、社会人選手として8年間を過ごし18年に初めて選ばれた日本代表での活躍を評価され、18年ドラフト3位でオリックスから指名されました。19年の荒西投手の基本成績は以下の通りです。

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昨年27歳となったオールドルーキーは即戦力として期待されましたが、先発では8試合44イニング、防御率5.93、勝敗では3つ負け越すなどと物足りない結果に終わってしまいました。とはいえ、二軍では19試合45イニングに登板しているので年間合計96イニングに登板、先発/リリーフと役割が変わる中でもルーキーイヤーとして考えれば少なくとも怪我無く投げ切ることはできたといえます。また、シーズン終盤の9月には3試合で先発登板、いずれも優勝争いをしていた西武とソフトバンク戦で合計21イニング9失点、2度のQS達成で試合を作れたのはいい経験になったでしょう。

余談ですが、投手の投球を論じるときに一軍の投球数だけしか見ないことが多いですが、二軍でも投げていることは忘れられがちですよね。例えば一軍中継ぎの酷使は一軍の登板数のみで語られますが、二軍登板数を併せると別の選手が上位に出て来たりとか。二軍の試合を回すことも重要な仕事の一つだと私は考えています。

勝敗はその日のバッターの得点によって変動し、防御率は守備の影響を受けることを考慮し、まずは最も投手の力量を表す奪三振率と四球率を見てみましょう。

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メインで起用された先発時のK/9(9イニング放った時の奪三振数)こそ平凡なものの、BB/9(同与四球数)=2.25はかなり優秀な部類です。対戦打者に占める与四球割合を表すBB%は5.9で、イニング数に開きがあるとは言え山岡投手(6.4)と山本投手(6.5)を上回っています。HR/9=1.02なので京セラドームを本拠地にしているとはいえ、悪くはない部類に十分入るでしょう。

荒西投手のピッチングは、やや立ち投げ気味のフォームのサイドスローから左右を広く使うものです。サイドスロー投手の宿命として左打者にはどうしても打たれがちなのですが、荒西投手の場合はむしろ左打者を得意としています。

対戦打席数は1打席しか変わらず、対右打者には被打率.312であるのに対し、対左打者には被打率.250。ホームランも右打者には4本打たれた一方、左打者には2本。与四球率と奪三振率はほぼ変わらず、打者の左右に関わらず安定した制球力は荒西投手の長所の一つでしょう。

次に投球スタイルです。各球種の投球割合から見てみましょう。

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投球の中心はオーソドックスにフォーシームで全体の45%を占めています。それに次ぐのはカットボールシンカーで、やはり左右に広くストライクゾーンを使うピッチングは投球内容からもはっきりとしています。各球種の平均球速と、平均的な投手を基準として失点をどれだけ減少(あるいは増加)させたかを下表にまとめました。

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140km台中盤のフォーシーム、130km台中盤の2種の変化球、そして緩いカーブと、社会人で主戦投手として活躍したのも頷ける緩急をつけた幅の広い球速帯の変化球があります(あえてアンダーライン引いています)。フォーシームはシュート成分が強く、調子の悪い時にはそれが真ん中高めに浮いたところを痛打されるケースが目立ちました。得意としている左打者への対応は、外に逃げるシンカーと逆に外のボールゾーンから入ってくるスライダー・カットボールを制球よく決めることができています。

■今年飛躍するには

パリーグTVにも取り上げられた昨年の荒西投手のベストピッチはリリーフで登板し2イニングを5奪三振で終えた7月9日の試合でしょう。

フォーシームの強いシュート成分を生かす形でボールゾーンからストライクゾーンへ入れるピッチングは見事なものです。ゾーンへの投げ分けはどの試合でもうまく、終盤戦のソフトバンク戦での先発試合でも力を発揮していました。やはり痛打を食らうのはストライクゾーン内で勝負した時です。

それでは荒西投手が今年さらに活躍するにはどうすればいいでしょうか?

荒西投手が今年飛躍するためのヒントを探している中で、様々な動画を見て一人参考になる選手がいたので紹介します。同じく立ち投げに近いサイドスロー投手でMLB通算80勝を挙げているジェフ・サマージャ選手です。

昨年は180イニングに登板し、サイドスローからフォーシーム、スライダー、カットボール、高速シンカー(ツーシーム?)を左右に投げ分け、34歳ながら防御率3.52と好成績を残しました。動画を見ての通り、立ち投げに近いフォームから長い腕を横に振って左右に揺さぶり空振りや打ち損じを重ねていきます。彼のピッチタイプは以下の表の通りです。

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ご覧の通り、荒西投手と比べて持ち球はかなり近いことが分かります(落ちるスプリットがあるぐらいでしょうか)。しかしながら、MLBの平均球速より遅いにもかかわらずサマージャ選手のフォーシーム、カットボールの失点増減は大幅にプラスとなっています。この違いはどこから生まれるのでしょうか?

荒西投手のフォーシームの平均は144km、それに対しファストボール系統のカットボール・シンカーボールの平均が130km台中盤と球速差が10kmあります。対するサマージャ選手は、フォーシームとほとんど変わらない速さのカッター・シンカーを投じており、この差が大きいのではないかと考えます。

前項では緩急をつけた幅の広い球速帯の変化球を持っている、と書きましたが、現代のレベルの高いNPBでは120km台のスライダー、130km台前半のカットボールは既に見慣れたオーソドックスなものなのでしょう。

サマージャ選手の投球は、フォーシームに近い球速帯にカットボール、ツーシームをフォーシームに偽装して投げることで芯を外したり、空振りを取っていく今のトレンドに合致するものです。サマージャ選手の投じるボールは滅茶苦茶シュート回転がかっており、カットボールとスライダーですら座標上、中心よりも右方向に投げられています(しかもフォーシームもカットボールもシンカーもホップ成分が強くまさに現代MLBのトレンド投手!この辺の詳細はお股ニキ@omatacomさんの『サイバーメトリクスの落とし穴』を参考にしています)。カットボールもシンカーも意図的に変化量は少なく、その分球速を出してフォーシームに偽装して投げ分ける。それがサマージャ選手が30代半ばでも速球系のボールでプラス指標を維持できるポイントであり、荒西投手が今後飛躍するための好材料となるのではないでしょうか。

余談ですが、荒西投手は全試合若月選手とバッテリーを組みましたが、フレーミングを得意とする松井雅人選手と組ませると左右で勝負する投手なので面白いのではないでしょうか。(若月選手は落ちるボールの処理が上手いのでタイプによって適性を見極めて欲しい、という意味合い以上の何物でもないです。どちらも守備力は高いので。)

勿論、変化球の曲がり幅を抑え球速を上げることは並々ならぬ努力が必要なのだと思います。とはいえ、荒西投手の動画を見てみると、140km台中盤の球速で大きくシュート回転するボールと、ほとんどシュート回転しないボール、二種が見受けられます。特に9月の先発した試合の動画で見られるので、既にチャレンジの途上にあるのではないか、と期待し、私は彼を今年のキーマンに選びました。

なお、昨年先発で大ブレイクした山本由伸選手はフォーシーム平均150kmに対し、ツーシーム149km、カットボール146kmとまさにフォーシームに偽装した変化球を投げています。

身近に素晴らしいお手本がいるので、キャンプ~オープン戦での荒西投手の投球がどのようなものになるか、楽しみに見てみたいですね。期待しましょう!


※各データは

・ESSENCE of BASEBALL(https://1point02.jp/op/index.aspx)

・nf3(http://nf3.sakura.ne.jp/index.html)

・アメリカ大手データサイトのfangraphs(https://www.fangraphs.com)、

brooksbaseball(https://www.brooksbaseball.net

を参照しています。


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