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・花いばら「関心領域」に無関心 姫

映画評「関心領域」⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

2023年、アメリカ、イギリス、ポーランド、
ジョナサン・グレイザー監督

※2024年度アカデミー賞&カンヌ映画祭で受賞した、ユダヤ人監督による反ナチ作品。
(ネタバレ注意)

何だ?この映画は?
冒頭から数分間、何も見えない。
黒い画面から、うめき声や轟音らしきものが、かすかに聴こえるだけだ。

明るくなって、この家の大黒柱らしき人が目隠しされて登場する。
彼はサプライズパーティーの主役なのだ。

見えないことに徹底的に拘っている。

我々には見えているのか?
アウシュビッツ強制収容所の隣に住む、幸せそうな所長一家とどう違うのか?

本作のテーマが、いきなり突きつけられる。
観るというより感じさせられる作品だ

壁一重の収容所からは煙が棚引き、悲鳴や銃声、列車の音が通奏低音のように、聞こえてくる。だが、一家は我感知せず。


彼らは広い緑の芝生、その真ん中にあるプール、大温室、菜園、ガーデニングやピクニックを謳歌している。

敷地に比べて、異常に大きい温室。
温室は、文字通り温室育ちを意味する。
外の世界を知らない、ひ弱なイメージだ。


住まいも立派である。
この世の楽園、と妻はいう。
ホロコーストの効率化を提案した夫の出世を喜ぶものの、単身赴任してほしいという始末。

庭園のパーティーでは、所長以下水着の子どもたちまでまで白服が目に眩しい。
これに対して、囚人から収奪した毛皮や宝石を、この家に運ぶ使用人の服装はコークス色だ。
光と闇の共存である。

使用人は画面を横断する。
さりげない動きだが、我々の感覚を切断する働きをする。
はて?これは何を意味するのか?立ち止まって考えるシーンだ。

ユダヤ人を支援する少女が、命懸けでリンゴを収容所の土の中に埋めるシーンがある。
画質が異なる白っぽい背景と赤いリンゴ。
希望や不死、愛のメッセージか?

彼らは収容所のユダヤ人に対して、全く無視、無関心だったのか?


泣き止まない赤ちゃん。
眠れない女の子。
彼女が眠れるように、父親に読んでもらうグリム童話は、まさにホロコーストの世界だ。

男の子の宝物は、ユダヤ人の金歯。
妻は彼らの服飾品を、喜んで身につけ、人体の灰を菜園の肥料にしている。

贅沢の裏には、必ず搾取がある。
我々も日頃、意識せずにこうした暴力の加害者になっているのだ。
例えば宅配便、安価なファッション、コーヒー、チョコレート、宝石、金属類…。

そして、少しだけ振り返る時がある。
所長一家は自分だ、と。

遊びに来た母親は、異様な雰囲気に耐えられず、夜中に逃げ出す。
所長は吐き気に悩まされる。

ラスト、ドクロや靴の山が展示された、現代のホロコースト博物館を、淡々とスタッフが清掃するシーン。
清掃婦は、歴史を封印し、見ようとしない人々を象徴しているのだろうか?

それとも、ルーテインワークとして割り切って働いている🟰ハンナ・アーレントのいう「凡庸な悪」なのか?

博物館では、凄惨な痕跡のビジュアルが目に飛び込むが、それ以上に、収容所から聞こえて来る音が怖かった。

所長一家の体調の変化と、能天気な妻・長男との対比も興味深い。
妻と長男も、家族の様子に影響されないはずはないからだ。

どんなに無自覚でも、無関心から逃れられない
ことが分かる。

本作に関する文芸を投稿したところ、ナチ礼賛者から、ガス室よりも原爆や空襲の方が酷い、
という指摘があった。

同時にアカデミー賞を受けたアメリカ映画「オッペンハイマー」も、原爆投下のシーンを描かずに、戦争について考えさせる作品だ。

本作は、同胞の監督による問題提起だ。
観客に現在、世界各地で起きている戦争(ホロコースト→ジェノサイド)や暴力について、考えるきっかけになれば、と。

ガス室の隣家は三猿水中花 

ガス室にプール隣接ナチの子の 

収容所にたなびく煙走馬灯 

夏の霧ドクロも靴も薮の中  

囚人の金歯はおもちゃナチ炎夏

ユダヤ人の毛皮を纏ふ夏衣

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