働き方の男女不平等 メモ

「働き方の男女不平等 理論と実証分析」要約

1章 女性活躍推進の遅れと日本的雇用制度
日本において女性の経済的活躍の支援は遅い(ex.GEM,GGI)
理由①他のOECD諸国に比べて管理職の女性割合が低い。改善度も低い。
理由②男女の賃金格差が大きい 時間当たりの平均賃金は男性の62%
  ・最も有利な雇用形態(フルタイム正規)で最も男女間賃金格差が大きい雇用形態内格差
  ・最も有利な雇用形態に男性が多く最も不利な雇用形態(パートタイム非正規)に女性 多い雇用形態間格差
 ←その原因に育児離職率の高さ、正規雇用への復職の困難さによるパートタイム非正規への就職があげられる
   ←これに対して女性の非正規雇用率が男性よりも高い現状を改善する方策  
    ①新卒者の正規雇用者の採用において性別間での機会均等
    ②女性の出産・育児離職率を減らすこと
    ③出産・育児復職者の正規再雇用の道を開く

日本的雇用制度の論点
「就寝雇用」「年功賃金」「企業内組合」「企業内福祉」
日本の終身雇用や年功賃金の合理性を巡る論争・理論
・隅谷「内部労働市場が内部昇進制度(終身雇用・年功賃金)につながっているのではな いか」 
内部労働市場の機能:企業は採用訓練コストを減らすために企業特有の知識や能力を持つ「企業特殊な人的資本」の流出を防ごうとし、安定的雇用関係の制度を作る。労働者は得た企業特殊なスキルを活かして高い報酬を得ようとする
・舟橋「異動において雇用者の意思は尊重されない点がアメリカの内部労働市場とは決定的に異なる」
・コール「機能(訓練コストを減らす)は同じだが構造は異なる機能的代替物である」

⇒筆者「日本の雇用機能は訓練コストの削減だけでなく、無限定な職務内容や不規則な残業への従属を課す拘束と高い雇用保障の交換という機能も持つのではないか。その場合、機能は欧米の内部労働市場と同じとはいえない」
・村上・佐藤・公文による欧米企業と日本企業(武家社会的)の差違  
①超血縁制(家族のような終身雇用)⇔契約制
②系譜性(存続を目指す)⇔利潤最大化
③機能的階統性(ジョブ分業でなく命令系統の明確化を目的)⇔機能的分業
④自立性(外部企業への依存を避ける)⇔効率性
  ↑に対する筆者の議論
・日本企業は男性中心で女性は男性の補助的役割しか持たない
・報酬の連帯性→会社への忠誠、縁約性、新卒重視
・濱口のメンバー型vsジョブ型の議論は同じである
・村上らの理論では「日本企業が組織の存続と繁栄を目的とする」ことの成り立ちの理由がない(乱暴である)
  筆者が考えるに、会社はモノであり主体は株主であるか(欧米型と整合性が高い)⇔会社自体が「ヒト」性を持ち株主・雇用者・経営者などの利益を代表する会社自体が主体であるか(日本型と整合性が高い)という二つの解釈を持つ二面性が関係しているのではないか。
・存続・繁栄目的は合理性と結びつくが、その手段としてのシェア拡大や商品市場の内部化が合理的かどうかは別の問題である。

日本で経済活動における女性の活躍が進まない理由は日本的雇用慣行にあるが、日本的慣行は戦略的合理性 を持つため非合理的な制度からより合理的な制度への変換ができなくなり、その結果女性の活躍が進まないのではないか。
日本の高度成長期には労働需要>労働供給の見込みがあったために人材の流出を抑えることに合理性があったとされているが本当にその当時においても合理的であったのか?
労働者の定着性を確保する手段として日本の文化土壌(賃金は各個人の業績に対する報酬であるべきという規範がない)だからこそ年功序列的賃金が受け入れられた。定着性を確保する手段としてワークライフバランスを達成しやすい企業にするという手段もあるはずだが、それは日本企業の男性中心性ゆえ重視されなかった。
日本的雇用制度・慣行は強い雇用保障と年功賃金制度を核に以下のような相互補完的制度を持つに至った。
・職務給(業績と年功を合わせて考える)
・日本型ボーナス(全員に一率に与えられる):外部性を持つため雇用者間に利害の連動を持ち、協力のインセンティブを引き出すと同時に同僚への強い規範的取り締まりの必要を生み出し個人がリスクをとる行動は抑制される
・終身雇用:転職しにくいため一律ボーナスであっても逆選択(一律に扱うと質の悪いものは残り、質の良いものは転職する)が働きにくい。
・労働時間による雇用調整制度:雇用者数で雇用調整が行えない以上、バッファーとして恒常的な一定の残業が必要になる。また、中途採用に正規雇用が開かれていない状況では退出を有効な交渉手段として使えない。
こうして制度を積み上げる際には合理性を有していたが、外部条件の変化した状況ではむしろ足かせとなり、また新たな外部不経済(人件費削減のための非正規雇用増加は国民の労働所得を減少させる、潜在的に優秀な人が活躍できない)を生み出し新たな女性差別を生み出した。

夫婦の伝統的分業が強く存続する制度的原因
家事育児は家事育児によって所得が減る機会コストの少ないほうが担うほうが合理的。経済原理からのみ考えると普遍的前提のもとでは主婦家庭と主夫家庭が同じ数になるはずであり、男性が仕事、女性が家庭と固定させるのは非合理的。
伝統的分業は以下と補完的に悪循環を起こしている。
・性別間賃金格差
・長時間労働と家庭を共立させる仕組みとしての伝統的分業
・扶養控除制度などの法
・女性はゼロ残業がかなえられるが男性や総合職女性は過剰就業を押し付けられるという企業の規範

女性への統計的差別は倫理的正当性がないだけでなく経済的合理性もない
 理由①離職コストが高いということは妥当性がない。生産性よりも賃金が低い時期のうちにやめてくれることはむしろ企業にとっては得であり尊徳は拮抗する
 理由②離職コスト=離職率×離職したときのコスト
    ワークライフバランス施策:離職率を下げる
    統計的差別:離職時のコストが下がるが離職率が上がる
 理由③優秀な女性の代わりに相対的に有能でない男性を活用することの機会コスト
 理由④差別される側の女性が差別を認識していると結果的に生産性が低下する(一種の予言の自己成就)
 理由⑤逆選択により、有能な女性は転職し企業は損をする。
 理由⑥日本企業は減点主義的人事評価をするので、人事担当者が企業の利益ではなく自分の利益を考えると慣習を破らずに女性を統計的差別することが得である。

日本型雇用慣行は、欧米モデルに技術的に追いつけばよく、結束と協力の力を見えている適切な方向に注げばよく、雇用の安定増加が見込めた時代には機能した

不確実性の中適応していく力が必要であり、労働需要が不確定な現代には逆機能

本書で用いる統計分析
ブードンの理論に基づく要素分解分析:マクロな社会変化について反事実的状況(ex.男女の勤続年数の分布が同じ)だったならをおいて分析を行う。
DFLモデルもマッチングモデルも観察されたデータについてはモデルの予測は事実と完全に一致すると仮定している。
DFLモデル:説明変数の結果への影響を表すパラメータは反事実状況でも変わらないと仮定
マッチングモデル:職業の分布は反事実的状況で労働供給が変わっても不変であると仮定


2章 ホワイトカラー正社員の管理職割合における男女格差の決定要因
〇問い:日本で女性の管理職がなぜ少ないのか?
〇企業の答え:管理職に必要な能力、知識などを有する女性がいない、女性の勤続年数が少ない
〇筆者:企業は管理職になる女性が少ないのは女性の問題だとみている
しかし、必要な能力を有する女性がいないのは企業が女性を育成してこなかった から(学歴差で説明できる部分は少ない)勤続年数に関しては仮に同じでも男女の昇進機会が著しく異なるという事実を無視している。

《筆者の研究》
管理職者数/正社員数の性別間比較
・長所:個人属性によって説明できる部分と説明できない部分に分解できる。
・限界:
横断調査なので逆因果の関係を排除できない←企業の人事担当者の回答を使用することで影響しないと仮定できる。
標本選択バイアスが存在する←解釈上注意喚起する

仮説
①男女の学歴の違いが管理職割合の男女格差の一因
②正社員の年齢、現在の勤め先企業への勤続年数の男女差が管理職割合の男女格差の一因
➡影響は自明であるのでそれがどの程度であるのか?
③就業時間の差が管理職割合に影響し就業時間が男女で異なることが管理職割合の男女格差の一因となる
④管理職割合と長時間労働との関係は男性より女性のほうが強い
➡会社への忠誠心のシグナルとしての長時間労働が特に女性の昇進要件になっている?
⑤⑥他の個人属性を一定として子供のいる男性有配偶者は管理職割合が高く、女性有配偶者は管理職割合が低い
➡企業や個人の伝統的役割分業
⑦企業が性別によらず社員の能力発揮に努めているとそうでない企業よりも管理職割合の男女格差が小さい
⑧企業がワークライフバランスの達成に努めているとそうでない企業よりも管理職割合の男女格差が小さい

分析:
DFL法(女性で説明変数Zの分布が男性と同じと仮定)+ロジスティック回帰モデル(説明できない部分)

結果:
〇学歴・年齢・勤続年数の男女差
年齢と学歴に関するメカニズム
①女性正社員の離職率が高く、再雇用率は男女ともに低いので女性は平均年齢が低くなる
②女性のほうが男性よりも学歴レベルが低い傾向にある
③高年齢ほど男女の学歴格差が大きい
標準化1~5:年齢・学歴・就業年数・就業時間などを男性と同等にした場合の推計値

図2.4 課長以上割合の大卒・高卒別男女格差
・大卒女性の課長以上割合は高卒男性の課長以上割合の半分以下→大卒という業績でなく、性別が大きな決定要因である
・男性であれば大卒と高卒の課長割合は40代前半まで大きく変わらない
・女性では大卒と高卒の管理職割合は大きく異なる

反事実的推定値:
学歴・年齢・勤続年数などの人的資本による差で説明できる男女格差は課長以上割合では21%、係長以上割合では30%に過ぎない。
就業時間による格差説明度は暫定的ではあるが大きい。伝統的役割分担が残り、女性の家事育児コストが大きい以上、格差解消が困難。就業時間も入れるとこれらで説明できる格差は課長以上割合で39%、係長以上割合で44%

〇性別と個人属性や企業属性との交互作用効果の分析
業種・企業規模(大きいほど少ない)によって格差が異なる。
就業時間の多い群では男女格差が減少する
→女性のほうが長時間労働を管理職要件にされている(因果効果)or女性のほうが管理職になったときに男性よりも長時間労働をしなければいけなくなる(逆因果関係)
→女性にとって管理職になることが男性以上の負担になる
有配偶者について、仮説⑤⑥を部分的に支持する結果
係長以上割合について、仮説⑦⑧を支持する結果。課長以上割合においてはワークライフバランス施策が格差を減らすという仮説⑦のみを支持する結果。

結論・政策インプリケーション
人的資本による差で説明できる男女格差は少なく、コース制による統計差別による男女格差がある。現状打破のためには間接差別を意図によらず効果においても男女格差を生む制度を含むと定義し男女で大きく異なる制度を法的に禁止すべきだ。
女性において特に長時間労働が管理職要件となっている現状が示唆された。女性活用のためには労働時間でなく時間あたりの生産性を尺度とすべきである。
最終子が6-15歳の女性の管理職割合が低く、仕事と家庭の両立が困難であるためと考えられるため学童保育などの支援に取り組む必要がある。

8章 男女の不平等とその不合理性
日本の雇用慣行が男女格差の原因んであり、悪循環が続いているという認識
日本企業の選択は手段の選択に関する「手段の合理性」はあっても、真の合理性はなく。企業の自主努力での問題解決は難しい。
「機会の平等派」生産性の違いに基づく賃金格差なら問題ない、統計的差別OK
vs
「結果の平等派」社会に男女不平等の原因があるのならばアファーマティブアクションなどを用いて結果に介入して平等を生み出すべき
筆者:機会の不平等を問題にしているが、企業活動の合理的だという考えには疑い
筆者の価値観
「性別やその他の属性にかかわらず誰もがその持てる潜在能力を十分に発揮できる社会の実現を優先する」
親の貧困などの社会的ハンディキャップはもとより障害や育児などの個人的事情と思われがちなことについてもそれが社会的ハンディキャップにならない社会が望ましい(形式的機会平等との差異)

女性の管理職割合と間接差別
女性管理職登用が多い企業の生産性・競争力が高いという事実=間接差別の合理性を否定
アメリカ:意図的な差別があったか否かに関わらず格差を生む影響をもたらすことを証明できれば差別である
日本の間接差別の定義の問題点:
「合理的理由なく」⇒合理的理由があれば間接差別による機会の平等の制限を許す示唆
具体的な禁止項目⇒それ以外ならばやっても良いということになりやすい
筆者の主張:コース制や企業内トラッキング制度はすべて間接差別として禁止されるべき

統計的差別、預言の自己成就と女性労働の非生産性
コートとラウリーの理論:
企業の合理性を仮定していない、偏見があっても劣等均衡で保たれてしまう
これが日本の現状にあてはまるならば企業の自主的変革は望めないため政府が女性活躍推進のインセンティブを与えることで劣等均衡を崩すことが重要

女性の職業のステレオタイプ化
夫婦の伝統的分業の強い存続とそれを延長した形での男女の職の分離
学歴均等になってもなお職業分離は広がる。
「女性向き」の仕事の賃金の低さ、「男性向き」とされる理由が女性において達成の閾値がより高く設定されているためと考えられる職が賃金や地位の高い職である。
企業がステレオタイプによって採用に性別を考慮することは潜在的能力を生かせないという点で合理的でない。
長時間労働と女性の機会
女性の活躍→時間あたりの生産性向上
日本→一人あたりの生産性を尺度に人事評価
➜合理的でないが劣等均衡が成り立つため変革が難しい
法制化①最大労働時間の制限 人権の問題 日本の限度時間は守られていない
法制化②労働者がペナルティを受けずに就業時間を一定程度選択できる権利を日本も保障
ダイバーシティ経営と女性の活躍推進
性別に関わりなく社員の能力発揮に努める人事方針が女性の活躍推進の鍵であり、WLBにはこの方針が前提
女性大卒者の割合が企業の生産性・競争力に影響を与えていない→高学歴女性の人材活用に失敗している、ダイバーシティの欠如
雇用形態と賃金格差
同程度の労働生産性に同一賃金という対策の問題点
女性の相対賃金は相対生産性に見合っている⇔女性の生産性が低いのは企業による女性人材の不活用が真の原因
➜男女の賃金格差の是正ではなく労働生産性格差の是正を目指すべき
女性には同一労働への機会の平等が開かれていない
非正規労働者の非生産性は企業のせいであり、大きな外部不経済となっているため、非正規雇用を縮小し、将来的には限定正社員が多数派となり、「滅私奉公」から自由になる社会が望ましい
女性の活躍推進法の運用
正規雇用→雇用機会・経験機会・評価基準・昇進・ワークライフバランスの各側面において企業が女性の活躍推進について行動計画に盛り込むべき
非正規雇用→正規と同様の職務機会や成果報酬の機会などの均等処遇など生産性ひきあげを促進する具体的行動を盛り込むべき
・女性活躍劣等企業には行政指導・監督などを行い、底上げするべき
・女性活躍指標の情報開示と改善努力を行うべき

男女の機会の平等を考える上で留意すべきこと
①既存の制度を前提とした機会の平等は真の機会の平等ではない
 …育児離職した女性が正規に戻れない、内部労働市場の最優先、家庭との両立の困難さから女性の機会が大幅に狭められており、それを緩和する制度改革が必要
②基準が男女で公平か
 …育児など男女の置かれた状況の違い、選考の違いに中立的な基準であるべき
③社会的機会の平等を阻害する制度に影響をもたらす価値化や意識は単に個人の精神の自由の問題ではない
公は個人の内面に踏み込むべきではない⇔統計的差別やステレオタイプの押し付けにおいても倫理感が問われる 真の機会の平等、選択の自由の実現という観点から見直されるべき
④信念が結果に影響する場合に男女の機会の平等の実現に何をもって合理的とするか
信念と事実が矛盾する場合もある、企業にとって信念の合理性を判断する外的基準がない
企業ではなく社会にとっての合理性の基準
ポジティブアクションなどの採用も望ましくない均衡を破るためには必要であり自由主義と矛盾しない
女性人材を活用できない社会が経済的に道理的ではありえないという認識 

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