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「YOKOHAMAどっちも定期」、通学者はいずこ。

「YOKOHAMAどっちも定期」とは?

 2023年3月18日より、相鉄はICカードの定期券を対象に「YOKOHAMAどっちも定期(以下、どっちも定期)」と言うサービスを実施している。この「どっちも定期」とは、要は「西谷~新横浜の区間を含む通勤定期券は、従前の経路以外に横浜駅も追加料金なしで利用できる」と言う物だ。このどっちも定期は現在ではIC通勤定期券でのみ得られるサービスとなっている。


なぜ、「どっちも定期」なのか。

 横浜駅西口。老若男女が交わる神奈川県最大の繁華街、そして商業の中心である。横浜駅、桜木町、関内のエリアで、遊びや買い物の場として気軽に横浜駅西口に行ってもらう……例えば、学生時代に横浜西口に行く機会によって、大人になってもその習慣が染み付き、今後も横浜に住む……と。相鉄の不動産事業としては沿線の住宅事業も儲かりかつ自社の商業施設が儲かることはとても都合がよかった。
 このように、横浜駅西口という場所は長年相鉄沿線の住民が、横浜とそれ以外を往復する流動によって下支えがされていた。
 が、2023年に完成した相鉄新横浜線、東急新横浜線によって、その下支えが東京都心に流失される「横浜飛ばし」が起きる懸念があった。この「どっちも定期」はこの現象によって自社の不動産事業が後退しないよう先手を打ったことになる。

通学定期券は「どっちも定期」が適用されない

「どっちも定期」が学生定期券で実現しづらい理由

 しかし、現行の学生定期券では「どっちも定期」のサービスを受けられない。これには次のような事情が考えられる。

  • 「学生定期券の運賃割引率」

  • 「学生定期券と通勤定期券の役割の違い」

学生定期券の運賃割引率

 まず割引率について。相鉄の通勤定期券のコスト回収には月の通勤回数は40回(20往復)程度が必要である一方、通学定期券のコスト回収には月16回(8往復)程度の移動(つまり、年間96往復)が必要になる。実はこの割引率自体は他社と比較するとかなり悪いものだが、通学定期券自体は割引率が良いと言う特徴が如実に現れていると言える。
 日本の高等学校は年間でも200日程度は通学すると言われていることを考えても、96/200で48%とかなり破格な物だ。ゆえに、採算面でみると通学定期にて通勤定期同様の「どっちも定期」を採用すると言うことは採算に値しないものと考えられる。

学生定期券と通勤定期券の役割の違い

 次に「役割の違い」について。そもそも学生定期券は「あくまでも通学手段」と言うためもので、「定期区間だから寄り道して買い物」のような用途の物ではない(旅行での学割証も本来はそのための物だ)。このことがある以上、現行の「どっちも定期」をそのまま学生定期に適用すると、「どっちも定期」の特徴である西谷-横浜の移動での運賃支払の免除が「寄り道」とされて本来の定義に反してしまう恐れがある。

学生でも、西谷~横浜を安く移動したい!

意外な数式の話

 ここまで散々に言われても、西谷~横浜間の運賃、あわよくば横浜~綱島(新綱島)の運賃を安く移動したい。しかし、現行の枠組みで計算してみると、興味深いことが浮かぶ。
 実は西谷~横浜の定期券は通勤では7800円、通学では2510円となる。もし、相鉄線内の通勤定期券の運賃をX円とすると、先に解説した割引率の違いに基づき、次の関係式ができる。

  • (通勤定期券とαの差)=X-(0.4X+7800)=0.6X-7800=0.6(X-13000)

    • 「通学定期券と西谷~横浜の通勤定期券の合算」をαとした。

 これは、Xが13000を超過しない場合はαは通勤定期券を所持する場合よりも損をし、逆にXが13000を超過する場合はαは通勤定期券を所持する場合よりも得をすると言える。この格差は例として大和~新横浜以上の路線長でXは大きくなるので、対象区間は多いと言える。

西谷~横浜を定額または格安で移動する手段は減少傾向にある

 今後、相鉄新横浜線を学生定期券の区間に含む利用者は西谷~横浜での利用に対して恩恵を受けるだろうか。例えば、かつては時差回数券と言う昼間と土休日の利用促進に焦点に当てた回数券が存在したが、既に消滅済みだ。また、相鉄グループによる乗車ポイントサービスの構想があるにしても実用化は2024年以降と消極的に見える。そのため、我々は「相鉄本線の安い運賃」に頼ることしかできないようだ。


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