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【OAK】結局デスボールとはなんだったのか

 今年アスレチックスに加入したベテラン投手のロス・ストリップリングは、昨季契約したジャイアンツで不良債権になっていました。34歳となるオフ、プロキャリアを少しでも長く続けるには何かを変えなければなりません。

 そこで、ストリップリングが着目したのがスライダー系の変化球の改良です。ストリップリングは速球の平均球速が92マイル弱と速くなく、速球で押せる投手ではありません。従って変化球が投球の生命線を握っています。その変化球が打たれるようになったことに対処する、というのは自然な発想です。

 そうして彼がたどり着いたのが、この記事のタイトルにもなっている「デスボール」です。デスボールとはスライダー系の球種で、空振りを取るのに極めて有力であるとしてトレンドになっています。ブレーブスが選手に習得させることを得意としており、スペンサー・ストライダーなどがこの球種を決め球としているそうですね。

 確かにこの球を再現できれば空振りを奪う手段が増えて、奪三振が少ないという課題に対しては有効な対処になります。昨季は三振が少ない上に被打球成績が悪かったのですから、三振を増やそうというのは自然な発想です。

 問題は、デスピッチ、デスボールと呼ばれる球を本当にストリップリングが再現できているか、そして再現したら抑えられるのかです。投げようとするだけでは意味がありませんからね。

 前置きが長くなってしまいましたね。今回はいわゆるデスボールとは何なのか、そしてストリップリングのデスボールがどのような結果をもたらしたかにスポットライトを当てていきます。


(一般的に)デスボールとは?

 デスボールとは、先にも言った通りスライダー系の変化球です。namikiさんが昨オフに記事でまとめてくださっているところによれば高速のカーブとも言えるボールで、横変化が小さい一方で縦に鋭く曲がります。

 ひとまず記事で紹介されているストライダーとルーク・ジャクソンの2023年の投球を図にしてみました。

ストライダー
ジャクソン

 二人のスライダー系の球の間には横変化量に大きな違いがあります。しかし上の記事と二人の投球の情報を総合すれば、デスボールは球速85マイル以上回転効率30%台前半横変化が10cm以内のボールのようです。

(ストリップリングにとって)デスボールとは?

 同じブレーブスのストライダーとジャクソンですらこのように違う球質のものを投げるのですから、ストリップリングがデスボールをどのようなものと捉えているのかについても知るべきかもしれません。

 上に挙げた2つの現地記事によれば、ストリップリングのデスボールはジャスティン・バーランダータイラー・グラスナウのそれに似ていて、ピート・フェアバンクスを参考にしているようです。

 ここで挙げた選手たちの投げるボールはどのような特徴を持つのでしょうか。同じように見てみましょう。


バーランダー
グラスナウ
フェアバンクス

 グラスナウとバーランダーのスライダーは近い球質のようです。一方でフェアバンクスのスライダーはストライダーとジャクソンのハイブリッドのようなボールで、回転効率が30%台後半から40%程度とやや高めな以外は先述のデスボールの特徴に当てはまります。

 ついでにグラスナウが2021年シーズンにスライダーを投げ始めた当初のものも見てみましょう。

 こちらはよりジャクソンやフェアバンクスのデスボールに近いかもしれませんね。

 上に挙げた選手たちには、共通点として「全ての投手のスライダーが左右問わず高い奪空振り能力を持つ」「全員高い腕の角度から投げ込むタイプ」ということがあります。各球種の変化方向は投手の腕の方向によるところが大きいとされ、デスボールは縦に落ちる球なのでデスボールの使い手になるには基本的にオーバースローでなければなりません。

 それぞれ投げる球は少しずつ違うので、どういう球を投げたいのかがあまり見えてこないというのが正直なところではあります。しかし、どちらのパターンでも空振りを奪うことには長けており、ストリップリング自身もオーバースローの投手なので導入の判断は間違いではなさそうです。

デスボール導入前のストリップリング

 デスボール導入でストリップリングの投球がどう変わったか見る前に、元々ストリップリングがどういう投球をしていたのかを見てみましょう。まずはお馴染みの変化量チャートから。

 高いアームアングルからややカットホップ系の速球とシンカー、そしてそれらとの緩急をつけるチェンジアップと横変化の少ないスライダー、ナックルカーブがメインになっています。スライダーの球速は87.2マイル、回転効率が42%で、変化量も落下が少なくデスボールとは異なっていると見るのが妥当そうですね。続いてBaseball savantから左右別の投球位置も持ってきました。

対左
対右

 左右共にアウトコース高めにフォーシーム、アウトコースに逃げていく変化球をアウトローに、という点は徹底されています。一方で、打者に向かっていく変化球とナックルカーブは投球場所が一貫していないことが伺えます。

 次に、上の2つを踏まえて投球結果を表にして見てみましょう。

 上で言ったように投球場所が定まっていない対左のスライダー、対右のチェンジアップは大幅なマイナスを計上しており、課題となっていることは明らかです。簡単に見切られ、捉えられており、ストリップリングが打ち込まれた要因といっても過言ではないでしょう。

 空振りを奪うという観点でも、スライダーは左右共に空振りが少なくなっています。特に対左ではそれが深刻で、スイングあたりで見ると15.6%、全投球だと6%しか空振りを奪えていません。NPBでも抑える投手はもう少し空振りが取れるくらいの数字なので、いかに物足りない数字なのかがお分かりいただけると思います。

 ナックルカーブは球速差が生きたのか左右共に見逃し率が高く、比較的有効な球になっています。数少ない救いといったところでしょうか。

デスボール導入後

これまでのスライダーはどこに

 さて、長い前置きを経てようやく本題にたどり着きました。実際にデスボールが投げたストリップリング……間違えました、ストリップリングが投げたデスボールについて考察していきましょう。まずはお決まりの変化量チャートから。

 カッターが増えている以外は前年とそこまで変わりませんね。このカッターがデスボールでしょうか。

 実はそうではないのです。先ほど載せた昨年のものと見比べていただくとわかるかと思いますが、球速帯から考えてカッターは昨年までのスライダーと同じ球種と捉えるのが妥当そうということになります。

 ただスライダーがカッター判定されるようになったかというとそうでもなく、ストリップリングはデスボールとのより良い組み合わせを目指してこの球種を改良しています。

回転効率 42%→56%
変化方向 時計の10:30方向→11:30方向

Baseball savantより

 傾向としてはよりホップ成分を増やし、速球と比べた時の横曲がり成分を増やしたような感じになっていて左打者のインコースに投げ込んで詰まったフライを打たせるのに有効そうな印象です。

対左

 実際投球コースの面でも高め中心に投げ込んでいることからもそのような意図が伺えます。実際、左打者に対してはカッターで打球速度を抑えることに成功しています。右打者に対しての話は、デスボール自体の話を先にしなければならないので一旦後回しにしましょう。

(実際に)デスボールとは?

 さあ、ついに本丸であるデスボールの話です。まずは変化量チャートを再掲します。

 重力を無視したら先に紹介したデスボールの特徴に当てはまりそうです。Baseball Savantから見られる重力を考慮した落下量で見てもストライダーのそれに近く、そんなに悪い球種には思えません。実際、機械学習を用いた球質評価指標であるStuff+でも優秀な数値を残しています。

再掲

 それで実際どうだったかというと、左右共に1割以上という無視できない割合を投じたにもかかわらず得点価値は大幅マイナスとなりました。その原因を考えてみましょう。

 まずは対右から。データサイトPitcher Listによれば、ボールゾーンスイング率はMLB平均を上回る42.4%と上出来な一方でボールゾーンコンタクト率は56.0%と高い値になっています。つまり、振らせることはできている一方でそれを奪空振りには繋げられていないのです。

 とはいえ、スイングを誘発できているので空振り率はそこまで壊滅的な数字ではありません。ではなぜここまで大きなマイナスを出しているのでしょうか?

 それは、バットに当てられると悲惨な結果になっているからです。ゾーン外はファウルにされ、ストライクゾーンに行くと痛打されています。右打者がストライクゾーンのデスボールを打った時のxwOBAが.461という数字。これは打たれたら常にブルージェイズのゲレーロジュニアレベルの打球になっているということ、と言えばいかに悪いかが伝わるかもしれません。

 続いて対左では、そもそもゾーン外スイング率が平均以下でゾーン外コンタクト率は81%とあまりストライクゾーンに投げるのと変わらない数字を示しています。空振りがほとんど取れていないのです。

 当てられたときの結果としては対右ほどは悪くないのですが、それでもかなり打たれています。

何がいけなかったのか

 ここまでいかにデスボールが悲惨な結果を残したかを書いてきました。ここからは何がそんなにダメだったのかを考えてみます。

 まずは投球位置です。対右から見てみましょう。左下がスライダー、デスボールです。

対右

 ここから読み取れることとして、これまでほどは精密に制球出来ていないというのが挙げられます。昨年までのスライダーはほぼインコースに行かず、高めに投げることも少なかったのに対して今年はヒートマップの面積が広く、赤系の色も散らばっています。同じストライクでも甘い球が多かったのは間違いありません。

 続いて対左。

対左

 こちらも細かい制球があまりできておらず、甘いところに行ったりとんでもないボール球になったりしています。

 しかし、その程度でここまで悪くなるとは思えません。最初に紹介した選手たちだって特別制球力に優れているわけではありませんし、ストリップリングだってそこまで致命的な制球ミスばかりをしているわけでもないのです。

 何が違うのか。ここからは想像になってしまうのですが、私はストリップリングの速球の球速に原因があると考えました。最初に例として挙げた選手たちはみな、平均90マイル台中盤から後半の速球を投げます。それに対してストリップリングの平均球速はたったの91マイル。おそらく打者が対応するのに十分な時間があるため、適応されてしまうのではないかと考えました。

デスボールはどうなった

 結局鳴り物入りで導入したのにデスするのは打者ではなく投げるストリップリング自身の投球成績になってしまったというオチがついたデスボール。辿った結末についても少し触れておきましょう。

 ストリップリングは5月下旬に肘を痛めて故障者リスト入りしました。そして復帰後は、デスボールを投げなくなってしまったのです。

Baseball Savantより

 上の図の黄色がデスボールなのですが、左下側だけにしかなくあとは消えていることに気づいたでしょうか。デスボールが打者ではなく投手にダメージを与えることになった結果、投手自身に見捨てられキルされてデスすることになったというのは悲しいものです。

 そしてその代わりにストリップリングはカッターを使うようになったわけですが、こちらも空振りが取れず苦しんでいます。人格面の評価も高くイニング消化力が高いため、来シーズンも現役を続けるなら契約先がありそうですし、なんとかなってほしいですね。

おわりに

 今回も最後までお読みいただきありがとうございました。もしよければスキフォローXのフォローもよろしくお願いします。それではまた次の記事でお会いしましょう。

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