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自戦記 三鋭戦 決勝 vs野っ太郎さん


この対局の自戦記です。

対局前

1.野っ太郎さんは格上の相手である
2.野っ太郎さんは居飛車党である
3.野っ太郎さんは矢倉を指すことがある
4.私は矢倉殺しの右四間飛車が得意である

ここまで書けば結論はわかっているだろう。
5.矢倉を指させて右四間で刺す

完璧な作戦である。それが実現できれば

序盤

が、駄目……! 角道をあけない……!
そのため矢倉にもならない……!

居飛車党相手に相居飛車など無理……!
圧倒的不利……!

だがこの14手目で思いつく……!
失敗した作戦の挽回を……!

一見無茶苦茶なこの駒組み。
しかし、なんだか形が向かい飛車に見えてこないだろうか……?
とりあえず指している私にはそう見えていた。

意外、それは振り飛車!

25手目で方針転換後の戦法が明らかになる。振り飛車である。
飛車先をついて、左金を7筋にあげ、1回玉を左にあげてからの振り飛車である。
普通こういうことはない。あまりに手損……といいたい所だが、だからこそ心理的死角になる。
また私はこういう広義の陽動振り飛車を指しなれているので、この時点で振れば「まだ指せる」ということを経験的に知っていた(棋理的には無理)。

この辺、本配信でぬいさんが「なにか作戦ミスがあったのか」とコメントしていたが、本当にそうでびっくりする。

中盤

31手目に堂々と金上がり。本配信では「精算した後の55角は大丈夫か」という美野辺さんのコメントがあるが大丈夫ではない。
この辺は単純に6六地点の利きが足りてるの1点だけ見ていた。

バレなきゃ悪手じゃないんですよ

33手目。ここで8七の歩を支えずに7七角。

当然のように龍が出来て困っているように見えるが、普通に困った。
いつもの四間なら7七角で飛車先は受かるので、手なりで指してしまった。
だがここで19秒の長考(三鋭戦は5分3秒フィッシャーなので十分長考)で対応が見えてくる。
飛車をぶつければいいのでは……?

こちらは何手かわからないぐらい手損したおかげで陣形が初形に近い。そのため大駒の打ち込みに強い。
対して後手は順当に相居飛車として指した結果、飛車を渡せない形になっている。

もとより分が悪い勝負、激しくいく。

39手目。8二飛車に悠々と4八玉。
本配信では8六歩の垂れ歩が指摘されている。
もし指されたらどうだったか? もちろん無事ではない。
無事ではないが、私の読みになかったしなぜか指されなかったのでセーフである。
読んでいたのは8七歩のみで、こちらは7七角でなんともない。

43手目。歩と金で攻めに行く私。
状況としてはもどかしい局面。飛車を後手陣に下ろせればほぼ勝ちなのだが、8二飛車が効いていて飛車はまだ使えない。
ここで出てくるのはやはり経験である。金の活用は素直だが、この時思い浮かんだのは駒落ち上手の時の経験だ。
下手ではなく上手である。私は級位者ながら本当の将棋初心者(ルールを覚えてる最中ぐらい)の人間を相手に手筋を教えたりしていた。
その結果二枚落ちの上手の経験はそこそこあり、最悪大駒なしでの攻めは継続可能なのである。駒落ち上手はいいぞ。

金を守り駒と精算した57手目。ひと目は6一飛車だが、その後の展開がよろしくない。6二金、2一飛、3一金で飛車が死ぬ。角と交換すれば桂角と二枚換えになるが、相手の陣形は角は別に有効ではない。という訳でここでは別のアプローチが必要になる。

57手目に選んだのは叩きの歩。本配信では「取ったらどうなるのか」と解説されたが、何もない。
飛車の利きは減るのでまあ嬉しいが、まだなにもない。

だが避けてくれるなら別……!

終盤

63手目。飛車をお互い駒台に戻せたおかげで飛車打ちが成立。一気にこちらの陣形が生きる展開になってきた。
この時私が考えていたことは「ひと目の手を指す」である。
ここから逆転は普通ありえない。また、持ち時間は後手46秒に対し、こちらは2分54秒!

「だから少し時間を使っていい」というのは平凡な一方、この大会では微妙である。終盤の叩きあいにどれだけ時間が重要かは言うまでもない。
普段の秒読みに代わるフィッシャーは1手につき3秒しか与えてくれない。
時間に追われると負ける。これは三鋭戦で一貫して意識していた部分である。

「だから少し時間を使っていい」と同じ方向で、私は「別に急いで詰まさなくていい」と考えた。わかりやすい手でいい。不利にならない手を1手1手指すだけである。
すると相手が頑張ってもこちらの時間有利は崩れないし、盤面の有利も帰ってこない。

81手目のこのと金がわかりやすい。私は急いで詰ます気はさらさらない。
難しい変化も読まない。ただひたすら「互角かやや有利になるひと目の手」を指し続ける。そしてこの時点で時間差は後手12秒に対し、先手2分32秒と有利を拡大し続けていた。

85手目。この辺も見える手を指しているだけである。
チーム視点配信では「詰みを逃した」とこの前後で5回ぐらい言われたが、もはやそういう将棋ではないのである。
普通の将棋は詰ますことが勝ちだが、この大会では「詰ますか、時間を切らせば勝ち」なのである。そのどちらでも逆転を許してはいけない。

最後は「なんか角の利きが見えたので」詰み。
全然読んでいなかったのでこの後も手が続くつもりで構えていたら、なんか詰んだというのが正直な所。

終盤のやり取りと時間。野っ太郎さんは残り40秒ぐらいなので、数秒の思考も貴重で意図が要る。対してこちらは2分以上残しているのに、10秒考えることがない。玉の逃げ道を考える時に7-9秒考えるぐらいで、ほぼ考えずに指していることがわかる。

局後の感想

この対局まで決勝での個人戦績が1敗のみだったので、まず1勝できたので安心したというのが正直な所。
また、三鋭戦予選を含めてもここまで好き勝手に自分の戦法を指した棋譜は思い当たらない。途中10回ぐらい死んでいたが、満足のいく棋譜となった。