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第二期V名人戦B鹿第一局 自戦記!

未良々さんはこういう冗談が好きなので、スルーである。というのも、未良々さんの中飛車は強い。

https://www.youtube.com/watch?v=6wrFggZgc0E

第二期V名人戦の前日、のりたま交流戦でも未良々さんの中飛車は冴え渡っていた。構想も素晴らしく、まず中飛車を見せて中央を厚くさせて三間に振り直すという対処不能の戦法である(どうしろと)。対局においても攻めが冴え渡り、終盤まで常に優勢というとてつもない指し回しだった。

率直に言う。「この中飛車で来られたら負ける」これが第一感である。なので、らしくもなくわりと本気で対策をしていた。

さて、最後は対局前の自己紹介等である。未良々さんはV名人戦の運営、そして私も裏方としてけっこう手を入れている。「この大会を良いものにしたい」という気持ちはお互い強かったように思う。だからこそ、ヴァロラント云々と書かれていた事前回答をネタに未良々さんも自己紹介すると読んでいた。なので中継のぽやーじゅさんに頼んで自己紹介は後に回してもらった。万が一ということもある。

さて、未良々さんからはすごい真面目な自己紹介が飛んできた。この段階で定跡は外されていたと言える。これでは私の対おふざけ用の自己紹介は使えない。けっこうつっかえつっかえ自己紹介した記憶があるが、ネタ向けの原稿はこんな感じだった。

未良々さんはV名人戦に備えて
ヴァロラントで1000体のbot撃ちをしたと伺っています。
私も今日という日に備えて学問に打ち込み、
アメリカの福祉問題の洗い出しや、
The capacity to be aloneなど心理学方面の確認をしていました。
今日はサンクコストに注意して、
定言命法に従った指し方を心がけたいと思います。

ある意味、この時点で戦いは始まっていたと言える。

さて、本局の振り返り。まず初手は真ん中の歩でも突くのだろうと、対策していた手順をどうにか脳内で再生しようとしていた。そこで来た初手。

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誰だお前……

念の為断っておくが、先手が私で後手が未良々さんである。対局前の「盤外戦」が脳裏をよぎる。

だがちょっと待ってほしい。ここから中飛車もなくはない。ここまで含めて「盤外戦」、そういうエンターテイナーとしての心が未良々さんにはある……

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本当に誰だ。これには検討室もざわめき、「未良々桂偽物説」が流れていた。だいたい私の心境とも一致する。さて、私は2六を突いてしまったが、ここから四間に振ることが私は普通にある。もちろん、こちらの2六歩は中飛車想定の、予定した手順だったのだが……

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とにかく盤面と心を落ち着ける。さて、変わった形に見えるかもしれないが、これが私の得意戦法の「陽動振り飛車」である。普通、振り飛車で2六は突かないという心理を利用し、相手を矢倉にでも組ませて作戦勝ちを目指すという野良で向いていて大会では向かない戦法である。

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これは第一期の名乗り。なぜこの名乗りをやめてしまったかと言うと、

1.単純に奇襲戦法を名乗るのは不利

2.対抗形でないと使えないので、振り飛車相手には使えない

という事情があった。第二期V名人戦でも指すとは思っていなかったが、ここに来て突然「得意戦法」を指すことになった。

とはいえ苦しい。こっちは中飛車用の定跡を確認していたのである。対抗形、たとえば藤井九段の『四間飛車上達法』はしばらく確認していない。盤上とは別に、心理的に不利は強く自覚した。

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手順に進み、未良々さんは4五歩仕掛けで攻めてきた(棒銀じゃないのか……)。こちらは銀冠の組み途中である。2七銀と上がれれば2六歩の顔が立つのだが、その瞬間仕掛けられるのは想定内である。なので素直に高美濃で様子を見た。

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さて、仕掛けが始まってからの私の応手。ここはきっちり準備していれば6五桂と飛べたと思う。以下△同桂▲同飛車△6四歩みたいに進行したのだろうか。私は居飛車も持つので、未良々さん側の陣形が気になる。特に7七角がすごい嫌。ここを守れないのが居飛車の辛い所である。飛車取りと1一角成が受からない。そして、この筋があるから7七の桂馬は負担で、ここに桂馬を跳ねさせるのが4五歩仕掛けの狙いと言って良い。

さて、ここで未良々さんは△7六飛と受けてきたが、どうだろう。私が居飛車を持っていたら素直に△8九飛成でもしていそうである。ここまで来たら後手は攻め潰すしかない。

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さて、適当に捌いて未良々さんの手番である。ここで△4九角は部分的に成立しそうだが、5七の銀のせいでこちらの飛車に紐がついている。なので、指し過ぎではある。とはいえ検討室は角切りに期待の声が上がっていた。

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さて、ここは私が優勢を逃した局面。ソフトの読みでは▲6三角成△同金 ▲7四歩打でバラバラにできると主張している。

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そんな手、読めるはずもないので平凡に桂打ち。とはいえ、↑の手順は読みたかった。しかし私はすでに時間を使い切っていた。4五歩仕掛けへの対応を思い出すのに時間を使ってしまったのだ。盤外戦が効いてきた。

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中盤。上手いこと捌きあったが、こちらの囲いが固い(風通しは悪いが)。平凡に指して勝ちたかったが……

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この辺で私が気持ち不利になったようである。香車の顔が立たなかったり、こちらの攻め駒が切れたのが痛い。そして、この後は綱渡りが続く。

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さて、なんやかんやバラされた後。この局面、詰んでいるだろうか? 詰んではいないのだが、まあ心臓に悪い局面が続いた。この辺で対局のおおよその目安時間を越え、対局だけで一時間を超え始める。

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149手目。自玉はすごく危ないが、詰まないと読んだ。私視点の配信でも言っているが、「これで詰むなら仕方ない」の精神である。

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疲れが現れたような手。一応詰めろだが、受け方は色々ある。本譜は△5五香。パッと見てわかりやすい詰めろがなかった……と言いたいが、まあけっこう簡単に詰んでいたらしい。しかし対局開始から1時間20分、一手60秒では慎重に指さざるを得ない……というか、普通に手が見えない。

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さて、問題の局面。180手目。対局時間は1時間30分に迫る。もちろん私の読みは▲8三玉△8二金▲同龍……で龍をむしられる手順である。もしこの順で進んだらものすごく玉が安全になったので勝ちだった。しかし疲れた頭では正しい手が見えない。

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引いて金打ちで詰みである。最後は諦めない心を持っていた未良々さんの勝ちである。

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130手以降の体力勝負になったあたりでお互いの評価値が揺れるシーソーゲームになった。とはいえ基本、正しく受ければ勝ち、そして正しく指せば勝ちという将棋だった。V-B鹿でも強豪の未良々さんから星を奪えなかったのは残念と言えば残念だが、配信は盛り上がったようである。私からすればそっちの方が重要なので、目的は果たされたと言える。

「見ていて楽しい将棋を指したいと思います」これが私の大会参加時の事前回答だったのだから。

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