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最高のプロダクトのためには一切の妥協なし——U-NEXT、Google Cloud「Media CDN」世界初導入の裏側

U-NEXTは、Googleが2022年4月から提供を開始したGoogle Cloudの『Media CDN』を導入。世界初の事例として公開されました。

Media CDNは、GoogleがYouTubeで培ってきた配信基盤技術を活かしたもの。U-NEXTにとっては4つ目のCDNで、更なる視聴体験向上を目指した上での導入となりました。今回はその経緯と裏側を、​​CTO(Chief Technology Officer)のLi Rutong(リー・ルートン)に聞きました。

編注:CDN(Content Delivery Network)とは事業者が提供する分散配置されたキャッシュサーバにキャッシュを置き、エンドユーザーから最も近い経路でデータを送る仕組み。マスターのサーバに負荷が集中するのを軽減できる。

U-NEXTも伴走した、Media CDNという新プロダクト開発

──はじめに、今回Media CDNを導入することになった経緯を教えてください。

Rutong:U-NEXTでは、以前からGoogleの「Cloud CDN」を試験的に運用していました。ですが、このCloud CDNは我々のようなオンデマンドサービスではなく、Webサイトをはじめとする比較的キャッシュが効きやすいコンテンツ・サービスを想定して提供されているものです。

一方U-NEXTは、作品レコメンドをはじめユーザーごとにサイトの表示を変更したり、大容量の動画ファイルを細かく分割して視聴環境に応じて配信したりと、リアルタイムに最適化するサービスです。ゆえに、あまり相性が良くありませんでした。

ですが、Googleには我々と同じようにオンデマンドで動画を配信するサービスがある。YouTubeですね。そこでGoogleのプロダクトチームに、YouTubeで培った技術を活かしたCDNを提供してもらえないか相談を持ちかけたのです。

——それがきっかけで、Googleが開発を始めた?

Rutong:いえ、そう単純ではありません。我々のようなニーズはおそらく世界各地であったでしょうから。それを受けつつ、Google側の事業タイミングとしても合致したのが、相談をしてから1年ほど経った頃でした。「動画配信に特化したCDNの開発に取り組む」と連絡をいただいたので、我々としても協力する旨を伝え、開発をサポートする体制を整えました。

──U-NEXT側ではどのようなサポートを?

Rutong:まずはユーザーインタビューでユースケースを共有。その上で、α版からテストに参加し導入を想定した動作検証などを一緒に進めていきました。先方のエンジニアと直接やりとりしつつ、課題感や動作上の不具合を伝え、その場で修正してもらう……といったやりとりを繰り返しました。

PMや営業等を介さず、エンジニア同士のやりとりだったので、コミュニケーションコストが低く、スピード感あるやりとりができました。両社とも「エンジニアの裁量が大きい」という組織文化が共通していたのが功を奏したのでしょう。かなり近い距離感で進められましたね。

——テストユーザーというよりは、チームのような距離感でしょうか?

Rutong:そうですね、強いて言うなら「一緒に作る仲間」というウェットな感じではなく「同じ目的に向かうパートナー」といった温度感でしょうか。ですが、エンジニア同士で関係性を作れていたので、PMや営業が入り契約条件などをまとめる段ではかなりスムーズに合意をできました。

わずか数%でも、最高の体験に向けて投資する意志

──Media CDNを導入する前の時点で、U-NEXTではすでに自社、国内事業者、AWSと3つのCDNを擁していました。そこに4つ目を加えようとしたのは何故だったのでしょうか?

Rutong:これはひとえに「最高のプロダクトを作り、ユーザーに届けたいから」です。広くWebサービス全般を見ると、1つのCDNでまかなっている事業者も少なくなく、3つでもかなり丁寧に冗長化しているとは思います。

ですが、いくら3つのCDNがうまく稼働していたとしても、高負荷時には遅延が生じるなど、視聴体験を毀損することが起こってしまう。もちろん、その割合はほんの数%で、頻度も稀です。

ですが、もし4つ目のCDNを導入してこれが解消されるなら——そんな試算をした結果、確かに効果が得られそうだとなったため導入を決めました。

特にCDNが関わってくる部分は、配信品質や再生開始までの待ち時間など、ユーザーが“コンテンツを楽しむ”すぐそばにある部分。「何も違和感を覚えることなく、作品を楽しめる」ためには、とても重要だと考えています。

Media CDNを導入したU-NEXTのサーバ環境

──なるほど。他方で稀に起こる数%のためだけと捉えると、大きすぎる規模の予算・リソース投下にも見受けられます。投資対効果はどのように考えられたのでしょうか?

Rutong:それで言えば、「考えていない」といえるかも知れません(笑)。正確に言えば、“投下する予算によってカバーされる人数規模”だけでは判断していない——といいましょうか。

U-NEXTは、「わずか数%であっても、良くない体験を届けている」状況を許したくない、その状況に満足しないんです。「たった数%」ではなく「数%も」と考えています。これは、CDNに限らずプロダクト開発全般において一貫した考え方です。我々は、最高のプロダクトを作り、ユーザーに届けたい。

開発チームやCTOの私はもちろん、代表の堤さんを含めた経営陣の間でも、この考えは共通しています。ゆえに、「質を向上させるために投資する」という議論において、投資対効果を詰めるような議論で時間をとるようなことはありません。短期的には割に高くとも本質的にユーザーの価値になるなら「妥協しなくていい」という結論に至ります。

ユーザーにとっての“最高”へ終わりなき道

──Media CDNの導入から2ヶ月が経ちます。ユーザー体験には変化がありましたか?

Rutong:基本的には“狙い通り”ですね。

これまで取りこぼしてしまっていた方々にも、これまで以上に安定したより良い体験を届けられるようになりました。ここからチューニングと最適化を重ね、さらなる品質向上に努めていこうと考えています。

──導入すれば完了ではなく、アップデートを重ねていくんですね。

Rutong:そうですね。「最高のプロダクトを作り、ユーザーに届ける」ためにはさまざまな側面から継続的にアプローチが必要です。配信の質はもちろん、サービスのあらゆる体験はまだまだよくできる。

ユーザーにとって“最高”を追求し続けるために、引き続き妥協せずに取り組んでいきます。

本内容は下記Google Next’22のセッションでより詳しくお話ししています。