没ネタ祭「日記」

特定少数の皆様こんばんは、ウネリ本体です。時は2006年(鎌倉時代よりちょっと後です。)私は毎日毎日、ネット上に日記を書いておりました。2年弱書き続けた当時の文章はサービス終了によって電子の海に消えました。(日記が「ブログ」へと移り変わって行く時期でした。)全てをコピー&ペーストすることは流石に面倒で、記念碑的に、割と無作為にサルベージしたものをメモリカードに保管、それから早、幾時代。
昨年noteを使い始めた際に思い出し、下書きに放り込みました。
折角なので手は入れず、裸体を晒して少しずつ供養したいと思います。

2006/2/21 (火) 「食or飲。」

コーンスープは食べ物ですか?それとも飲み物ですか?
ぼくはなんとなく食べ物だと思っていたのですが、ファストフードのメニュでは「ホットドリンク」ですね。やや違和感。

アイスクリームは食べ物ですか?それとも飲み物ですか?
ぼくは食べ物だと確信していたのですが、明治生まれの百鬼園先生は作中何度もアイスクリームを「飲んで」いました。やや違和感。

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2006/2/26 (日) 「夜。」

本当に久しぶりに、ゆっくりと落ち着いて酒を飲む。

早めに風呂を済ませてから缶ビール。音楽も流さず本も開かず、床に座ってただ黙々と、たまにひとりごとを云いながら飲む。炭酸でお腹が膨れたので食事は割愛して、安ワインを空ける。お湯を沸かしてコーヒーを飲み、煙草を一本灰にする。

二杯目のウイスキーを飲み干した頃、酔いがゆらゆらとやってくる。ぼくの酔い。気の良いろくでなし。やれやれ、またお前か。「調子はどうだ?」なんて馴れ馴れしく、ぼくの肩に手を回す。煙草の灰をぽろぽろこぼして思いつくままに話をする。どれもたいした話じゃない。朝日が射せば一瞬で音も立てずに蒸発する、そういう類の話。たとえば丸い氷について。たとえば真冬の花火について。たとえばちいさな象について。たとえばオードリーの奥歯について。その華麗なフォルムと強度について。にやにやと嗤い、煙を吐き、調子っぱずれな口笛を吹く。聞いたことのない、いかさまな曲。

「なあ、それって何て曲だ?」
「『憂いの王、もしくはふがふがフーガ』だよ。あんたの為に作ったんだ。」

あっそう。勝手にしなよ。

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2006/3/11 (土) 「調整。」

何の予定も無いのに、朝7時半に目が覚める。

コーヒーを飲み、煙草を吸い、不図思い立って髪を切る。もう少し!ジャキ。もう少し!ジャキ!結局度が過ぎてひよこちゃんみたいな頭になる。まあ良い。床を掃いてから水を浴び、さっぱりしたのにまだ9時前。風呂とトイレを磨き、洗濯を済ませ、郵便を取りに外に出る。ちらと横目で見た自転車に違和感を覚えて良く調べるとパンク。DMの山と赤い自転車を抱えて戻り、工具を探してうろうろごそごそ、あくびをしながらのそのそ修理。また床掃除でやっとお午。ピザ屋のチラシを眺めながら缶ビールを一本。また聞いたことの無い店名だ。まったく、この街には一体何件のピザ屋があるんだ?勿論需要があるから供給する訳で、今現在もきっと様々な人々が様々にトッピングされた様々なピザを頬張っているのだろう。美味しいかい?あっそう。コップを洗い、着替えをして、自転車の試運転ついでに出かけてみる。意外に暖かい。軽く汗ばむくらいだ。春?春なのか?海沿いの道も、もう風が柔らかい。すれ違い追い抜く人々の中にはTシャツ姿の女性もいれば、コートを着込んだ男もいて、なんだか妙な具合だが、自転車の調子は良い。蛇行したり「自転車サイコー!」なんてとばしてるうちに街中に出てしまう。人が多くて乗っていられない。邪魔だ、自転車。残酷に乗り捨てて徒歩で本屋とレコード屋。何件も回った挙句、結局最初の店で本を4冊買い、レコードは諦め、知人の店でビールを二杯飲んで帰る。野菜のごった煮的スープを作り、本を読み、シャワーを浴び、髪を洗いながら「あ、そっか、切ったんだっけ。」とか独り言を云い、乾いたシャツにアイロンをかけてそろそろ今日も終わり。平穏で単純で年表には決して載らない一日。

歯車の乱れを、直すための一日。

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2006/3/21 (火) 「意地悪。」

悪い癖で、目を閉じているが眠れない。
時計を見て、溜息をつき、冷蔵庫の事でも考えてみる。

ぼくの冷蔵庫。独り暮らし向けの、小さな冷蔵庫。黒くて、ボロくて、年季の入った冷蔵庫。
近所のガラクタ屋で、三千五百円で手に入れた。三年近く前の事だ。
ドアにも天板にも無数の傷が入っていて、それを隠すためにべたべたと沢山のステッカやちらしを貼り付けている。大学のサークル室だとか、貸しスタジオのカウンタの横に放置されてる類の、素敵に惨めな冷蔵庫だ。
冷凍室には製氷皿が二つ。食パンが二枚か三枚。多分三枚だ。グラスが二個。ウォッカが一本。三分の一位残ってるかな?ぼくは最近、あまりウォッカを飲まない。
冷蔵室にはスープ用の牛乳。卵が二個か三個。多分三個だ。バターが少しと味噌。ワインが一本。ビールが数本。何本だ?ハイネケンが三本、エビスが五本?いやハイネケンが五本でエビスが三本、か。待て待て。ハイネケンは四本だ。これは間違いない。じゃ、エビスは?

ぼくはもう一度時計を見る。溜息をつく。五分も経っていないじゃないか。

「勘弁してくれよ。」
と弱音を吐く。

勿論、勘弁してくれない。夜は、いじわる。

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2006/3/26 (日) 「天狗。」

今日もまあいつもの通り、野菜スープを作っておりまして。
連日の事、手順なんて体が覚えてるわけでして。
鼻唄交じりで作成するわけでして。

正直申し上げて、ちょっと気が抜けておりました。
初心を忘れておりました。
天狗になっておりました。

たまねぎにんじんその他放り込んで蓋。
しばらく本でも読んで、さてそろそろブロッコリーでも投入するかと蓋を開けてみたら、水。

火をつけておりませんでした。

失態です。ありえません。

おなべの中ではにんじんたちが、
「ねえ、ぼくたち、風邪引いちゃいますけど?」
と云った具合に身を寄せ合っておりました。
身を、寄せ合っておりましたよ。
「ねえ拷問?これって何かの罰ゲームなの?」
と云った具合に。

すまん、みんな。

俺はちょっと、天狗になっていたよ。

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2006/3/28 (火) 「夢見。」

一晩に二つか三つ、夢を見る。
殆どの夢は何事も無く、軽く会釈をしてぼくの中を通り過ぎて行くが、ある種の夢はぼくを乱暴に叩き、綻びを広げて入り込み、汚れた足跡や、吐いた唾や、酷い時にはひっかき傷さえ残して去ってゆく。その傷に「何か」が触れると、また繰り返し同じ夢を見る事になる。やっかいな物だ。

半年に一度くらい見る夢。
小さくて汚れたスクータに乗り、咥え煙草で走ってゆく。海沿いだったり街中だったり道は毎回違うのだが、どこかで必ず、急な右カーブに出会う。
右カーブ。まったく冗談みたいな右カーブだ。曲がっても曲がっても先が見えない。少しずつ速度を落とす。それでも曲がり切れない。曲がり切れないぜ?ブレーキ!ぼくはスクータを降り、路肩に停めて、歩いて先へ向かう。カーブを抜けると森がある。薄暗い森だ。(この森については、ぼくはあまり詳しく話したくない。とにかく薄暗く、重く、物音ひとつしない森だ。思い出しても吐き気がする。あの森の空気を五分吸うくらいなら、冷蔵庫の中で長靴を齧って過ごす一生の方が何倍も何倍もマシだろう。)

ぼくは狂ったみたいに叫びながら、擦り傷だらけで森を抜け出す。

そして目の前の風景を見て、道を間違った事に気付くのだ。

置いて来てしまったスクータの事を考える。どうしても取りに帰らなければならない。

またあの森を抜けて?また、あのカーブを曲がって?

冗談じゃない。冗談じゃない。冗談じゃない。冗談じゃない。
冗談じゃない。冗談じゃない。冗談じゃない。冗談じゃない。

「絶望」って多分、ああ云う気持ちの事だろうね。

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2006/3/29 (水) 「賑わい。」

春って奴は賑やかだね。

あちこちで、桜が咲き始めている。
同じ枝でも足並みはばらばら、思い思いに咲いたり眠ったり。
不思議なものです。
桜の蕾にも、それぞれ個性があるのかもしれない。

「な、今日ってなんか、春じゃないか?」
「出たよ、お得意の勝手に春宣言。何度目?今年何度目?」
「や、今度は本当っぽいよ。天気良いし。あったかいし。ね、咲く?もう咲いちゃう?」
「咲かねえよ。また来るって寒波。毎年そうじゃん。咲いたら雨じゃん。俺はもう騙されねえよ。」
「あーなんか開きそう。」
「いや聞けよ!そして咲くなよ!絶対後悔するから。泣くぞ。また今年も泣くぞ。」
「判ったよ。理解しましたよ。我慢しますよ。」
「いや開いてんじゃん!うっすらと香り立ってんじゃん!我慢するとか云いながら、おしべの根も乾かない内に咲き始めてんじゃん!」
「その言い回し、すごく語呂が悪いね。」
「俺は咲かねえぞ!絶対!」
「野暮だな~。ホラ良い天気だよ?ぽかぽかだよ?思い切って咲いてみなって。良く言うだろ、『莫迦と何とかは使いよう』ってさ。」
「ハサミを伏字にする意味を尋ねても良いかね?」
「ああ気持ちが良いねえ。春だねえ。」
「いや、聞けよ!そして咲くなって!」
「まったく気持ちが良いねえ。春だねえ。」

あっは。
あるんだろうな、個性が。

あちこちで、桜がそんな議論をしてると思うと
やっぱり賑やかですね、春って奴は。

(未了)