🐉衣装歴史学 其の一、坂本龍馬　七十二

七十二、

第二期の征討戦は形こそほぼ徳川連合軍の自壊により収束した。初戦の東部方面の勝利と西部で何とか小倉を落とした事もある。逆か…長州勢の初戦の勢いで幕府軍が総崩れ、とも。これはどっちの方面から見ても可であろう。もっと多角的に、綿密に戦争事象を追えばもっと色んな結論が導き出せる。我々は先へ進む。

長州征討の始末で世論が覆った。長州への制裁措置は天皇直々の勅命だったが、それを徳川は果たせなかった。半ば反乱軍（皇室に対する）だった過激尊王攘夷派に持ち直し、立て直し、の機会が訪れた、というよりは勇壮に言って“勝ち取った”、と。長州にとって更なる幸運は孝明天皇の崩御。怒りを一切解く気がなかった帝が亡くなった。

宣旨を受けた徳川が暴徒の巣窟の長州を制圧出来なかった。

これは朝廷にとって恐怖だった事だろう。

地方の蛮族を討ち倒すのが本来的に“征夷大将軍”という役職なのだから。

民レベルでの意識の改変も起こった。

現代でもそうだが、弱者が強者に勝つと、民は沸く。

この戦争の勝利で民レベルの意識の変化の中の坂本龍馬、と意地悪く見て行こうと思う。

坂本が自分の意思であるのか将又他者、薩摩なり長州なりの意向で動いていたのか…水面下で、また地下活動、そんな行動で七面六臂していた、とか文書があるとか証言があるとか。

だがここはマクロで見たい。坂本は飽くまでも薩摩藩の居候で、薩摩の意向に逸れた行動は取れない。つまりは相当に制限があった。その制限の中、範囲内での活動しかしようがない。

故に、この長州の動乱期の“坂本龍馬”の行動は薩摩の認める所による行動であると固定していい。という事は、この時期相当に長州に肩入れしている坂本の行動は薩摩の意向の元で、そしてああいう男だからその範囲内で範囲内スレスレ、時にははみ出し、の行動であった事だろう。

そして船であるが、曰く付きのこの船、薩摩名義で長州卸の船？相当に闇が深い船であるが、近藤が舵を切っていたならもう少し判る物だっただろうが、坂本が事実上船持ちになって何をしていたのか、何か甚だ曖昧だ。戦争物資の海路輸送ぐらいにしか…まあ坂本個人の見地から考えて、

この時期の商売相手、お得意先と言ったら…

グラバー

このよく判らない出元の船で薩摩は小松の事業開拓に邁進出来たかと言えば、成立し得ない。戦争期間だけに、欧米式の軍需物資と貨幣の交換・手配・輸送でごった返していた中、

グラバー

坂本のここまでの経歴で、例えば海運業養成所時代の坂本に欧米の要人と会って直に交渉する機会は

なかっただろう
遠くで欧米人見るぐらいだっただろう

“坂本龍馬”とは現代の我々にとって、“インターナショナル”な煌めきを持ったスターである。

長州の征討戦争で、“坂本龍馬”にとって人脈の変革が、この言い方がいい、“訪れた”。

長州征討を境目に縦線を引いて、その前時代、坂本の“上”は春嶽（※勝はちと怪しい）、この境目から後に、西郷・小松そしてこの英国商の存在が坂本の人生に重きを為す。

数多ある坂本龍馬物語、しかしどの書物にも偏らない事実がある。坂本は若い時分から、本当によく冴えた年長者の元に赴き彼独特のやり方でコネクションを作って行った事。ある意味ラッキーな男でもある、いや相当に？やる気・向上心だけではあんなに上手く行かない。

一方の中岡も結構負けず劣らず。過激攘夷運動の核に突っ込んで要人と知己を得た。信頼も厚かった。儀助に真木といった…

征討期のこの頃の二人、それぞれ長州・薩摩とコネクション面での耕作で相当実りを上げたか。坂本が、個人観及び大衆の潮流に乗って徳川に見切りをつけた。一方、純粋尊王攘夷思想の中岡も欧米ルートから流れて来る特に軍需物資、これらを得て戦って行かねば体制崩す事が出来ない、実際問題として、そんな揺れの時期だった、か？この男、そこまで浅はかでもないとも思うが…兎も角も積極貿易に関心持たざる得ず。

イギリスー薩摩ー長州

イギリスー五代？ー聞多？ー長州軍東西前線

イギリスー五代？ー坂本？・中岡？ー聞多？ー長州軍東西前線

このあやふやな闇貿易の仲介手数料で坂本がどれほど利を上げたか、結構怪しい。というかほぼアガリはなかったのでは、土佐組には。資料で追うと、征討後、坂本は船を失う。契約的な問題で。残酷ではあるがそれがビジネスのリアリズム。簡単に乱暴に素っ気なく、土佐組用済み。薩摩からも長州からも。

この後、坂本は自前の船を得る為に四苦八苦して行く。元手のない脱藩浪人なものだから。そもそもの信用、トラストが低い。やはり商才は近藤の方に群配が上がるだろう。近藤であったなら滞りなく征討後も所謂“ビジネス”推し進められただろう。しかし、坂本は四苦八苦しながらももがいて自前の船は得る。近藤の様にスマートなやり方ではないが、彼独特のやり方で。

純粋尊王攘夷の中岡が欧米に関心を持たざるを得なかった事は、そのまま憎っくき“薩摩”との協調をも考えねばならなくなった事。

“カンパニー”と“政治運動”

征討後、土佐派は坂本・中岡だけに限らず藩主から藩内・藩外全ての運動家達まで、次段階の進路を見出さねばならない岐路に立った。