ミズコブラモドキの咬傷について
「ミズコブラモドキには弱い毒がある。」
これはミズコブラモドキ(以降FWC)を飼っている、知っている、既に噛まれている、という方々にはネット、書籍などを通じて有名な話である。
僕は現在1匹のFWC(11ヶ月♂)を飼っている。飼育して6ヶ月足らずではあるがこの種の力強さとシンプルな格好の良さに惹かれ、「もう噛まれてもいいかな...(錯乱)」というところまで愛して止まない蛇となってしまった。
妄言はさておきとして、飼っている蛇のことをよく知りたいという好奇心で色々と調べてみたが、上記の通り弱毒ということしかわからず。駄目元でpubmedを検索してみるとケースレポートという形でToxiconというジャーナルに載った『Local envenomation from the bite of a juvenile false water cobra(Hydrodynastes gigs ;Dipsadidae) D.E Keyler ,D.P.Richards,D.A.Warrel,S.A.Weinstein』という論文を発見することができた。今回はその論文をベースにして実際噛まれたらどうなるのか、ということを書いていきたい。
まずFWCの簡単な説明だが、動物界-脊椎動物門-脊椎動物亜門-爬虫鋼-有鱗目-蛇亜目-ナミヘビ下目-マイマイヘビ科-ミズコブラモドキ属(海外のwikiだとナミヘビ科-ミズコブラモドキ属となっているが)という分類に属している。ミズコブラモドキ属はFWCを含めて3種で構成されており、non-front-fanged colubroid(NFFC)の仲間、いわゆる後牙類の1種である。NFFCの多くは医学的にリスクの低い所謂弱毒であるが、いくつかの種類はときに命を落としたりする致命的な毒を持つもの(ヤマカガシでの死亡例)もおり、正直噛まれてみないとわからないという非常にリスキーな部分があるため噛まれた症例は臨床的に非常に貴重ということだ。
論文で登場するFWCは体長45cm、体重33gの生後一ヶ月の個体で、25歳男性のコレクターが雌雄判別しようとハンドリングをしている際に噛まれた(涙)ということだった。噛まれた部位は左手環指のPIP関節とMP関節の間(第二関節のちょい下)の背側で、なんと噛まれている間に雌雄判別をして30秒くらい放置していたとのこと。時間経過で追ってみる。(パンパンに腫れた如何にも痛そうな手の写真が載っているが著作権あるので文章のみです、すいません....)
5分以内に咬傷部位は痛みとともに温かさを感じるようになり、指に限局した浮腫が生じた。
10分、浮腫は中手骨部まで進行し、20〜30分で咬傷部位の痛みは改善する一方で浮腫は更に拡大し中手骨部背側全体に広がった。
1時間経過すると噛まれた指の先端がズキズキする感覚を覚えその際の環指、中指、示指はむくんでいた。
4時間経過すると浮腫は左手の背面全体に広がり、特に環指の痛みが強かったとのこと。
13時間後、左前腕にも軽度浮腫があり、左腋窩に圧痛が生じた。
96時間後、浮腫はほぼ完治し、まだらに斑状出血が左手の背側に点在している。噛みつかれた指の感覚異常、低温にさらした時の蒼白からなる軽度の後遺症があった。これらは咬傷後7日間継続し、臨床的に有意な所見は7日後に完全に解消された。
結果としては上記の通りである。噛んだFWCが生後一ヶ月の幼若な個体であったのにも関わらずしっかりと症状が出ていた点が興味深いところで、より成熟した個体であれば(3mを超える個体もいる)物理的な外傷性障害も起こるであろうということである。
Discussionで後々記載が出てくるが、なんとこのコレクターはFWCのブリーディングの過程で10回以上FWCにさらっと噛まれておりさらに2009年に噛まれた時は今回の局所症状よりもわずかに深刻な状況だったということだった。他にもパイソンやら何やらもたくさん飼っておりそれらに噛まれた時にはFWC咬傷のようには症状は出なかったということである。飼育の過程で日常的にたくさんの蛇と触れ合っており(排泄物や分泌物、鱗、その他諸々)今回のケースに関してはI型アレルギーによる反応の可能性も考慮に入れる必要がある。
FWCの毒そのものについての研究は少なく、マウスの腹腔内から検出されたLD50(半数致死量)は2.00mg/kgだったという報告(Glenn et al .,1992)などがある。だが、一方でガラガラヘビの毒のLD50が2.63-3.31mg/kgだったという報告(Weinstein et al.,2013,Glenn et al .,1992;Russell, 1980;Minton, 1956;Weinstein et al.,1992)などもあり、医学的にみると単にマウスでの致死量での比較では誤解を招く可能性が高いということだった。さらに分泌特性や毒の注入の仕方に加えて、これらの蛇毒が鳥類やトカゲの細胞に対して高い親和性を持ち特異的に作用すること(Weinstein et al.,2011,2013)も単純な比較では議論できないことがわかる。
今回のケースでは噛まれたのちすぐに症状が出始め局所の中程度の局所的な進行性の浮腫を引き起こした。FWCのこの中程度の症状は、ブームスラング、アフリカツルヘビ、ヤマカガシなどの人間の生命を脅かすほどの毒性を有するNFFCに噛まれた際の症状とは異なるものだったとのこと(Weinstein et al., 2011,2013)。
今回のケースではコレクターがたくさんのヘビに暴露されている(噛まれたりなんだり)既往があり、FWCの毒による局所症状だけではなくI型アレルギーによる症状も起こっていることは考慮するべき。例えば日本でも人気のあるNFFCの1種であるセイブシシバナヘビの咬傷で、I型アレルギーの症状+経口分泌/毒液成分の局所的作用が臨床的に認められた例も報告されている(Weinstein and Keyler,2009)。
NFFCを維持、収集する専門家、アマチュアはほとんどのNFFCの毒についての医学的な情報がないことを認識し続けるべきであり、摂食の前後の取り扱いは避けるべきである(戒め)。FWCに関しては今回のケースレポートを通じて、局所的な創傷合併症を引き起こし苦痛が伴う可能性があり、医師が診察する必要性があるが、深刻な臨床症状を引き起こすことは少ないと考えられるだろうとのこと。
まとめると....
噛まれるとちょっと痛くて浮腫んだり腫れたりするけど、
生命を脅かすまでではなさそう(雑)
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