フットボールと任天堂 感覚の言語化

00年代のフットボール界はグアルディオラという1人の存在による革命を起こした。
05年頃には一時停滞し戦術的にはもうすぐ行き詰まるとさえ言われていたフットボール界は彼の革命を起点に今も急速に進歩を続けている。

彼が何をやったのか。
端的に言えば「言語化」である。

かつて限られた名将が持っている位置感覚をグアルディオラは言語化した。
言語化をすることで複雑なチャートを作ることに成功したということだ。
かつて個々の即興だったフットボールはどんどん自動化して2000年代半ばには同じパターンを繰り返す再現性を強く持つようになった。
カペッロのユヴェントス、モウリーニョのチェルシー辺りは代表格だろう。パターン変更は監督の感覚をベースにした指示と選手の入れ替えによって行われる。

位置感覚の言語化によって起こったのは選手が自ら状況を見てパターンを変える分岐である。

誰にでもわかるところで言えばCB、SB、アンカーの5枚を相手の前プレの人数に合わせて変化させる判断。
常に1枚多い人数になるように調整することは理解していればどんなクラブのどんな選手でも可能だ。
5レーン理論はここに繋がる。
2人から5人まで適切な人数で最終ラインを運用する。

旧時代の指導者が一斉に勝てなくなったのは単純な自動化とチャート分岐によるパターン変更では対応力に差がありすぎることが大きい。
シメオネやクロップが台頭するなかモウリーニョが勝てなくなった理由なここにある。

フットボールの議論はさておくとして、全く別の業界で一部の天才に許されていた感覚の言語化と共有化に力を入れた日本の社長がいる。
任天堂の故岩田聡社長である。

任天堂をゲーム業界の第一人者たらしめたのは横井軍平の発想と宮本茂の肌感覚によるものだ。
画面の認識と指先へのフィードバックに宮本氏がとかく拘ったのはよく知られている。
数多の名作を宮本氏の個人的な感覚で産み出した任天堂の課題はこの肌感覚の継承だと岩田氏は判断しこの言語化に尽力した。
彼自身も天才的なプログラマーであったわけだがいずれにしても任天堂の将来にはこの言語化による継承が必要だと考えたわけだ。

今のマリオシリーズ、ゼルダシリーズの責任者に宮本氏はいない。あくまでもアドバイザー的な位置にいるだけだ。
そして、宮本氏に頼ることなく指先への肌感覚の真髄とも言えるスプラトゥーンを産み出した。

Wiiから始まったQOL路線やどうぶつの森に代表されるコミュニケーション路線も今なお継続中で、一時期停滞を見せていた任天堂のゲームは爆発的な前進を見せている。

様々な業界で天才の感覚の言語化は進む
業界が行き詰まった時は言語化と再定義が必要なのかもしれない

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