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アイスブレイク

季節の雰囲気に調和した音楽。その調べに導かれるように、想いを抱いている顧客が、Bar Bossaの扉を開く。気分に合わせたお酒を頼む者もいれば、今日はこの酒を嗜む、と既に心に決めてきた者もいる。人それぞれではあるけれども、音楽の旋律とアルコールによる心地良さ、それと顧客の機微を捉えた、店主との何気ない会話により、氷が少しずつ溶け出すように、顧客各々が語り始めていく。

本書は、時に思わぬ人物も登場するが、そのような形で、音楽、会話、お酒、恋愛、そしてまた音楽に繋がっていく絶妙な構成によって、多様な恋愛が語られている。本書の一番の魅力は、やはり、音楽、お酒、恋愛、どの点を取っても、全てが線で繋がっており、一話ごとに読者の想像を掻き立てつつ、完結している部分にあると感じている。

恋愛の形や深さは千差万別である。本書の物語の中にも、「好きです」と自分の想いを伝えて形にしようとする場合もあれば、自分の心の中に留め置いて大切にしまっておく場合もある。社会的に許されぬ恋愛もある。結果はわかっているが、正しい答えがない。自分の心の中で整理できていない何かを、このBarで振り返り反芻することで、自分の恋愛、想いを昇華させているようだ。このBarにはそのような魅力と雰囲気が醸成されている。

自分には語れるほどの恋愛経験はないと思っている。ただ、いつか、渋谷の喧騒を抜け、Bar Bossaの扉を開き、店主とのアイスブレイクを楽しみながら、自身の恋愛に浸ってみる、そのような情景や時間を想いながら、再びこの本に向き合うと、また違った趣きが感じられる本である。

#恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる

#恋はいつも文庫版解説文  

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